朗読用物語3.『ハッピーカード』 | enjoy Clover

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朗読用物語3.『ハッピーカード』

1

男「邪魔だ!邪魔だ!なんだお前は?こんなところで商売しやがって!俺の一番嫌いな占い師まがいの詐欺師か!?」


カード屋「これは通行の邪魔をして申し訳ございません。私は占い師ではなく、ハッピーカードというカードを配布している者です。」


男「ハッピーカードだぁ!?また胡散臭いもの売りつけやがって!やっぱり詐欺師じゃねぇか。」


カード屋「いいえ。お代は一切いただきません。私は必要としてくださる方だけに無料でカードを受け取っていただいております。実を言うとこのハッピーカード、まだ試作品の段階ですので、今受け取っていただける方にはお礼金も差し上げおります。」


男「なんだ?金がもらえるのか?じゃあ俺がもらってやろうじゃねぇか。いくらくれるんだ?」


カード屋「カードを受け取っていただく時に10万円、ハッピーカードにポイントが貯まればポイントに応じて幸せか現金かどちらかと交換させていただきます。」


男「10万円!?カードをもらうだけで!?その話乗った!よく分からないけどとにかくポイントを貯めれば金になるんだな?そのポイントはどうやって貯めればいいんだ?」


カード屋「ありがとうございます。ポイントを貯める方法は簡単です。ただ誰かを幸せにしようとすれば自動でポイントが貯まる仕組みになっております。」


男「誰かを幸せに…?まぁ金がもらえるならとにかくやってみるか。どうせ今日でバイトもクビになったし。」


カード屋「ありがとうございます。私はいつもここにおりますので、何かあればまたお越し下さい。」



2


男「よう。あれから1週間。ポイントを貯めてきたぜ。」


カード屋「お客様、お久しぶりでございます。さっそくポイントを確認なさいますか?」


男「頼む。この1週間、ガラにもなく酔っ払いの介抱やゴミ拾いなんかをやってきたからな。けっこう貯まっているはずだ。」


カード屋「左様でございますか。すぐにお調べいたします。お客様のポイントは…現在95ポイント貯まっております。」


男「それは換金したらいくらになるんだ?」


カード屋「現金ですと、1ポイント1円で換金させていただきます。幸せとの交換ですと…鳥のフンが落ちて来たときに当たる箇所を頭から肩に変更できる程度ですね。」


男「95円!?ふざけるな!俺はこの1週間パチンコに行くたびにゴミ拾いして帰ってたんだぜ。これじゃコンビニのアルバイトの方が何倍も儲かるじゃねぇか!」


カード屋「お気の毒ですが、ポイントは行為によって貯まるわけではないのです。もしかしてお客様、何か見返りを求めて行為を行っていませんでしたか?」


男「バカバカしい。やっぱり詐欺じゃねぇか。酔っ払っていたとはいえ信じた俺がバカだった。呆れて物も言えねぇよ。言っておくが10万円はもう酒とパチンコで使っちまったから返させねぇよ。」


カード屋「お礼金はご自由にお使いいただいて結構です。ポイントの有効期限は1年ですので、それまでにまたいつでもポイントを確認しにお越し下さい。」


男「二度と来ねぇよ。こんなところ。カードももういらねぇ。」


カード屋「それではこちらでお預かりいたしますね。その間にもポイントは貯まりますので、またいつでもお越し下さい。」


男「誰が来るかバカ野郎!」


3


カード屋「お客様、お久しぶりでございます。3ヶ月ぶりでしょうか?その後調子はいかがですか?」


男「挨拶はいい。こんなところ二度と来ないと思っていたが、聞きたいことがあってきた。」


カード屋「私にお答えできることでしたら、なんでもお答えします。」


男「今まで何の興味もなかったが、ポイントを金ではなく幸せとも交換できるって言ってたな。それは自分以外の誰かに使うことも可能か?」


カード屋「ご自分で貯めたポイントはご本人様しかご利用いただけません。例外として、本人様がお亡くなりになった場合には別の誰かにポイントを引き継ぐことは可能ですが…」


男「はは。そりゃちょうどいいや。俺が死んだらカードに残ってるポイントを家を出て行った妻の幸せと交換してくれ。医者の宣告によると俺はあと2ヶ月もたないんだってよ。」


カード屋「左様でございますか…。かしこまりました。」


男「別に死ぬのは怖くないが、どうせ死ぬならい今まで迷惑かけた妻にちょっとでも何かしてやりたい。今の俺じゃまともなことはできねぇから、お前のバカみたいに胡散臭い話も一応信じてみようと思ってよ。」


カード屋「ありがとうございます。それでは現在のポイントを確認させていただきます。」


男「どうせあれからも人に迷惑しかかけてないんだ。確認なんかしなくていい。俺のやってきたことで、鳥のフンが頭に当たらないくらいのことができれば十分だろ?95円渡すよりはよっぽどマシさ。」


カード屋「かしこまりました。ではお客様がお亡くなり次第、カードに貯まっているポイントを幸せと交換して奥様に使わせていただきます。」


男「俺がお前みたいな詐欺師の話を間に受けるなんて、死ぬ前の人間なんてまともな考えができなくなるものだな。あばよ。」


4


男「おい、久しぶりだな。ずいぶん探したぞ。お前いったい俺に何をしたんだ。」


カード屋「お客様、お久しぶりでございます。あれから1年ぶりでしょうか。お元気そうで何よりです。」


男「あれから病院に行ったら、末期状態だった肺癌がさっぱり消えていた。お前の仕業か?」


カード屋「私は何もしておりません。お客様がご存命ですのでまだポイントも交換していませんよ。もっとも、以前いらっしゃった時に貯まっていたポイントはちょうど昨日で期限切れとなってしまいましたが。」


男「俺の身体からは癌が消えて、家を出て行った妻が帰ってきた。いったいどうなってるんだ?」


カード屋「因果関係とは断言できませんが…。」


男「何だ?」


カード屋「昨日でカードのポイントが期限切れになる日だったので、その時にポイント履歴を拝見させていただきました。」


男「…」


カード屋「あの日から、ポイントが急激に貯まっていました。以前ある宗教の方にカードをお渡ししたことがあるのですが、毎日神に祈りを捧げるその方の何倍もポイントが貯まっていましたよ。よほど誰かのことを想われたのでしょうね。」


男「そのポイントを使って、俺の癌は消えたのか?」


カード屋「いいえ。私がお客様の意思を確認せずに勝手にポイントを幸せと交換することはございません。確認できる現象だけ述べますと、急激にポイントが貯まるほどお客様が誰かの幸せを心から祈った。その後に、お客様のお身体から癌が消えた。それだけでございます。」


男「理由なんてどうだっていいさ。お前の仕業じゃないにしても一応お前に礼を言っておく。癌が消えてから酒もパチンコも辞めて、今はまともな仕事をしているんだ。」


カード屋「左様でございますか。それは何よりです。ポイントは期限切れになりましたが、引き続き、お客様がお亡くなり次第、その時点で貯まっているポイントを幸せと交換して奥様に使わしていただくような設定にしておきます。」


男「いや、それはもういい。妻は、俺が生きているうちに俺の力で幸せにするよ。そんな便利なカードがあるとまた怠けちまいそうだ。」


カード屋「かしこまりました。では、カードは破棄させていただくということでよろしいですね?」


男「よろしく頼む。」


カード屋「かしこまりました。また何かございましたら、いつでもお越し下さい。」


男「ははは。前にも同じセリフを言ったけど、結局また来ちまったんだよな。最後にもう一度言わせてもらう。ここにはもう二度と来ねぇよ。あばよ。」


(完)

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