【サザンの楽曲「勝手に小説化」㉘】『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』 | 頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

頑張れ!法政野球部 ~法政大学野球部と東京六大学野球について語るブログ~

法政大学野球部を中心として、東京六大学野球についての様々な事柄について、思いつくままに書いて行くブログです。
少々マニアックな事なども書くと思いますが、お暇な方は読んでやって下さい。

私が大好きなサザンオールスターズ桑田佳祐の楽曲の歌詞を題材にして、

「原案:桑田佳祐」

として、私が勝手に「短編小説」を書くという、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズは、現在、「27本」を書いて来ている。

そして、現在は、

『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』

から始まる「4部作」を連載中であるが、現在は「4部作」の内の「その3」までを書いて来た。

 

 

という事で、まずは、

「サザンの楽曲・勝手に小説化」

シリーズの、これまでの「27本」のタイトルを、ご紹介させて頂く。

 

①『死体置場でロマンスを』(1985)

②『メリケン情緒は涙のカラー』(1984)

③『マチルダBABY』(1983)

④『Ya Ya(あの時代(とき)を忘れない)』(1982)

⑤『私はピアノ』(1980)

⑥『夢に消えたジュリア』(2004)

⑦『栞(しおり)のテーマ』(1981)

⑧『そんなヒロシに騙されて』(1983)

⑨『真夜中のダンディー』(1993)

⑩『彩 ~Aja~』(2004)

⑪『PLASTIC SUPER STAR』(1982)

⑫『流れる雲を追いかけて』(1982)(※【4部作ー①】)

⑬『かしの樹の下で』(1983)(※【4部作ー②】)

⑭『孤独の太陽』(1994)(※【4部作ー③】)

⑮『JOURNEY』(1994)(※【4部作ー④】)

⑯『通りゃんせ』(2000)(※【3部作ー①】)

⑰『愛の言霊 ~Spiritual Message』(1996)(※【3部作ー②】)

⑱『鎌倉物語』(1985)(※【3部作ー③】)

⑲『夕陽に別れを告げて』(1985)

⑳『OH!!SUMMER QUEEN ~夏の女王様~』(2008)

㉑『お願いD.J.』(1979)

㉒『恋するレスポール』(2005)

㉓『悲しい気持ち(Just a man in love)』(1987)

㉔『Moon Light Lover』(1996)

㉕『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』(2007)

㉖『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』(1998)

㉗『ハートせつなく』(1991)

 

 

…という事であるが、冒頭でも書いた通り、現在は「4部作」を連載中である。

その「4部作」の「その3」までが終了しているが、その各話のタイトルは、下記の通りである。

 

・『NUMBER WONDA GIRL ~恋するワンダ~』(2007)

・『LOVE AFFAIR ~秘密のデート~』(1998)

・『ハートせつなく』(1991)

 

…今回、連載している「4部作」のテーマは、ズバリ何かと言えば、

「不倫の恋」

である。

ある銀行に勤める男が出逢った、マリリン(榊マリ)という不思議な女との「不倫の恋」を描いているが、これまで、どんな顛末だったのかは、宜しければ、これまでの3回分をご覧頂きたい。

そして、今回は「4部作」の「その4」であり、いよいよ「4部作」の「最終回」であるが、

その題材となる曲は、1992(平成4)年にリリースされたサザンオールスターズのアルバム、

『世に万葉の花が咲くなり』

に収録されている楽曲で、原由子がメイン・ボーカルを務めている、

『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』

という曲である。

 

 

 

このブログでも、度々、書いているが、

『世に万葉の花が咲くなり』

は、全16曲が収められているアルバムであり、本当に「捨て曲無し」の名盤中の名盤である。

全16曲のどの曲をシングルのA面としてリリースしても良いぐらい、素晴らしい出来栄えの曲ばかりであり、それこそ何百回聴いても飽きないぐらい凄いアルバムである。

『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』

は、桑田佳祐が作詞・作曲し、先程も述べた通り、原由子がメイン・ボーカルを務めているが、「昭和歌謡」テイストも漂う、大人の楽曲…といった趣が有る。

 

