『皇帝陛下の専属司書姫4 闇堕ち義弟の監禁ルートは回避したい!』を試し読み♪ | 一迅社アイリス編集部

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本日も一迅社文庫アイリス最新刊の試し読みをお届けします爆  笑

試し読み第2弾は……
『皇帝陛下の専属司書姫4 闇堕ち義弟の監禁ルートは回避したい!』

著:やしろ慧(けい) 絵:なま

★STORY★
ゲームの悪役の悲惨な未来を回避し、攻略対象である皇帝ルーカスとの婚姻を控えたカノン。彼との未来のため皇妃教育に追われていたある日、ルーカスに誘われ避暑に向かうことに。のんびり過ごすはずが到着早々別荘に現れたのは、伯爵位を継いだ義弟とゲームのヒロインである義妹だった。私の元婚約者を奪い幸せになったはずの義妹がなぜここに!? それに義弟の様子もおかしくて……。新たな破滅の予感は味方だと信じていた義弟!?
悪役令嬢のお仕事×契約ラブファンタジー第4弾★

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 カノンはダンスは得手ではない。――が、皇帝の相手が、ダンスが下手では格好がつかない。
 手を合わせて見つめ合って、ルーカスが動き出すのに合わせて足を滑らせていく。

「そういえばラウルが絶賛していたぞ。カノンは耳がいいのでダンスの上達が早いと」

 ラウルはカノンのすることはすべて褒めてくれるので評価はあてにならないが――、この数か月足が痛いと泣きながら練習したせいか、多少は踊れるようになった気がする。

「ルカ様のリードが上手だから」
「お褒めにあずかり、光栄――。気にするな。こんなものは余興だ」
「そうは言いますけれど、やっぱりがっかりしませんか? ルカ様に憧れるご令嬢は多いのに。その相手が陛下の足ばっかり踏んでいたら。私がこのホールでその場面を見ているご令嬢だったら、がっかりすると思います」

 ルーカスが小さくふきだした。
 偽装恋人を始めたばかりの頃、カノンが夜会のたびに、踵でルーカスの足をよく踏んでいたのを思い出したのだろう。

「てっきり、あれはわざとかと……」
「そこまで性格悪くはありません!」
「どうかな。それでなくても君はよく怒っていたから。意趣返しかと耐えていた」
「我慢していたんですか?」
「痛くて泣きそうだったんだ、実は」

 真面目くさった顔で告げられ、今度はカノンがふきだす番だった。

「嘘ばっかり……!」

 喋りながら踊っていたせいで、一曲はあっという間に終わる。
 ルーカスは上機嫌でカノンの手を引いてフリーダのところまで戻ってきた。

「仲がよろしくて結構なことでございます、陛下」

 ヴィステリオン侯爵は満面の笑みで二人を迎えた。

「侯爵の顔を立てて踊ったが、今日はもう俺は踊らんぞ?」
「それは残念です。伯爵の美しい姿を目に留めたい者も多いでしょうに」
「ありがとう、ヴィステリオン侯爵」

 挨拶を終えるとルーカスはフリーダに連れ出され、カノンは後見人として付き添ってくれたミアシャと護衛のシュートと三人になる。
 すこし風にあたろうかと出た半円形状のテラスで、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
 さほど離れていない、隣のテラスに集まったご令嬢の噂話のようだ。死角になっているせいかカノンには気づいていないようだ。

「――ねえ、聞いた? カノン様の後見はラオ侯爵家なのですって……」
「皇妃候補だった方の家を後見にするの? ご自分の幸せを見せつけて悦に入っているのよ、悪趣味ね」
「落ち目の侯爵家以外に後見の申し出がなかったのよ! ――伯爵家の娘なんて陛下もすぐに飽きるのではない? それにあの方、たいして綺麗じゃないし、ダンスだって下手よね」

