地下鉄サリン事件③「地下鉄サリン事件」 | 村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫は何故殺されたのか?徐裕行とは何者なのか?
オウム真理教や在日闇社会の謎を追跡します。
当時のマスコミ・警察・司法の問題点も検証していきます。
(2018年7月6日、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らの死刑執行。特別企画実施中。)

●集合
午後9時30分。渋谷区宇田川町にあるマンション。
林郁男、廣瀬健一、林泰男、豊田亨、横山真人の実行犯5人、
新見智光、杉本繁朗、外崎清隆、北沢浩一、高橋克也の5人が集まっていた。

そこへ飛び込んだ井上が小躍りしながら叫んだ。
「やった!やった!新聞に出るようなニュースになるよ!」
18歳で出家し、麻原の茶坊主になった井上は、自作自演の成功に有頂天になっていた。

井上は集まった信徒たちと作戦会議を開き、サリンを散布する時刻は午前8時、散布は降車する直前にすること、実行役は降車駅の二つか三つ手前の駅で乗車することを決めた。

午後10時頃、数台の自動車に分乗して、それぞれの担当する路線の乗降駅に行って下見をし、電車の発車時刻や、サリン散布後の降車駅付近の待ち合わせ場所を確認した。


●3月20日
午前0時。井上は実行者たちを送迎する車5台の手配を終えると、サリンを受け取るために上九一色村の教団施設に向かった。



午前1時30分。上九一色村にいた村井は、渋谷アジトにいる林泰男に電話をした。

村井「サリンの用意ができたから、これから撒き方を教える。実行者は5人とも、午前3時まで第7サティアンへ戻ってくれ」

林泰男「えっ?アーナンダ師長が、そっちへ行っていますよ」

林泰男「これから撒き方を教えると言われても、午前3時には間に合わない。無理に行ったとしても、とんぼ返りしなければなりません」

村井(林泰男の言い分などどうでもいい。これは尊師の指示だ。)

村井「とにかく実行者は、第7サティアンへ来てくれ」
一方的に命じると、村井は電話を切った。

林泰男(いつもの通り…自分勝手な人だな)
林泰男は、サリンは村井が上九一色村から渋谷まで持ってくると思っていた。オウムには、ステージが上の者が決めたことに説明を求めてはならない戒律がある。実行役5人は渋谷のアジトを出発した。

電話を終えた村井のところへ遠藤が段ボールを持って現れた。
遠藤「できました。全部で11袋あります」

村井「ジーヴァカ正悟師、ご苦労だったね」
突然与えられた任務を果たした遠藤に、村井は満面の笑みをたたえてねぎらった。

その後、村井は、井上が上九一色村の教団施設に向かっていて連絡がとれないことを麻原に報告した。

午前2時。
「何でおまえは勝手に動くんだ!」
麻原は、上九一色村へ戻って来た井上に怒鳴った。

落ち込む井上のところへ村井が現れた。村井は井上にコンビニで買い物をしてほしいと頼んだ。

村井「サリンを詰めたポリ袋を地下鉄の電車内で突き破るために、先が金属の傘が7本ぐらい要るんだよ」

2時45分。早速井上は、静岡県富士宮市内のセブンイレブンへ出かけ指示通り7本買い、第7サティアンへ戻って来た。

それを受け取ると村井は「科学技術省次官」の滝澤和義を呼び、急いで指示を与えた。

村井「グラインダーで傘の先を削って、鋭く尖らせてくれ」

滝澤が傘の先端を削るのを、井上も手伝い、傘の柄の部分を支えた。
機械が唸るように轟音をあげ、傘の先端が削れていく。村井は井上に近づき、耳元で囁いた。

村井「まもなく実行グループが到着して、サリン発散の実験をするから、アーナンダも見ておいた方がいい」


午前3時。上九一色村の第7サティアン前に、東京から乗用車2台が到着した。車内で熟睡していた林郁男が、林泰男から起こされ冷えきった車外へ出て来た。

表で待っていた村井は、5人を第7サティアン1階の奥にある通路のようなところへ案内すると、井上を立ち会わせて5人の実行者に説明した。

「サリンをまく対象は、オウムを弾圧している警察や裁判所のひとたち。彼らの多くは霞ヶ関におりす。みんなはそれぞれ違う場所に行って、霞ヶ関駅の2、3駅前にサリンを発散して逃げます。そうすれば霞ヶ関で死ぬでしょう。」

「サリンのポリ袋を、地下鉄の電車のなかで、ビニール傘の先で突き刺して、漏出・気化させる方法をとる。ポリ袋は二重だから、地下鉄に持ち込む前に、必ず外袋をはずすこと。突き刺すときは、袋を床の上におく。そうしてサリンを漏出させたら、すぐに電車から降りて逃げる。傘には指紋が残るので、持ち帰ること。突き刺したとき、サリンが付着した傘の先は、水で洗い流すこと」