 

そして、サザンが、1992(平成4)~1993(平成5)年にかけて、サザンは、

『世に万葉の花が咲くなり』

というアルバムを引っ提げ、

「歌う日本シリーズ」

と題した全国ツアーを行なっているが、勿論、

『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』

も披露され、原由子が素晴らしいボーカルを聴かせてくれていた。

…という事で、「前置き」はそれぐらいにして、

「サザンの楽曲・勝手に小説化シリーズ」の「第28弾」であり、

「マリリン(榊マリ)4部作」の「その4(最終回)」の、 

『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』(原案:桑田佳祐)

を、ご覧頂こう。

 

<序章・『スローモーション』>

 

 

私達が立つステージは、今日も華やかで煌びやかな、沢山のライトに照らされていた。

そして、私達は、会場を埋め尽くしていた沢山のお客さん達から、大きな喝采を浴びていた。

そういった体験は、誰にでも出来るものではない。

そういう意味では、私達はとても幸せだった。

でも…。

「みんな、来てくれてどうも有り難う!!」

私は、ステージ上で声を張り上げ、私達を見に来てくれたお客さん達に、精一杯の感謝の気持ちを伝えた。

すると、私の声に呼応して、更に大きな歓声が上がった。

「何か、本当に夢みたい…」

私は、その光景を見て、何だか自分が自分ではないような、不思議な気持ちになっていた。

そして、まるで全ての光景がスローモーションのように見えた…ような気さえしていた。

「私達のバンドって…。いや、私って、本当にこんなにお客さん達に見に来てもらえるような値打ちが有るのかしら…」

私は、表情は精一杯の笑顔を浮かべていたものの、心の中は何処か冷めていて、密かにそんな事を思ったりしていた。

私は今、あるバンドのボーカルとして、ステージに立っていた。

本当に幸運な事に、私のバンドは、今こうやって、プロとしてステージに立っている。

でも、本当は私の心の中は、不安でいっぱいだった…。

 

<第1章・『1/2の神話』>

 

 