 直球の悪口にカノンはうっと胸を押さえた。

「ダンス……、上達したと思ったのに……」

 眼前のラオ侯爵――ミアシャが笑った。

「上手だったわよ。あれは負け惜しみ……落ち目の侯爵からのグラスですけれど、いかがかしら、カノン様」
「ありがとう、いただくわ」
「隣の子たちに好き放題言われているけど止めないの? 顔を出して手を振ったら蜘蛛の子を散らすようにして逃げていくわよ、きっと」

 カノンはうーん、と唸った。

「ルカ様と一緒の時には言われない素直な批評だもの。ありがたく聞いておくわ。ダンスの練習しよう……」
「ほどほどにね」
「で、あのダンスがうまそうで、素晴らしく可愛い金髪のご令嬢はどこの方?」

 別の話題に移ったらしい少女たちは楽しげに噂話を続けている。三人組の一番目立つ少女にカノンが視線を留めると、ミアシャは「お目が高い」とおどけた。

「金色の髪に見覚えがないかしら? 彼女はディアドラ侯爵閣下の従妹、マイラ様よ」
「ディアドラ! ……な、懐かしい名前を聞いたわ……」

 決して聞きたい家名ではないが。
 カノンの婚約者だったディアドラ侯爵、彼の従妹だという。
 口の悪いマイラは、見たところカノンよりも年下だろう。

「カノンが所詮は従兄のオスカー様に婚約破棄をされた女だ、という嘲りがあるのかも。それならば自分が皇妃になりたかった――、とかね」

 皇帝の妻になるにはマイラは年が離れすぎているが、皇族の結婚なら珍しいことではない。
 少女たちの噂話は二転、三転してまたマイラがカノンの悪口を並べ始める。

「どうせ伯爵家の娘を選ぶならばあんな地味な方ではなく、シャーロット様を選べばよかったのに! シャーロット様は皇女殿下も優雅だって褒めていらしたし……」

 オスカーに輪をかけて懐かしく聞きたくない名前にカノンは呻いた。
 異母妹シャーロットはディアドラ侯爵オスカーと婚約しているからマイラから名前が出てもおかしくはないのだが。

「懐かしい名前を聞いて、気分が悪くなったりしない?」
「動悸がするのは仕方ないわよね……」

 ミアシャとカノンは小声で会話を交わす。
 異母妹と最後に会ったのはいつだったか。
 婚約パーティーをするから、と勝ち誇ったように挨拶に来た時。その後皇帝の恋人になったカノン(と言っても、あの時は恋人関係の偽装でしかなかったのだが)を殺しに来た時。――どちらにしてもろくでもない記憶だ。
 あれから一年以上、義妹とは会ってもいないし、今後も会うつもりはないが、動向は気になる。
 一時期、シャーロットは皇女の近くにいた。
 皇女の推薦でルーカスの側に近づこうとしていたフシがある。
 ――マイラが「シャーロットの方がルーカスにふさわしい」と評価したのはその当時を思い出してだろうか。それとも、ここ最近、そう思うような機会があったのか――。
 シャーロットが今もなお皇女と親しくしているなら面倒そうだ。

「マイラ嬢は皇女殿下に心酔しているみたいね。魅力的な方だから仕方ないけれど――以前、別の夜会で楽しそうに会話しているのを見かけたことがあるわ」

 皇女は社交界の若い女性たちからも支持が篤い。
 そんな皇女を伯爵家出身のくせに虐める(ように見えている)カノンへの敵愾心がマイラにはあるのかもしれない。
 カノンの存在には気づかないままマイラはなおもうっとりとした口調で続ける。

「シャーロット様は綺麗で優しくて。それにね、魔力もとびきり強いのよ!」

 我が事のようにマイラが胸を張って自慢した。
 シャーロットの魔力が強いのは仕方ない。
 この世界はカノンが前世でプレイしていた「虹色プリンセス」と同じだ。
 そしてヒロインはカノンの異母妹、シャーロット。彼女が「七つの大罪」を背負った攻略対象たちの苦しみを癒すゲームだ。彼女には神の思し召しなのか強い魔力が付与されている。

