こんにちは!
もうすぐ、一迅社文庫アイリス3月刊の発売日!
ということで、本日から新刊の試し読みをお届けいたします(≧▽≦)
試し読み第1弾は……
『引きこもり令嬢は話のわかる聖獣番9』
著:山田桐子 絵:まち
★STPRY★
聖獣のお世話をする「聖獣番」として働いている伯爵令嬢ミュリエル。婚約者である色気ダダ漏れなサイラス団長との結婚時期も決まり幸せ一直線! これからの二人の未来を思い描いていたある日。もうすぐ冬眠する聖獣達からのお願い事が、思わぬ事態を引き起こし――。
引きこもり令嬢と聖獣騎士団長の聖獣ラブコメディ第9弾!
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春に結婚式が早まったとて、ミュリエルの日々は急に変化したりしない。冬空の下でも聖獣番の業務に精を出すのが、己の最優先事項だ。
『あら、まぁ、大変っ! 嘆きに叫ぶ乙女達の声が聞こえるわっ!』
「えっ!?」
だからこの日も、聖獣達の要望に応えるべく、全力でボール遊びに付き合っていたのだ。それなのに、途中でボールとは逆方向へ爆走しはじめたレグのお尻を、二度見することになる。
「あ、あのっ! レ、レグさんっ!? ま、待って……!」
『アタシ、ちょっと、行ってくるわぁっ!』
「えぇー!?」
今日は右軍と左軍に別れてボールを取り合っていたため、レグと同じチームであったミュリエルは、自由すぎるレグの行動に愕然とした。現在、ボールはミュリエルが抱えている。もちろん、軟弱な聖獣番には手加減をしてくれる聖獣達だが、遠慮はない。レグの助太刀がなくなれば、もみくちゃにされてボールを明け渡すはめになるだろう。そう思ったのだが、この時は違う結果になった。
『ワタシは用事を思い出した』
『ジ、ジブンもっス』
『ボクも~』
どんどん戦線を離脱していく面々に、ぽかんと口をあけてしまう。チーム戦であるのに、これではミュリエルの一人勝ちだ。
『はぁ。わかってんだろ、ミュー。すぐ戻ってくるぞ』
「えっ……?」
一匹残ってくれていたアトラが、遊んでいた最中の機敏な動きから一転して、のっそりと隣によって来る。状況を飲み込めなくて瞬くと、答えはすぐに向こうからやって来た。
「チュウッ!」
「キュルッ!」
行き同様の爆走で戻ってきたレグから、イノシシのものではない鳴き声が聞こえる。そんなレグのお尻には、二つのコブができていた。見たことのある光景だ。確か、はじめて目にした時はレグのお尻が腫れてしまったのだと驚いた覚えがある。
かなり手前から四肢を突っ張ったレグは、枯れた芝を大量に巻き上げながら急停止した。爆走も急停止も慣れたもので、ミュリエルとも念のため間にいてくれたアトラとも、会話するのにちょうどよい距離感だ。
「チュ! チュチュチュチュウチュチュッ!!」
「キュ! キュキュキュキュウキュキュッ!!」
さらに既視感があることに、お尻のコブが鳴き声を発しながら動き出す。茶色の毛玉でできたコブはイノシシの体を進むと、両耳の間に今度は雪だるまのように重なった。
『もう! もうもうもう懲りないんだからっ!!』
『そう! そうそうそう学ばないんだからっ!!』
鳴き声を発するコブの正体は、ネズミの聖獣チュエッカとリスの聖獣キュレーネだ。ご立腹の二匹は頬袋をふくらませているのだが、可愛らしさが増すばかりで迫力には欠ける。
チュエッカは橙色のツンツン髪で背が低いことを気にしているスタンと、キュレーネは茶色の刈り上げ短髪で目尻のしわを気にしているシーギスと、それぞれパートナーとなっている。
チュエッカとキュレーネの二匹は仲良し女子のノリでいつも一緒だが、スタンとシーギスの二人も筋肉信者の凸凹コンビとして、まとめて語られることが多い組み合わせだ。
『ミューちゃん、このコ達の話、聞いてあげてちょうだい! それで力になってあげて!』
会話に適した場所取りをしていたとしても、レグがブッフゥンと鼻息を吹き出せば栗色の髪は後方へ飛ぶし額は丸出しになる。季節柄か、イノシシの鼻息はやたら温かい。
『まずは挨拶だろうが』
真正面から顔に鼻息がかかるのを、アトラが横を向いてかわす。顔の角度はそのままに、視線だけはチュエッカとキュレーネに流して、歯ぎしりをした。
『あ、そうだったわ。ほら、ミューちゃんにご挨拶は?』
強面白ウサギの仕草はぞんざいだが、この程度で怯む者はこの場にいない。
『ミュリエルちゃん、こんにちは! それでね! 聞いてほしいのっ!』
『ミュリエルちゃん、久しぶり! それでね! 頼まれてほしいのっ!』