サリンが入ったポリ袋は、壁際の段ボール箱の中に積み重ねてあった。その手前に、先を尖らせたというビニール袋が、店先においてあるときのように、セロハンをかぶせたまま立ててある。そこへ遠藤誠一が、ポリ袋を5個ほど持って来たので、早速村井は指示をはじめた。

「先ほど、大阪道場に警察が入りました。よいよ戦争です」

3月19日、大阪支部の脱会希望の大学生を拉致したとして、大阪府警が家宅捜索を行い、信者3名が逮捕されたのである。そのため、教団が追い詰められるのも時間の問題だと村井は感じていた。

「この袋には、水が入っている。実験を兼ねて練習をするので、ビニール傘を使って、皆で突き刺してくれ」



実行者の中の2人ほどが、水の入ったポリ袋を突くと、穴が開いて水が勢いよく飛び出した。

林泰男「これではサリンの広がりが早過ぎる。ポリ袋のままでは、電車の中で目立つから、新聞紙で包んだ方がいい」

提案したのは林泰男だった。言い出した本人が、実際に新聞紙でポリ袋を包み、先ほどと同じように、ビニール傘の先で突いた。すると新聞紙が、ポリ袋から出た水で、じわりと漏れていった。

村井「さすがヴァジラチッタ!これで決まりだな!」

上機嫌になった村井は、段ボールからサリン入りのポリ袋を取り出し、皆に問いかけた。
「袋の大きさと、容量はおなじである。ただし、ぜんぶで11個だから、5人で分けると1個余るが…誰か引き受けてくれますか?」

林泰男「じゃぁ、私が引き受けます」
すかさず林泰男が名乗りを上げた。

林泰男の態度を見て村井は、ニヤニヤしながら軽口をたたいた。
村井「やはり…予想した通りだよな」

村井「尊師も私もヴァジラチッタが取ると思っていたんだ」

これを聞いて林郁男はとても嫌な気持ちになった。
村井の表情が、実行犯たちを賭けの対象にしているかのように、人の心を弄んでいるかのように思えたからだ。

しかし村井はいつもの屈託のなさで、実行グループにこまかく指示した。

村井「指紋がつかないよう手袋をつけておくこと。サリン袋を包んだ新聞紙から、オウムとわかることがないように気をつけてもらいたい。たとえば、上九一色村に出回るような新聞はよくないから、3月20日付けの朝刊を、東京で入手して使えばいい」(実際は「聖教新聞」や「しんぶん赤旗」が使用された。)

そのあと村井は、遠藤誠一に命じた。

村井「ジーヴァカ。例のクスリを配ってくれ」

遠藤は銀紙でパックした「メスチノン錠剤」を取り出し、五人の実行者に一錠ずつ配った。

遠藤「ヴァジラティツサから預かった、サリン中毒の予防薬です」

透明感のある、茶色い液体が入っていた。

村井「まさに戦争やな。サリンを撒くころには機動隊がここに来ているかもしれない。頑張れ」


車は都内のアジト「渋谷ホームズ」へ向けて出発した。5人の実行犯と5人の運転手が集合した。
集結後、実行犯達は傘でビニール袋をあげる練習をした。解毒用に硫酸アトロピンが配布された。

3月20日朝6時。
実行役5名はそれぞれ運転手役と共に、普通乗用自動車5台に分乗し、渋谷ホームズを出発した。

車内でサリン入りの袋を聖教新聞に包むと、実行犯たちは地下鉄へ入っった。列車に入ると、いつも通り職場へ向かおうとしている乗客たちが、すし詰めされていた。

アナウンス「ドアが閉まります。ご注意ください」

扉が閉じた列車は徐々に速度を上げながら暗いトンネルへ吸い込まれて行く。

車内の人たちは無言だった。林郁男は怪しまれないように、カバンからこっそり袋を取り出した。
袋はぽとん、と音を床へ落ちた。林郁男は、その瞬間が来るまで袋を見つめていた。


林郁男「…高い世界へ転生してください」



3月20日朝7時30~8時頃 サリン散布
 



①日比谷線(北千住発)実行犯:林泰男 運送役:杉本
8人が死亡、2475人が重症。

②日比谷線(中目黒発)実行犯:豊田 運送役:高橋克也
1人死亡、532人が重症。

③丸ノ内線(池袋発)実行犯:廣瀬 運送役:北村
1人が死亡し、358人が重症。

④千代田線
実行犯:林郁夫は、運送役
2人が死亡し、231人が重症。

死亡者 13人
負傷者 約5,510人(検察の認定3,794人、警視庁が把握した被害者数6,226人)