「タイトルは爽やかだけど、全然爽やかじゃないのよね、あのゲーム……」

 攻略対象の背負うものが「大罪」なせいなのか分岐を間違えた場合の結末は容赦ない。
 シャーロットが彼らの苦しみを癒せずに失敗した場合、皇国は彼らの業に引きずられて滅びに向かってひた走るし、シャーロットがどのルートを選んでも彼女の最初の障害たる「悪役令嬢にして異母姉のカノン」は攻略対象に殺される。
 そもそも、カノンが皇宮に来たのは当時オスカールートに進みつつあった異母妹シャーロットと婚約者オスカーから離れるためだった。
 無責任にカノンを悪く言い続けるマイラを苦笑しつつ見ながら、カノンはぼやいた。

「そもそもオスカールートだと、私、今頃は伯爵家の庭に埋められていたよね……」

 憎いとはいえ夫に殺された姉の遺体が実家で眠っている状況――あの世界のシャーロットは果たして幸せだったんだろうか? とはカノンには甚だ疑問ではある。
 紆余曲折あったものの、オスカーとシャーロットは婚約してもう一年半。
 そろそろ侯爵が結婚した、という報告があってもいい頃だろう。
 二人の幸せを遠くから祈っているわと無責任に思っていると――。

「何を庭に埋めるのです、カノン様?」

 遠い目をしていると、爽やかな声で名前を呼ばれてカノンは振り返った。

「ロシェ・クルガ。あなたも呼ばれていたの?」

 振り返ると、予測通り乳白色の美しい髪と水色の目をした神官がいた。
 色欲の業を持つ美貌の神官、ロシェ・クルガだ。

「はい。侯爵閣下のご夫君とは本の収集で趣味を同じくしておりまして。その関係でお招きを受けました。――ついそこでパージル伯爵とお会いしたので一緒にご挨拶を、と」
「レヴィ!」

 ロシェ・クルガの背後にいたのは義弟だった。
 ひょっこりと顔を出したレヴィナスは屈託なく微笑む。
 夢見が――よりにもよってレヴィナスに監禁される悪夢を見たのだ――悪かったことを思い出して、ひやりとしたカノンとは対照的に、レヴィナスは明るい表情でカノンの手を取った。

「ご機嫌うるわしく、義姉上」
「半月くらい会えなかったのでは? 忙しいの?」

 レヴィナスはカノンの実父グレアムからつい先月正式に伯爵位を譲られた。その関係もあるだろうがずいぶん多忙のようだ。

「忙しいのは僕よりも義姉上ですよ。久々に会えて嬉しいです。――本当は神官とは別に挨拶に来たかったのですが、どうしてもタイミングが合わなくて」
「ずいぶんな言いようですね、パージル伯爵」

 レヴィナスとロシェ・クルガは元々仲がよろしくない。それでも一緒にいるということは、表面上はカノンのために親しく振る舞ってくれているのだろう。
 彼らもまたオスカーやルーカスと同じくゲームの攻略対象だ。
 傲慢のオスカー、嫉妬のレヴィナス、色欲のロシェ・クルガ、怠惰のベイリュート、暴食のキシュケそれから憤怒の業を持つ皇帝ルーカス。
 強欲の傭兵王には会ったことがないが、多分、彼はもう出てこないのだろう。
 ともかく、傭兵王と、シャーロットに攻略されたオスカーを除いた他の五人の攻略対象とは、友好関係を築けているはずだ。
 カノンにはシャーロットのように高い魔力はないけれど、なんとか危地を切り抜けて、これからは命の心配をすることはなく生きていけるのだと――そう願いたい。

「義姉上はここで何をなさっていたのです? 陛下がお待ちでしょうから、そろそろホールに戻られませんか?」
「少し涼んでいたの……」


~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~

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