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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

 「東京はどうだった?」
家に帰ると、祖母が心配そうな顔で出迎えてくれた。
「困ったことは何もなかったよ。奥さんも、良い人だった」
そう言って鞄から雷おこしを取り出す。
「はい、お土産」
「あら、ありがとう。浅草に行ってきたのね。他はどこにいったの?」
私は一瞬息をのんで、なるべく冷静な声になるように気を付けながら言った。
「大学の見学、とか」
最初、祖母には聞こえなかったのかと思った。無反応の彼女の顔を覗き込む。
「おばあちゃん?」
「大学ですって?」
聞き漏らしそうなほど小さな声だった。
「あなた、上京する気なの?」
無表情のまま問われて、思わずうなずく。
「う、うん。まだはっきりとは決めていないけど…」
「そんなこと許しませんからね!」
いきなり大声を出され、びっくりして手に持っていたカバンの持ち手をぎゅっと握る。
「そんな、東京に行くだなんて、そんなこと、絶対に、絶対に許しません!」
「どうした」
奥から祖父が出てくる。
「あなた、春海が東京に行くって」
「何の話だ」
「またあの男よ!千春を連れて行っておいて、今度は春海を私たちから奪うのよ!ねえ春海、あいつに何を言われたの。騙されているのよ。目を覚ましなさい。今度は、思い通りになんてさせない…」
錯乱した様子の祖母の肩を掴んで祖父が強い口調で言う。
「落ち着け。一度部屋に戻りなさい」
「嫌です!その間に春海が出て行くかも、」
「わしが春海と話をするから。お前は二階に上がりなさい」
有無を言わさぬ口調に祖母はしぶしぶ頷いて二階へと上がっていった。その間にも、ちらりちらりと私を振り返る。
「春海、おいで」
祖父に言われ、二人でリビングへと入る。とっくに炬燵布団を片付けた机を挟んで座った。
「なにがあったんだ」
「東京の大学に行くかもしれないって言った」
難しい顔をして黙ってしまったので、また取り乱し始めたらどうしようかと不安になったが、祖父はそうか、と静かな声で沈黙を破った。
「いつから考えていたんだ?」
「1月くらいから」
そうか、ともう一度言ってまた祖父は黙り込んでしまった。


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