「私ってさ…。何もかも中途半端なんだよね…」

私は、車の助手席に座り、私の隣で車を運転している「彼」に、ポツリとそんな事を言った。

「中途半端って…何が?」

「彼」にそう聞かれ、私は今、思っている事を正直に伝えた。

「私って、こうやってバンドのボーカルをやらせてもらってるけど、歌だってそんなに上手くないし…。それに、音楽の知識だって全然無いから…」

私は、今、隣に座っている「彼」が結成した学生バンドに、あるキッカケでボーカルとして迎えられた。

そして、そのバンドは色々有ったけど、紆余曲折を経て、遂にプロとしてデビューしてしまった。

それはもう、私の周りの環境は目まぐるしく変わって行ったけど、私自身は全く成長していない…私はいつも、そんな不安を抱えていた。

「彼」は私の言葉を聞くと、

「そんな事ないよ。それに、上を見たってキリが無いし、みんなで一緒に上手くなって行けば良いんじゃないか?」

と言ってくれた。

「そうだね…」

私は、とりあえず頷いておいた。

「それに、君は最近、歌のレッスンにも行ってるし、本当にここ最近、歌も格段に良くなったよ。これは、俺の客観的な意見だよ」

「彼」にそう言ってもらえて、率直に私は嬉しかった。

「ありがと…」

私も素直にお礼を言った。

私は、今、隣で車を運転している「彼」…バンドリーダーの「彼」とは、公私共に「パートナー」である。

「彼」はそうやって、いつも誰よりも私の事を「過大評価」してくれる。

それは、とても嬉しい事ではあるけれど、音楽の天才である「彼」と比べると、プロのアーティストとしては、私にはどうにも「核」が無いような気がしていた。

「あとさ…。私の悩みって、やっぱり曲が書けないって事なんだよね…」

私は、この際だからと、もう一つの悩みを「彼」に伝えた。

「そんな事ないだろ…。『私はピアノ』っていう、素晴らしい曲を書いたじゃないか」

「彼」の言う通り、私はかつて、

『私はピアノ』

という曲を書いた事が有った。

私は一応、子供の頃からピアノを習っていたし、そのピアノの経験も活かして、『私はピアノ』という曲を書く事が出来た。

「でも、あれは…。私の実体験から書いた曲だったから…。だから、それ以外で、自分で歌の世界を作る事が出来ないの。貴方は、そんな事は無いでしょ?」

私は「彼」にそう言った。

『私はピアノ』

は、私と「彼」との間に有った出来事を元に書いた「私小説」みたいな物だったから…だから私にも書けたのだと思う。

でも、それを書いてしまったら、後はもう、私の「引き出し」は空っぽだった。

それに引き換え、「彼」「引き出し」は本当に多く、歌でありとあらゆる「物語」を紡ぎ出しているように見えた。

私には、そんな芸当はとても出来なかった…。

「とにかく、私はまだまだ半人前なのよ…」

そう言って私は溜息をついた…。

 

<第2章・『トワイライト -夕暮れ便り-』>

 

 

車の窓の外には、夕暮れの空が見えていた。

「ねえ…。貴方が曲を作る時って…どういう風に思い付くの?」

私は、前々から気になっていた事を、「彼」に聞いた。

「貴方の曲って、本当に多彩よね…。色んな恋の話が出て来るじゃない?何か…本当に『恋多き男』って感じよね…」

私は半ば冗談めかして言ったが、思わず「彼」は目を丸くして、そして咽(むせ)てしまっていた。

「ちょっと、大丈夫?」

私は、「彼」の背中をさすった。

「全く、何て事を言うんだと思ったよ…」

そう言って「彼」が苦笑いしていたのを見て、私も思わず笑ってしまった。

「俺は、そんな『恋多き男』じゃないよ…。まあ、でも曲を書く時は、実体験というよりも…まあ、妄想力かな…」

と、「彼」は言った。

「ふーん…。妄想力ねえ…」

私も、今、「彼」が言った言葉を繰り返した。

「それに、大体、人間が人生で体験できる事なんて、たかが知れてるんだよ。だから、それこそ沢山の映画を見たりとか、本を読んだりとか、あとは良い音楽を沢山聴くとか…。そうやって、自分の中で色々な事を蓄積して行くっていう事を、俺は意識してるかな…」

「彼」は、今、私に対し、「創作」の秘密を明かしてくれていた。

つまり、何かを生み出すには、まずは自分の中で「蓄積」が無いとダメだと、「彼」は私に教えてくれていた…。

「そういう蓄積が、何かのキッカケで出て来たりすると、俺は思うよ…。それも含めての『妄想力』だね」

「そっか…。わかった、ありがと…」

私達がそんな会話を交わしている内に、車は都内を抜け、横浜へと近付いていた。

窓の外を見ると、夕陽は殆んどビルの谷間に沈みそうになり、横浜の夜景が見えて来ていた。

この時の「彼」との会話が、私に新たな力を与えてくれた…私には、そんな予感が有った。

 

<第3章・『少女A』>

 

 

