参考文献 〜「公園対談 クリエイティブな仕事はどこにある?」(是枝裕和×樋口景一) | ジャズベーシスト 池田 聡 のブログ

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参考文献 〜「公園対談 クリエイティブな
仕事はどこにある?」(是枝裕和×樋口景一)

 

 

 

 

僕が尊敬してやまないコピーライターが、若手のコピーライターに「どうしたらよいコピーが書けるようになりますか」という(ある種身も蓋もない)質問をされたときに、「結局は生きるしかない」と答えたことも僕にはなるほどと思ったできごとでした。近道というものはどこにもなく、そもそもものを見る角度をたくさん持つための人生経験を積み、道を歩んで行くしかない。(p9)

 

その萩元さんに最初に言われたのが、「クリエイティブ な仕事とクリエイティブでない仕事があるのではない」ということ。「その仕事をクリエイティブにこなす人とクリエイティブにこなさない人間がいるだけだ。そう考えて仕事に当たりなさい」と言われました。(p35)

 

映像系の学校に教えに行ったときにいろいろと感じるんですが、その一つは、とにかく人に見られずに映像がつくれること。自分で撮ってパソコンに入れると、一人だけで完成品ができる。それで、作製の途中で人に見てもらって、「これ、わかんないよ」とか「これ、つまんないよ」と言われない人や、言われたくない人が増えているんです。もちろん、それで傑作ができることもあるかもしれないけど、 「じゃあ、なんで学校に来てるの?」って思う。(p38)

 

僕が「こうするとわかりやすいよ」と意見を言うと、「いや、別にそうまでしてわかってほしくないんですよね」なんて言うんです。「テレビはどう?」と聞くと、「テレビだと僕の作家性が活きない」なんて結構平気で言う学生がいる。そんなときは、「いや、何か言われるだけで消える程度のものなら、たいした作家性じゃないから、それ一度なくなっても大丈夫だと思うよ」って言うんです。 「ほんとうに作家性をもっていたら、また出てくるよ」と。そう言うんだけど、彼らはバリアを張るんですね。(p38)

 

人と違う「わたくし」があって、それが作品に直結すると思いこんでいる人が結構多い。とくに男子に多いですね。女子のほうがコミュニケーション能力が高い。(p39)

 

自分探しの旅に出て行って、よりひどい人間になって帰って来る。人と関わらないと成長できないのに、人と関わらない経験だけを積んでどうするのっていう感じです。(p40)

 

商品のことだけ語られても、普通の人にはピンとこないのではないか。自分に関係があると思ってもらうには、社会や世の中にとってどういうことなのか、ということにしないといけないように思うんです。そのなかでいろんな人たちが、「あ、こんな考え方あるよね」と気づいて、力を発揮できるような状況になれば、それは意味のあることになるだろうなと。
 生活者不在で、企業の言いたいことだけを言って終わるようだと、広告の存在意義はないのではないかという気がします。誰かが何か言葉を発する以上は存在意義があるべきだし、だとすると誰かの一方的な思いだけでやっちゃいかんだろうなという思いがすごく強いんです。(p50)

 

社会人となってしばらくしてそれなりの経験を積み、それなりの実績を出すようになると、人というのは弱いもので、そこに安住したくなる生き物です。そしてクローズドなコミュニティのなかで得意気になったりこのへんのことをやっておけば大抵大丈夫、という意識が生まれたりするもの。仕事人にとっての最大の敵はこの実績という概念であり、そことの向き合い方がその後を規定するのだと思います。 人は満たされると成長しない。常に枯渇感を持ち、外側の世界に能動的に関わり続けられるかどうか。 自分のなかに興味の矛先を向けないでいられるかどうか。それはつまり、自分がいかに小さな存在であるかということを意識し続けるということではないかと思います。(p71)

 

アイデアの話をすると、「どこからかアイデアが降ってきて、それをもとに業界内部の人とつくっていく」ととらえられているふしがありまして。情報の収集やインプットを丹念に丁寧にやるとか、情報の量を増やすことがないがしろにされているように思うときがあります。 一足飛びにものづくりにガッと入っていくといいものができると思い込んでいる人がいますね。実際には世の中の流れや伝わる構造を読むことを含めると、企画の初期段階は八割がた情報収集で決まるんじゃないでしょうか。(p74)

