黒田基樹編「岩付太田氏」は、太田資正に関する貴重な論考を集めた素晴らしい本ですが、“書籍として出版されている論考は選外とする”との方針のもと、岩付太田氏の研究で著名な新井浩文氏や湯山学氏の論考は読むことができずにいました。

しかし、探せばあるものです。
市内他区の図書館で、新井浩文「関東の戦国期領主と流通ー岩付・幸手・関宿ー」を見つけ、借りることができました。

新井氏の論考は、引用した書状等の文献に現代語訳を一切つけてくれない本格派(笑)。史学素人にはなかなか辛いものがありますが、それを補って余りある面白さのお蔭で、なんとか読み進めています。

特に面白いのは、第四章『太田資正と北関東の諸勢力』。上杉謙信が、「越相一和」と呼ばれる講和を北条氏と結ぼうとする中での謙信と資正の書状のやり取りを追っていく論考です。

太田資正は、関東管領となった上杉謙信に仕える身ですが、関東に居を構えていない謙信が関東勢と付き合う上での総元締めのような役割を担っていました。
また、関東勢にとっても、資正は謙信とやり取りを交わす上での重要な仲介者でした。

それ故、岩付という領国を失って尚、資正の存在は大きく、関東での威を失いつつあった謙信が資正を頼りにした様子が、書状から分かります。
謙信と北条氏の講和条件が、最後は資正の岩付復帰の際の領域の広さて揉めたことそのものが、資正の存在の大きさを示しています。

新井氏の論考の面白さは、資正が「越相一和」に対して意見することで、北関東諸勢力の対外交渉のキーマンとなっていったことを指摘してみせたところでしょう。

謙信の関東入りをきっかけに関東の緒勢力の元締めとしての地位を取り戻した資正が、今度はその地位を利用して謙信と対峙する。

資正は、一筋縄ではいかない男です。
関東の戦国期領主と流通―岩付・幸手・関宿 (戦国史研究叢書 8)/新井 浩文
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