「送ってくれて、ありがと…」

「ああ。気を付けて帰れよ…」

仕事帰り、「彼」は、横浜に在る、私が住む家の近くまで、いつむ車で送ってくれていた。

そして、私は車を降りたが、今日はそのまま家には帰らず、ちょっと「寄り道」をして行こう…という気持ちになっていた。

既に夜になっていたが、私は自宅とは反対方向の道を、ぶらぶらと歩き始めた。

そこは、ちょっと裏寂れた街角で…沿道には、小さなバーや酒場が並んでいた。

私は普段、あまりお酒は飲まないが、

「ちょっと、行ってみようかな…」

と思い、その中の一つのバーに行ってみる事にした。

さっき、「彼」は、曲作りの「秘訣」を私に教えてくれていた。

「つまり…。曲を作るためには、日頃の取材が大事だって事よね…」

私は、自分なりに、「彼」の言葉をそんな風に解釈していた。

だから、私はこういう場末(って言ったら失礼だけど…)のバーに入り、

「人間観察」

を、ちょっとやってみようか…という気持ちになっていたのである。

勿論、そう都合良く、曲作りのネタになるような事が有るとは、思っていなかったけれど…。

私は、そのバーの重い扉を開けると、扉に取り付けられた鈴が、カランカランと鳴った。

「いらっしゃいませ…」

中を見ると、そのバーにはカウンターが有り、カウンターの中では、マスターらしき男の人が、グラスを磨いていた。

カウンターの他には、テーブルがいくつか有るが、お店はもうそれだけで一杯だった。

つまり、それほど広いお店ではなかった。

そして、カウンターには…一人、先客が居た。

「何にしますか?」

マスターにそう聞かれ、私はとりあえずカウンターの席に座ると、ジントニックというカクテルを注文した。

そして、横目でチラっと、先客を見ると…それは、とても綺麗な女性だった。

でも、彼女の横顔はとても寂しそうに見えた。

「何か、不思議な女(ひと)…」

彼女は、私から見ても本当に美人だったが、国籍不明というか何と言うか…とても不思議な雰囲気の有る女(ひと)に見えた。

「この女(ひと)って、どんな女(ひと)なんだろう…」

私は、失礼の無いよう、あまりジロジロ見ないようにしていたが、やはりどうしても視線は彼女の方に吸い寄せられてしまっていた。

年齢は、恐らく私よりも少し年上ぐらい…20代半ばぐらいだろうか。

でも、彼女には、まるで少女のような儚げな危うさもあるように見えた。

私は、そんな彼女の事を、心の中で密かに、

「少女A」

と、命名(?)していた…。

 

<第4章・『禁区』>

 

 

彼女は、そのバーで、独り寂しく、お酒を飲んでいた。

「こんなに綺麗な女(ひと)なのに…。何か寂しそうな女(ひと)…」

一体、この女(ひと)には、どういう背景が有ったのだろう…。

私は、頭の中で勝手にグルグルと「妄想」を思い浮かべていたが、その時、ふと私と彼女の目がバッチリと合ってしまった。

「あ…。ごめんなさい…」

私は思わず謝ってしまった。

別に、何か悪い事をしたわけじゃなかったけれど…。

「ううん、いいのよ…」

彼女は、そう言ってくれていた。

「あのう…。ここには、よく来るんですか?」

私は、思い切って彼女に話しかけてみた。

彼女は、少しビックリしていたが、

「ええ。前はよく来ていたわ…。彼と一緒にね…」

と、答えてくれた。

「そうだったんですね…」

私は彼女の言葉を聞き、思わず、こう聞いてしまっていた。

「今日は、その方と一緒ではないんですね…」

すると、彼女は寂し気な笑みを浮かべ、

「今日は、私、独りだけよ。彼とはもう別れたから…」

と言った。

私はハッとして、

「ごめんなさい…」

と、謝った。

「いいのよ、謝らなくて…」

彼女は、そう言って、私を許してくれた。

「だって…。初めからこうなる事は、わかっていたわ…。私が付き合ってた人って…奥さんが居る人だったから…」

彼女の言葉を聞き、私は思わず息を呑んだ。

「それって…」

「そう、私、不倫してたのよ…」

彼女の言葉は、私にとって、少なからず衝撃的だった…。

「ねえ。私の不倫の恋の話、聞きたい?」

彼女が、私の顔を覗き込んだ。

彼女の視線に射すくめられると、私は身動きが取れなくなってしまうような感覚になっていた。

そして…私はコクリと頷いていた。

 

<第5章・『十戒』>

 

 

「私…。本当に罪な女なの…。奥さんが居る男の人を好きになって、その人の家庭をメチャクチャにしてしまったのよ…」

私は、その女(ひと)の隣に座り、彼女の告白に耳を傾けていた。

その女(ひと)は、凡(おおよ)そ、次のような事を、私に語った。

「私は、ある所で出逢った男の人を、物凄く好きになってしまったわ。もう、その人の事しか考えられなくなってしまったぐらい…。でも、最初から、その人には奥さんもお子さんも居る事を、私は知ってたの。それでも、私は自分の気持ちを抑える事が出来なかった…」