 

劣化した状態に触れていると、出てくるものも劣化したものになるという恐怖感があるんです。それで、たくさん本を買ってたくさん読まなくては、という思いが強くなっています。(p76)

 

ネット社会には有象無象があまりにもたくさんあるから、どのポジショニングをとるかが先に立つのだろうと思うんです。 「このゾーンはすでにいるから自分は対極に位置しよう」と。そのほうが単純に目立ちますからね。そういう位置取りが先にあって、不必要な言葉づかいをするのかもしれない。
(中略)
必要以上に位置取りを気にするのは、ネットがもたらす弊害のような気がします。(p78)

 

先日、若い社員が書いたものを見ると、言葉づかいがすごく曖昧なんです。一つひとつの言葉の選び方にしても、その言葉の規定する範囲の設定にしても。それで、「本読んでる?」って聞いたんです。 「小説読んでないでしょ?」と聞くと、「全然読まないです」って。「映画観てる?」と聞くと、「そんなには観てないです」って。
 言葉づかいが曖昧になると、つくるものの価値が曖昧になります。自分の使っている言葉が曖昧であることに気づけないのは、ほんとうに怖いと思います。 文学や言葉にきちんと向き合わずに、ダーッと情報が羅列されているものをパパッと見て、「はい次」「はい次」というようなことをしていると、そうなってしまう。それは怖いですね。(p78)

 

美大の学生さんから質問がありました。「私はこれまで、今 日のように好きな人たちの話を聞いたり、その作品を見たりすることで、自分も面白いものをつくりたいと思っていたのですが、そういう話を友人にすると、『そんなことをしたらその人たちに似るだけだから、批判する対象として観たほうがいいんじゃないか』と言われました。どう思われますか?」と。
 僕は、そこで悩むかなぁと思ったんです。それでも、「いいんじゃないの、別に似ても」と言ったんです。「今、僕たちがこうやってしゃべっているのも、人の話を聞いてインプットしたからしゃべれているわけで、映像も、いいものを観なければ自分の中でいい映像の文体は組み立てられないんじゃないの?」と話しました。
 なんでそんなにインプットを恐れるんだろう。 影響を受けることで失われてしまうような「わたくし」なんて、そもそも最初から大した「わたくし」じゃないんだから。(p79)

 

僕たちは外側からもらったものでできているわけですね。いろいろな人の言葉や、いろいろな見たものでしかできてないわけだから、どんどんいいものに触れる以外に方法はないんじゃないかと思うんですね。(p80)

 

映像の学校で、彼らは、「無駄をしたくないので、観なければいけない映画を教えてください」なんて言うんです。(p81)

 

僕は、才能を開花させるものは情報収集の量と、それに基づく思考の量、あとは実際の現場経験の量ではないかと思っているんです。だから、ありとあらゆるものを見たほうがいいし、若いうちはありとあらゆる仕事をやったほうがいいと思う。すべて一回経験して、それで初めて見えてくるものがある。そこからがスタートじゃないかな。才能なんてないじゃないですか?(p82)

 

僕の恩人のテレビマンユニオン二代目社長の村木良彦が「創造は組織する」と言っています。 「組織がものをつくるのではなくて、創造という行為が中心に あって、そこに人が集まって組織が生まれる」と。彼は「中心にあるのは組織じゃないんだ」と繰り返し言っていました。(p89)

 

日本の映画界は、僕がデビューしたあとも随分変わった。お客さんが監督で作品を観なくなった。監督で企画が動くことが少なくて、多くのお客さんが観るものは監督主導でつくられている作品ではないんです。原作の漫画があって、キャストが決まって、脚本家が決まって、それから、監督は誰にする?この時期に空いている人は?という流れのものが大量生産されている。そこと、たとえば「カンヌ国際映画祭」に出る映画と、完全に二極化しているんです。(p93)

 

自分の職業を、たとえば歴史的背景も含めてとらえ直してみるとか、現代的な位置づけがどこにあるのかというところから、あるいはここから数年をどうつくっていくのかというなかで考え直してみる ところにいかざるを得ない。それはすごく責任を背負うことになるわけで、そこで、「頑張らなくては」という思いになって帰ってくるのはとてもいいかなと思っているんです。(p95)

