恰も売春防止法施行を予見したかのように、昭和三十年頃から浜松の新たな売笑形態として誕生したステッキガール。現代の無店舗派遣型風俗の元祖とも言うべきステッキガール（乃至は社交クラブ、社交さん、ステッキさんと呼んでいた）に関する記述は、昭和三十年代から四十年代にかけて多くの紙媒体で目にすることが可能。
先般、カストリ書房より浜松ステッキガールを更に探求すべく拝受した二冊の文献「実話画報 昭和三十五年四月号」「新幹線十七駅・夜のすべて 夜の時刻表 昭和四十八年十一月発行」にも、その赤裸々な生態が綴られている。
「実話画報」には「ごまんといるフリーのサービス女性～電話一本で、ドコにでも呼べるステッキガールにもピンからキリまである」と見出しが付けられた体験記事。この見出しからステッキガールが如何なる業態だったか窺い知れる。曰く『ステッキガールの表向きの仕事は、関西方面に昔からある「やとな」と「芸者」と「女給」とを合わせて三で割ったものに、少々売春染みた匂いを付けた存在とおもえばいいだろう」・・・・・と。
赤線業者からの転業組も相当数いたと言われるステッキガール運営業者。全盛期には二百を超える業者が浜松市内にて営業。電話一本で女性を酒場や喫茶店、宴会場、またそれだけに留まらず、貸席や旅館へ派遣する体裁を取っていた為、立派な事務所を持たずとも、しもた屋でも開業が可能だったとされる。その営業方法は浜松駅前のタクシーや喫茶店などに広告（当世流に言えばピンクチラシ）を配布する、浜松のローカル雑誌や電話帳に広告を掲載、等々・・・・
昭和三十年代末の電話帳及び企業名鑑を手に取り「社交クラブ」の頁を閲覧。実際は公に登録されている業者の倍は存在したと言われているが、それでも浜松市内に八十社余りを確認することが出来た。
以下に「社交クラブ（ステッキガール）」業者名を書き出してみる。屋号の法則性、事務所所在地の分布図など興味が尽きない。猶、諸々の差支えがあると考えられるため、事務所所在地の番地は省略する。
いろは 千歳町
小雪 元浜町
５０１ 鍛冶町
小春 元浜町
竹春 千歳町
ダリヤ 早馬町
太陽 元魚町
茶切会 田町
津軽 元城町
浪花家 鍛冶町
紅の会 元城町
美松会 木戸町
弥生会 千歳町
雪 田町
分雪 鍛冶町
※砂山町の旧旅館
あおいクラブ 千歳町
あかつきクラブ 亀山町
青空クラブ 鴨江町
ＡＢＣクラブ 鍛冶町
栄光クラブ 元魚町
きねや 田町
小ばとクラブ 元浜町
さつき会 鴨江町
千歳クラブ 千歳町
浜鶴クラブ 千歳町
日の丸クラブ 鴨江町
松岡クラブ 鴨江町
みどりクラブ 千歳町
元浜日の丸クラブ 八幡町
夢ぞの 鍛冶町
和光クラブ 千歳町
※旧赤線の鴨江旅館街
里美 元浜町
新生 元浜町
新再会 元浜町
大栄 野口町
だるま 中沢町
ともよ 元浜町
浜名 元浜町
美舟 元浜町
元浜会 山下町
元浜 元浜町
豊 元浜町
夕月 元浜町
「××クラブでございます・・・・・・毎度ありがとうございます。お好みは若いハイティーンですか、年増ですか？」
「背は高い方がいいので・・・・」
「ハイ。ボリュームも充分にある子がいます。ところで和服がおこのみですか、それとも洋装がお好きで・・・・？」
青葉 浅田町
恵比寿会 田町
かなめ会 平田町
京 鴨江町
だるま会 東田町
ツキジ 田町
浜菊会 砂山町
初雪 船越町
福助会 寺島町
南 寺島町
「〇〇クラブさん？いま××子空いてる？そう、じゃ一時間ぐらい待つから帰り次第よこしてくれ」
香月 鴨江町
きよし 鴨江町
コトブキ 鴨江町
次郎長 鴨江町
すみれ 鴨江町
大成 元魚町
晴美 鴨江町
初駒 元魚町
浜菊 鴨江町
ひばり会 鴨江町
不二好 鴨江町
桃太郎 鴨江町
りき 鴨江町
「口じゃ私たちフリーの女給みたいなものよ、と言うけれど十人中九人、いや百人のうち九十九人までトコトンまでのサービスをしますよ・・・・・」
あづま家 中島町
いこい 田町
入船 田町
思い出 馬込町
木の芽 高町
駒鳥 東田町
志ぶき 元魚町
白ばら 千歳町
すゞらん 馬込町
東海 平田町
なじみ 亀山町
吉半 田町
「この一、二年前には五、六十軒だといわれていたのですが、よっぽど儲かるのでしょうか、最近どんどん又増えてきました。電話帳にのっているのは正式に電話局を通したクラブで、このほか新設分や名義の違う電話を利用したり、貸電話でチャッカリ商売しているのを合わせると、この倍はあるのじゃないでしょうかね・・・・・」
・・・・・・・・・ステッキガール（社交クラブ）が隆盛だったのは昭和四十年代までだったようで、昭和五十年度浜松市電話帳には「社交クラブ」の頁はすっかり無くなっていた。