私は、ただ黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。

「そして…。もっと最低な事に、私は彼を追いかけて、とうとう彼と同じ職場に入ったの…。勿論、彼を逃さないようにするためよ。とにかく、彼と一緒に居たい一心でね…。そうして、事は私の思惑どおりに進んだわ…。私と彼は、人目を忍ぶ恋をするようになった…」

そこで、彼女は気を落ち着かせるためか、グラスのお酒をグイっと飲み干すと、マスターに「おかわり」を注文した。

そして更に、彼女の話は続いた。

「私も彼も、お酒が好きだったから…。こういうバーに来て、一緒に飲んだりもしたわ…。とにかく、私も彼も、ただ一緒に居たいという気持ちだけだった…。でも、いつかは終わりが来るって、私も彼も、何処かでわかっていたのよね…」

気が付くと、バーの外で、微かに雨音が聴こえていた。

どうやら、外では雨が降っているらしかった。

「そして、そういう秘密の関係が続いた後…。彼の奥さんに、とうとう私達の関係がバレてしまったのよ…。その時の、彼の狼狽(うろたえ)っぷりったら、無かったわね…」

その女(ひと)は、そこで苦い笑みを浮かべた。

それは、何か重い十字架を背負った罪人(つみびと)のような表情に見えた。

「…それで、どうなったんですか?」

私が恐る恐る、そう聞くと、彼女は、

「彼ね…。私にこう言ったの。『俺は、やっぱり家庭を捨てられないから、別れてくれ』って…。それはそうよね…。私も、わかっていた事ではあったけど…。やっぱり、それは悲しかったわね…」

私が彼女を見ると、彼女のグラスに注がれたお酒に、彼女の涙が零れ落ちているのが見えた…。

 

<第6章・『飾りじゃないのよ涙は』>

 

 

「酷い男ですね!!」

私は、まるで自分の事のように憤慨していた。

「結局、その男は、貴方の事も、奥さんの事も泣かせて…みんなを不幸にしただけじゃないですか」

私は本当にそう思って、怒っていた。

すると、その「不倫の恋」の、もう一人の当事者…その女(ひと)は、ちょっと笑顔を見せると、

「そう言ってくれて、有り難う。でも、最初に彼に近付いたのは私だったし…。結局、悪いのは私だったのよ…」

と言った。

「だけど…」

私も、まだ何か言いたかったが、上手く言葉がまとまらなかった。

「とにかく…。それで私達の恋は終わったの。私も、その職場を辞めて、それっきり、もう彼には逢ってないわ…」

その女(ひと)はそう言うと、マスターに、

「熱いお茶を…」

と頼み、気を落ち着かせるように、お茶を飲んでいた。

それにしても…結局、「不倫の恋」は、誰も幸せになれない…という、当たり前過ぎるほど当たり前の事を、私は痛感していた。

結局、「不倫」の当事者になってしまった人達は、こうして泣かされて終わってしまう…。

さっき、私はその男に対して憤慨していたけれど、冷静になって考えてみれば、確かに、最初にその男の事を誘惑(?)したのは、この女(ひと)である。

だとすれば、責任の所在(?)は何処に有るのだろうか…。

私が、そんな取り留めの無い事を考えていると、

「ねえ。今度は貴方の話が聞きたいわ…」

と、彼女に言われ、私はハッとした。

 

<第7章・『セカンド・ラブ』>

 

 

「私の事ですか…?」

彼女にそう聞かれ、私はちょっと困惑してしまったが、

せっかく、彼女が自分の辛い身の上を話してくれたのだから…と、私も、自分の事を話してみる事にした。

「実は私…。あるバンドでボーカルをやってるんです…」

私がそう言うと、彼女は、

「へー、凄いじゃない!!」

と、ビックリした様子だった。

「いえ…。私は全然凄くないんです…。本当に凄いのは、『彼』の方で…」

私は、これまで有った事を、彼女に話した。

ただの歌好きの女の子だった私が、天才ミュージシャンである「彼」の作った学生バンドにボーカルとして入った事、その「彼」が私の初恋の人だった事、色々有った末に、そのバンドがプロとしてデビューした事、そして、今、私はプロとして「壁」にぶち当たっている事…。