 

まったくコミュニケーション能力の低かった自分が、 この職業で否応なくいろいろな人と話さなくてはいけなくなって、「あ、俺だいぶ大人になったな」と思っている。職業で人は成長するって素晴らしいですよね。(p97)

 

その人の人間的な成熟の度合いによってアウトプットも変わってくる 。人生の経験値を上げることと、仕事の経験値を上げることってかなり近しいですよね。(p97)

 

僕がテレビマンユニオンで研修を受けたときに、萩元晴彦がこう言いました。「君たちがこれからやる仕事は、とにかくつまらないと思うような些末な仕事だと思うけれど、世の中にはクリエイティブな仕事とクリエイティブでない仕事があるわけではない。どんな職業であれ、その職業にクリエイティブに向き合う人間と、クリエイティブに向き合わない人間がいるだけだ。そこを間違ってはいけない。君たちはクリエイティブな仕事に就いたと夢が膨らんでいるかもしれないけど、そんなことはないんだ」。 仕事というのはそういうことじゃないという話です。そして最後に「君たちのまわりにいる連中の77%はクリエイティブではないと思う」と言われた。それをいまだに覚えています。(p97)

 

サンアドの葛西さんもそう言っていました。「ほぼすべての仕事は苦痛だ」って。「苦痛から始まる」って。「それを、手を動かしながら、どうしたら面白くなるだろうかと一生懸命考えているだけだ」と。(p99)

 

人間は関係性のなかで生きているわけで、自分探しって一人のなかに入っていくような感じがあるけど、そこには何もない。他者との関係性をいろいろ探りながら、そのなかで見えてくるものがあるのなら、それはやっていけばいいんじゃないかなって感じはします。(p99)

 

自分探しが、きちんとした行動に結びついているのならいいんだけど、ずっと逡巡している状況だと結局何もない、何も得られない。自分を探す前にいろいろなものを得なくてはいけないと思うんです。 自分を形づくるさまざまな見識とか経験とかいろいろなものを。そういう見識や経験があれば、あとはどんな仕事に就いてもクリエイティブに生きることは可能ではないかという気がします。(p100)

 

去年アメリカ ある大学に行ったんです。すごく期待して行って、違った印象をもって帰ってきました。よく日本の教育はがんじがらめで、アメリカは自由だと言いますね。たしかに彼らは思いっきり何かをやるんだけど、そのモチベーションが、いかにお金を集めて起業して、事業化をして売り抜けるかというものになっている。 技術をつきつめるのではなくて、短期的に投資家の目を向けさせて、投資をさせて起業してお金を稼いで売ってという、ものすごく短期的な感じ。(p114)

 

僕らに染まっていない人間、いわゆる異物を一人入れておくことは重要ですね。無謀なことを言ってくれるというか、全然違う理屈を言ってくる。それがすごく大事ですね。人は簡単に染まってしまうので、異物で居続けてくれる人間がいると、最終的なクオリティはやはりいいですよね。(p119)

 

僕も大学で教えながらどうすれば企画者を育てられるか悩んで、先日、「世の中の因果関係をちゃんと考えられる人を育てられれば結果的にはうまくいくんじゃないか」と思ったんです。 撮り方や企画の仕方を教えるよりも、この事象は何と結びついているんだろうかとか。
(中略)
 この現象は氷山の一角でしかなくて、この歴史と結びついているのではないかとか、違う国のこういう考え方と結びついているのではないかとか、そういう、今起きている現象を結果としてとらえたときの、その因果関係をきちんと整理する。その因果関係のなかにアイデアがある、芽があることを伝えるのが大事なんじゃないかなとちょっと思いながら、最近教えているんです。(p127)

 

表層的なものをアイデアと呼ぶのは抵抗があるんですね。アイデアとは、ほんとうはこの世界のここと結びついているのではないか、結果的にこういうものが氷山の上に出るようになっているのではないか、という見方そのもののことなんじゃないか。(p127)

 

なぜ大学生のつくるものがつまらないかというと、内側が豊かでないのに自己表出しようとするからです。(p130)

 

大学生が学生同士で固まっているとろくなことないですね。(p133)

 