レグの耳の間からちょろちょろと降りてきた二匹は、ミュリエルの前まで来ると後ろ脚だけで立って、前脚を祈るように組み合わせた。首を傾げる角度に、まん丸のおめめが瞬きをする回数まできっちり同時で息ぴったりだ。
己の可愛さを熟知して存分に発揮してくる乙女二匹に、ミュリエルはあっさり陥落した。ふくらませていないのに、冬毛のおかげで頬が零れそうなほどふかふかだ。
「は、はい! ご、ご無沙汰しておりました。えっと、私でお力になれることでしたら、なんなりと……!」
あざとさが含まれていようと、こんなに可愛らしい毛玉にお願いされては二つ返事をするしかない。親身になる気持ちが全面に出てしまい、思わず身を乗り出す。
『ウチらが冬眠している間……』
ミュリエルの真摯な眼差しにキュッと目もとと口もとを引き締めた二匹は、出だしの台詞をぴったりと重ねた。それから、天に向かって鳴き声を響かせる。
『スタン君の下手くそなお見合いを、見張っておいてほしいのーっ!』
『シーギスさんの不毛なお見合いに、用心しておいてほしいのーっ!』
「……え?」
上を向いて大きく口をあけたため、綺麗な歯がよく見える。上下に二本ずつある切歯の奥には立派な臼歯があり、ミュリエルは一瞬「アトラさんと同じだわ」などと他所事を考えた。
「えっと……。その、お、お見合い? ですか? それって、いったいどういう……」
器用な両手をまた祈りの形に組み直した二匹は、うんうんと頷きながら先程より瞳を潤ませて、ミュリエルに顔をよせた。チュエッカとキュレーネの後方では、どっしりと見守っているレグも頷いている。しかし、ここからの乙女三匹の会話は、爆速だった。
『何も、アレもコレも全部見張っておいてってわけじゃないの!』
『その人はないよ! どこ見てんのよ! って時だけでいいの!』
『そうねそうね! あの二人の目が節穴すぎるのよね? コロっと騙されちゃうんだもの!』
『えっ! でもでも! そういう素直なところが、スタン君の可愛いところなんだよ!?』
『えっ! でもでも! そういう純粋なところが、シーギスさんの素敵なところだよ!?』
興奮した乙女の会話に、順序立てた筋道は求められない。右に左に上にと発言者に顔を向けるだけでも、ミュリエルは忙しい。
『アナタ達そんなこと言って、素直で純粋なせいで、あの二人ってば毎回大失敗なわけじゃない? ついでに言えば、七回転んでも八回起き上がる根性も、この場合は問題だと思うのよ』
困ったように首を傾げたレグに、チュエッカとキュレーネは同時にピンッと耳を立ててボンッと尻尾を爆発させた。
『そ、そうだったー!』
力の入った耳と尻尾のまま、二匹は手を取り合った。それから、期待を込めた眼差しでミュリエルのことを見てくる。
「え、えっと……」
しかし、結局は何を求められているのかわからなかったミュリエルは、目を二匹の間で泳がせた。するとまず、チュエッカがチュウッと鳴く。
『だからね! ウチらが即時査定できない冬眠期間中に、番の欲しいスタン君とシーギスさんが、お見合いを企んでるんだけどね? ここまでは、わかった!?』
「は、はい……」
確認する圧の強さにほぼ反射で返事をすれば、続きはキュレーネが待っていましたとばかりにキュルッと鳴く。
『しかもね! 毎回毎回、絶対にウチらが頷くはずのない女にばっかり引っかかってくるんだもん! あり得ないでしょう!? ここまでは、わかった!?』
「は、はい!」
さらに最後は、二匹そろってアトラを真似っこするようにギリギリィと歯ぎしりをした。
『というわけでね! ミュリエルちゃんへのお願いは、ウチらが冬眠明けでいきなりキレ散らかさないためにも、スタン君とシーギスさんがお見合で質の悪い変な女と関わらないように、目を光らせていてほしい、ってことなの!! わかった!? わかったよね!? ねっ!? ねっ!!』
「は、はいっ!」
『わー! ありがとー! これで、一安心だよー!』
「は、はいぃっ!」
勢いに押されて一辺倒の返事を繰り返していたミュリエルは、ついに背筋を伸ばしてピキンと固まった。ただし、急に停止したミュリエルを見て、乙女二匹も意図せずひと呼吸挟む。
『ん? あれ? ミュリエルちゃん? もしかして、わかってない?』
今さら可愛らしくコテンと小首を傾げられても、乙女の叫びを正面から浴びせられ続けたミュリエルの硬化は解けない。
~~~~~~~~~(続きは本編へ)~~~~~~~~~~
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