Smile Girlsさんには当ブログをみなさんに見て頂くにあたり、大変お世話になっております。有難うございます。

本日は、Smile Girls 代表 菫さん のケースを取り上げます。


子宮頸癌 再再発  stageⅣ

多発リンパ節転移 (骨盤 両側縦隔 両側肺門 左鎖骨上窩) 

肝転移


今後、症例として提示し、解説を加えながら、子宮頸がんstageⅣの治療戦略を紹介したいと思います。

私が最初に出会ったのは、再再発したのをきっかけに広島から状況して間もなくでした。

手術→補助化学療法→再発(傍大動脈リンパ節転移)→腹部および骨盤部CCRT→再再発多発リンパ節転移(両側肺門・縦隔リンパ節、右総腸骨リンパ節、左鎖骨上窩)多発肝転移(3か所)という経過で来院しました。


これだけ全身に広がっている場合の標準治療は化学療法のみです。しかし、みなさん御存知のように、残念ながら抗がん剤はしばらくすると効かなくなります。
最初の抗がん剤が効かなくなると セカンドラインと言われる治療で一時的には改善しますが、再び効かなくなり、限られた抗がん剤を使いつくした時点で 「もう治療はありません 緩和に行きましょう」と言われることが多いかと思います。


ここで、患者さんには二つの選択肢があるのかなと思います。
一つは、標準治療というものを受け入れて今の時点では治らないかもしれませんが、治療して延命していくうちに、新たな治療法が開発されるのを待つという選択
もう一つは、現存している医療を全て使っていく集学的治療を模索するというものです。

生き残るという観点で 必ずしも前者を選ぶ必要はありません。乳がんなどは前者の方がいい場合も多いと考えています。(乳癌のブログで紹介予定)

菫さんについては、後者の集学的治療を選択して頂きました。

再再発し、生命の危機に直面していても、彼女から初診時から今に至るまで一度も手術をして下さった主治医のF先生の悪口を聞いたことがありません。
それどころか、手術の腕のいい名医だということを繰り返し言っていました。手術中 傍大動脈リンパ節も廓清しようか迷ったけれど、標準的な術式にしたのが再発の理由と主治医のF先生も後悔していたと。。。
菫さん、全身転移で根治を目指すことを批判されかれない再再発患者さんに根治を目指す治療をすることを決心できた理由はここにあります。
菫さんをご紹介して下さったS先生は 婦人科がんの治療を教えて下さった私の恩師であり、婦人科がんの名医として今も尊敬する存在です。
そのS先生が、私に、『根治を目指して治療して下さい』と、菫さんを私にご紹介された根拠は、10年前に一例だけ左鎖骨上窩に数㎝のリンパ節転移があった、30代後半の子宮頸癌の症例でした。
彼女は女医さんだったから、本人の強い希望もあって左鎖骨上窩も耳鼻科で手術してもらって、今も元気ですよと。


とはいえ、確かに鎖骨上窩のサイズは菫さんの方が小さいものの、こちらは両側肺門・両側縦隔というより大きなハードルがありました。
また、その患者さんは女医さん。。。こういう激しい治療は 単なる同意では全く無理で、一緒に闘い抜く信頼関係が欠かせません。
同業者の女医さんであれば可能かもしれませんが、広島から突如として現れた患者さん、菫さんが、S先生からのご紹介とはいえ、初診時に私に対して 女医さんがS先生に対して持っていたような信頼をもつことは難しいと思いました。

鎖骨上窩リンパ節転移の意味は、血行性転移・肺転移のフロントラインという意味があります。つまり、いつ多発肺転移が起きてもおかしくない状況にあるということです。
(このことについて詳しい解説を一度書きましたが、ここでひっかかるとお話しが進まないので、詳しく知りたい人へという形で、改めて別の機会にブログにアップします)

そこで、菫さんに最初に実施したのは通常の全身化学療法です。タキソテール(ドセタキセル)とシスプラチン。プラチナ製剤は カルボプラチンとシスプラチンとの比較試験で効果に差はないとされていますが、肺癌でさんざんプラチナ製剤を使ってきた経験からは明らかにシスプラチンの方が切れ味はよかったため、多くの場合シスプラチンを使っています。(S先生はもっと突っ込んだ見解を論文として出されています。こちらも またの機会に)
菫さんは入院し、再再発から根治への治療に入りました。全身化学慮法を耐えて頂く過程でお互いに信頼関係が育っていきました。
トイレで倒れたり、それはそれは大変な治療でしたが、それでも元主治医F先生への恨み言など一言もなく、それどころか少し調子が上向くと、F先生のことを楽しげに笑いながら話してくれました。菫さんはいつも前を向いて治療を受けていました。

こうして 私は躊躇なく根治に向けた治療に入ることができたのです。菫さんが家族であるかのように…。

<左鎖骨上窩リンパ節転移の意味>
子宮頸がんは血行性転移よりもリンパ行性転移が多くみられ、骨盤内から、傍大動脈転移、そして縦隔や鎖骨上窩転移と上へ上へと上がってきます。微小転移の場合は原発巣から遠方にあるリンパ節ほど転移細胞数は少ないというのがわかっています。(S先生の膨大な子宮頸がん、傍大動脈リンパ節廓清を伴う手術症例から)
鎖骨上窩に転移として認識できる大きさの転移があるということは、相当数の癌細胞がリンパ管を通り上向しているということを意味します。
横隔膜より下の臓器からのリンパ流は横隔膜下にで胸管に入り、左鎖骨上窩の部分で鎖骨下静脈に入ります。
鎖骨下静脈の血流は心臓、そして肺に入ります。胸管から肺に入ったがん細胞はフィルターのようになっている肺でひっかかり、多発肺転移を起こしてきます。




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