僕は冷たいのかもしれないけど、強く叱責しないとできないような奴は、端からこの仕事は無理だと思う。仕事によるのかもしれないけど。怒られる前に自分で気づいて直せないやつは、演出の仕事はムリじゃないかなとどこかで思っている。あきらめるのはいけないことかもしれないけど、だから、そうじゃない人間を集める。(p139)

 

よい結果を生むには、長く時間をかけて経験値をしっかり積まなくてはなりませんよね。だから、自分で考えて自分で修正する人にならなければいけない。言われることをやっていてもスキルは一向に上がらないので。(p141)
 
20代はどうしても最初は受注的なところからスタートせざるを得ないですよね。それで、どこかのタイミングで壁が出現して、能動的に働きかけることで、初めてなにかが変わる。(p145)

 

樋口 先日あるアイドルの撮影をしたときに、その子が自撮りしてきたのが一番よかったんです。なんだろう、これは。
是枝 その角度に自分が適応しているんだね、きっと。顔がね
樋口 必要以上に自己プレゼンテーションを意識している感じがありますよね。(p172)

 

ある種古い企業として見られていた企業から、新しいタイプの自動車とかがどんどん生まれていて、新興の企業からむしろ新しいものが生まれにくい状況もある。それはおっしゃるようにノウハウやDNAが継承されないために、どこも同じようなものを出してしまうという状況があるんでしょうね。バックグラウンドとなるフィロソフィ(哲学)がなくて、どこが出しても同じようなものになっていき、それは結果的にその企業の競争力にはならない。
 最近、「運動会をやりたいと思っているんですよ」と言われる企業の方がいます。きちんと共同体をつくっていかないと、フィロソフィが育たないということのようです。(p176)


「公園対談 クリエイティブな仕事はどこにある?」(是枝裕和×樋口景一)
目次

はじめに 樋口景一

春篇 仕事人としての位置づけ

なぜ、この仕事についたのか
とにかく映画が好きだった
隣の人が何をやっているかわからない会社
勝手に育つしかない

ここで仕事人生が変わった
こいつらを殺してから辞めよう
自分の居場所はここにあった!
「クリエイティブな仕事」なんてない
「自分」は人の間にしかない

「仕事のスタイル」とは何か
まったく異なる価値観をもつ人たちとの出会い
仕事を進めるときのアクセルとブレーキ
どれだけ多くの人の生き方に触れるか

仕事に影響を与えた人との出会い
テレビはジャズで、映画はクラシックだ
仕事で出会った人に影響を受ける

大切なのは「答え」でなく「問題」
「問題の適切な投げかけ」が大事
恋愛とストーカーの違い
なぜ日本人は「答え」をほしがるのか

夏篇 仕事人としての成功と失敗
インプットの作法
仕事の八割は情報収集で決まる
顔が見えない情報に振り回されてはいけない
先を考える前に飛び込んでみる

才能を開花させるもの
「勇敢さ」を基準に仕事をする
「創造」の声のもとに組織はできる
大切なのは、成長し続けること
賞をとるために仕事をする人

仕事の経験値を上げる
自分のなかを探しても何もない
仕事の一番の魅力は違った価値観に出合うこと

秋篇 仕事人としての閉塞感

人が成長するときに必要なもの
「見て見ぬふり」で部下を育てる
あえて組織に異物を入れる

自分の仕事を楽しく語る
結果を目的と勘違いしていないか
まずリテラシーを鍛える
〈ようこそ先輩〉で子どもに教わったこと
自分の仕事を楽しく語れる人間になる

仕事の壁を乗り越える
厳しくされても人は成長しない
「二八歳の壁」を乗り越える出会い

冬篇 仕事人としてどんな未来を選ぶか

世界標準の仕事をするために
スカイプでは伝わらないこと
日本が韓国より遅れている理由
なぜほかの会社と違うのか

目的と手段が逆転していないか
検索サイトは間違ったことをしたのかもしれない
ホリエモンの考え方には同意できない
自分に向いている感じが気持ち悪い

一つの会社で働き続けるメリット
ノウハウや価値観は継承されているか
古い会社から新しいものが生まれている
「最短」からは面白いものが生まれない
「役割」を取り払って考えてみる

17の質問

おわりに 是枝裕和

 

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