彼の姿は憤怒に満ちた鬼でした。
ワナワナ・・・ワナワナ震えています。




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この物語は魔法使いと少女の物語です。

1~12章(各章20秒で読了可能)

はじまりはこちら→魔法を売る町1
(*゚ー゚*)




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猛然と娘の真正面に立ちはだかると、
魔法の杖を娘の胸に向けました。


あまりの怒りに、彼の周囲は異様な気流ができていました





 
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「よくも・・・・よくも魔法の町を壊したな!」
そして杖を振り上げた瞬間でした・・・・!


 
 
 
 ポンッ!
 
 
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魔法使いは羊の姿になりました!
それは彼の意志ではありません。





町全体にかけられていた
【緊急退避魔法】
とうとう彼にも効いたのでした。





娘が驚いて見つめる前で、
羊となった魔法使いは
奇妙な叫び声を上げながら、避難場所へと走り去って行きました。




◆◆◆◆◆◆◆


 
 
”イレイザー店”があった場所には、
ボロボロの青いビニールテントが
半分つぶれておりました。
これがこの店の真の姿だったのです。



 
◆◆◆◆◆◆◆




 
娘が街を見渡すと、
そこは広大なゴミの廃棄場でした。

 
捨てられ、腐敗し、匂いを発する残骸であふれています。
 
 
 
魔法の町は廃棄物にかけられていた、
きらびやかな『虚栄の町』であったのでした。
 
 
 

 
 
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◆◆◆◆◆◆◆
 
 
 
 
 
パラパラと小雨が降って来ました。
これは魔法の雨ではありません。
 



本物の【濡れる雨】なのでした。
 


娘が空を仰ぎ見ると、白い龍はゆったりと旋回し、
そこにとどまっておりました。






+++++++





「あの時」幼かった龍は、堂々たるりっぱな龍になっていました。
(あの時:というのは「魔法使いと小さな龍」でのこと)
 
 
 


 
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この本物の雨に魔法の音楽はついていません。
けれど、徐々に激しく・・・ダイナミックに・・・。
まるで、たたみかけるかけるように降り注ぎます!






町に残されたお客たちは茫然としたまま、
ぐしょぐしょに濡れそぼっていきました。






 
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やがて・・・。


魔法の力で絶世の美女になっていた女性は、
元のシンプルな女性に戻りました。

でもそれは、とてもチャーミングな女性でした。






魔法でマッチョボディに変身していた男性は、
元の華奢な男性に戻りました。

でもそれは、とても繊細な彼に戻っただけです。






”イレイザー”にやって来た老紳士はハゲで小太りな男に戻りました。

そしてそれは、ちょっぴりユニークな彼でした。





+◇+◇+◇+◇+





龍は上空を旋回し、雨もハラハラと続いていますが、
西からの光は明るく、輝きが届いておりました。





娘もすっかり濡れていますが、
彼女の姿は同じでした。

愛らしい、素朴な彼女そのものでした。






そして目を閉じ、両手を広げ、
クルクル・・・クルクル回りながら、
雨粒と龍を全身で感じていたのです。






 
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+◇+◇+◇+◇+◇+◇+




やがて、どれくらい経ったのでしょう・・・。
町の人たち、各々が、





【それぞれの自分・それぞれの魂】を
  愛しているのに気がつきました。






皆、自分自身が、どんな自分であったとしても、
その”尊さ”に気がつきました。








+◇+◇+◇+◇+




 
雨が深く深く浸み込むほどに、
それははっきりと現実として、皆の中に現れました。




『欠点だらけと思えていた自分』が、急に愛おしくなりました。

『何かになろうとしていた自分』がとても愛おしくなりました。

『誰かに愛されようとしていた自分』がとても愛おしくなりました。





彼らはずぶ濡れのまま、自分自身をギュッと抱きしめ、泣きました。





上空では美しい白い龍が、声なき声で笑っています。
風と雨をまとい、西からの太陽を受けて光る龍の体は
神々しく、やわらかで、そして・・・慈愛に満ちておりました。







+◇+◇+◇+◇+◇+◇+





太陽はいつまでも沈むことなく、
廃墟と人々を照らしています。



堂々とした飛翔のまま龍は上空にとどまり、
パラパラ、パラパラ、祝福の雨を降らせました。




 
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人々は濡れそぼり、ただただ・・・その感覚に浸っています。


+◇+◇+◇+◇+





そして彼らが気づかぬ間に、廃墟のあちらこちから、
小さな草の芽、木の芽が萌え出しました。
 




わずか小さなその息吹きは、どんどんどんどん伸びていきます。
金の雨を受け、きらめき、歓びを歌いながら、それらは町を覆いました。





やがて廃墟は廃墟でなくなりました。
龍のウロコは艶々と光り、共に歓びを謳っています。
娘は目を閉じたまま、新鮮な大気を吸いました。






 
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龍、そして雨・・・それは人々に何をもたらしたのでしょう。




龍も雨も、人々に何も教えていません。
教示でも、導きでも、知識でもありません。




それは単に忘れられていた『感覚』でした。
それを人々が思い出しただけなのです。
 



【真実の自分になる呪文】
それを取り戻すきっかけの言葉でありました。







 
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それにしても、
なぜ、人々は大切な言葉を失ってしまったのでしょう。
それにはわけがありました。





騒々しくて、クラクラするもの・・・。
きわどくて、ハラハラするもの・・・。

どぎつくて、ドキドキするもの・・・。





食べても、食べても、食べたくなるもの・・・。
買っても、買っても、欲しくなるもの・・・。





魔法族は心をかき乱すものを作って、いたるところに撒きました。





◆◆◆◆◆◆◆






やがて人々からは、内も外も静けさが奪われました。
そして・・・奪われれば、奪われただけ、
大切な言葉を忘れました。





なぜならその言葉は”静けさの中”にこそあったからです。





夕暮れの森の吐息の中に・・・。
星の詩(うた)が降りしきる中に・・・。
そして、日の出前の黄金の中に囁かれている、
とても繊細な言葉でした。






けれどもあまりにも忘れられていたために、
それを欲する者さえなくなりました。





こうして長い年月の間、言葉と力は失われてしまったのです。


人々に必要だったのは、「教え」ではありません。

ただシンプルに自分を称える『感覚』でした。






 
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やがて龍は緩やかに町の上空から去って行きます。
それでも龍の祝福は続いていました。





×・*・×・*・×・*・×・*・×・×・



次回ラスト!
龍によるエンディングで完結します!
(*^ー^)ノ
続きはこちら→
魔法を売る町12≪最終章≫