「…という事が有って、私も悩んでるんです…。私は本当の恋って、『彼』としかしていないし、恋愛経験もそんなに無いから、私は恋の歌なんて、とても書けないなあって…」

私の話を、彼女はただ黙って聞いてくれていた。

「…そう、わかったわ。話してくれて有り難う…」

そして彼女は私に、こんな事を言った。

「ねえ、恋の歌って、別に本当に自分が体験した事ではなくても、頭の中でイメージさえ湧けば書けるものだと、私は思うわ…。そうだわ、貴方。私の体験を、曲に書きなさい…」

私は、その言葉を聞いて、本当にビックリした。

「え!?でも、それって…」

「いいの。今日、話を聞いてくれた、お礼よ…」

そう言って、彼女は微笑んだ。

「貴方。まだ名前を聞いてなかったわね…」

彼女に聞かれ、私は、

「私の名前は、ユウコ。ユウコって言います…」

と、名乗った。

「そう、ユウコさんね…。ねえ、ユウコさん。ちょっと目を閉じてて…」

彼女に言われると、私は何故か、彼女の言葉に抗えず、目を閉じた。

そして…。

気が付くと、彼女の唇が、私の唇に触れていた。

「ちょっと…」

驚いて、私は何か言い掛けたが、

「いいから…」

と言う彼女に、遮られてしまった。

そして、そのまま私の意識が遠のいて行った…。

意識を失う間際、私は夢うつつの中、

「ねえ、待って…。貴方の名前は…?」

と、彼女に問いかけた。

「私は…榊マリ…。いえ、マリリンよ…」

遠くに聴こえる雨音と共に、そんな声が聴こえたような気がしたが、私はそのまま気を失ってしまった…。

 

<終章・『DESIRE-情熱-』>

 

 

「ユウコ!!凄い曲が出来たじゃないか…」

私が作った曲を聴いて…「彼」をはじめ、私のバンド…「ベターデイズ」の仲間達が、絶賛してくれていた。

あのバーでの不思議な夜…その後、私はどうなってしまったのか、ハッキリとは覚えていない。

でも、気が付くと私は自宅に居て、そして私はピアノに向かって、ありったけの情熱を込めて、一気に曲を作ってしまった。

それは、あのバーで出逢った不思議な女(ひと)…榊マリ…いや、マリリンにインスパイアされて作った曲だった。

彼女との出逢いが無ければ、この曲は出来なかったに違いない…。

「ユウコ、この曲はどうやって思い付いたの?」

「彼」にそう聞かれ、私は、

「さあ…。私にも『妄想力』が備わったのかもね!?」

と、答えになっているのか、なっていないのか、よくわからないような事を言ったので、彼は目を丸くしていた。

「で、この曲のタイトルは何ていうの?」

ギターのタカシに聞かれ、私はこう答えた。

「この曲は…。『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』っていう曲よ…」

 

 

『ポカンポカンと雨が降る(レイニー ナイト イン ブルー)』

作詞・作曲:桑田佳祐

唄:サザンオールスターズ(リードボーカル:原由子)

 

夢を見るひとときが 思い出にかわる頃

泣きながら振り返る いつかの街角

やがて来るさよならと心では知りながら

誰よりも信じてた あなたの言葉を

 

冷たい夜風に涙がひとしずく

抱(いだ)き合う口づけは永遠(とわ)の蜃気楼

 

★好きよ夜の街 お酒飲み同士じゃない

知り合って寄り添えば

ポカンポカンポカンと雨が降る

 

夏は過ぎ青空に黄昏が浮かぶ頃

待ちわびる恋だけは二度と溺れない

酔い醒めのお茶を飲み

せつなさを噛み締めて

悪戯(いたずら)な面影が胸をかすめてく

 

いけない逢瀬は涙の物語

忍びあう悦びは熱いランデブー

 

好きよいつまでも泣かされ続けたのに

波音が遠ざかり

ポカンポカンポカンと雨が降る

 

★Repeat

 

レイニー ナイト イン ブルー