マビノギっぽい小説置き場 -4ページ目

マビノギっぽい小説置き場

マビノギ的な内容の小説を書いてるかもよ。
マビノギ知らない人も楽しめるように書きたいのかもよ。

8
翌日、朝。
「雨と酔いつぶれた兄貴のせいで一泊してしまった……」
二人はバンホールの宿屋にいた。
「うげぇーっ……きもちわりい」
「そりゃ兄貴が昼間から飲んでたせいでしょ……」
ちなみにオオガキは18歳だが、この世界は18歳から酒が飲める、ということにした。今。うるさい団体も安心である。
「どうする?その状態でダンバートンの家まで歩く?」
「き…鬼畜妹め、俺は荷台に乗らせて貰うぞ、ウェリーッ!」
言って、そばにあったウェリアムの荷台に飛び移る。
「昨日の謝礼で馬を借りて荷台を引かせるがいい!俺は、寝る!」
「おっけー。でもその荷台鉱石乗せるけど……って早!もう寝てるし。まぁいっか」


ウェリアムは馬二頭を借りて、荷台にはいくつかの袋にまとめた鉱石と、布団で、す巻き状態にしたオオガキを積み、ダンバートンに向かっていた。オオガキはぐーぐーと眠っている。



ドラゴン遺跡、建物の影からバンホール方向を見つめる影があった。
「親分、あいつらもう来ないですってー。諦めて帰りましょうやー」
「もう少し張り込みを続けるぞ、あんぱんを寄越せ」
「さっきので最後っすよ、昨日の昼過ぎからずっと張り込んでんすから」
「ぬわあああにいいい!?買ってきてくれ、早く!奴がくる前に!」
「いや、だからもう来ないでしょうよー。丸一日たってんですよ?別の道でどっか行っちまったんでしょうや」
「くっ……仕方ない、今回は諦めるか……ムーニーの仇をとりたかったぜ…!」
「いや、死んでませんし。捕まっただけでしょ」
「む!あれはなんだ!?おいパンパス!見てみろ!あの女!」
「聞きやしねえ…どれどれどの女ですかあ?……あ、あれは!」



「うああー、暇だー……」
バンホールからダンバートンへ向かう道、ドラゴン遺跡に差し掛かろうというところ。ウェリアムは退屈していた。
昨日は話相手がいたからよかったものの、今日の彼は荷台でぐっすり眠っている。
「あ、そこよけてー」
言いながら鞭をしならせる。
この辺り、バンホール近辺の道は、なんのためにあるのかよくわからないが、穴が多い。
深さは1mもないので落ちたところで惨事にはならないが、荷物が散らばると面倒なので、避けるように指示している。故にウェリアムは進路から目を離して読書に耽ることすらできないのだ。
「あにきー起きろー起きるんだぁー」
呼んでみるが返事はない。
「景色も茶色ばっかでつまんないなあ」
なんてぼやいていると、岩陰から、金髪の何者かが飛び出してきた。
「そこの道行くお嬢さん、少し止まって貰ってよろしいかな!」
ウェリアムはびっくりして仰け反ったが、なんとか対応する。
「えーっと、そこにいられるとどっち道進めませんけど」
「止まってくれるか、ありがとう!」
「えー。まぁいいですけど。それで、なにか用ですか?」
「うむ。おいパンパス!この女であってるのか?」
金髪の男が言うと、岩陰から返す男の声。
「間違いないっすよ、油断なしでズドンといっちゃって下さい!」
嫌な予感がする、でも荷台に兄貴いるし、どうしたものか、そう思ったのも束の間。
「失礼するよ、レディ!」
それだけ言った金髪の男は、いつの間にそんな距離まで接近したのか、ウェリアムの首筋へ手刀をくらわせた。



暗闇の中で、オオガキは目覚めた。
鼻はこれでもかというほどの石の臭いに刺激され、体中は布団を介してなおゴツゴツとした感触に囲まれている。
この二つの事実から割り出される現状はーー、
「ウェリアム、貴様図ったなッ……!」
ズルズルと、す巻き布団の中から這い出るオオガキ。
「ありゃ?」
這い出た後に見えた光景は、洞窟だった。
所々に松明が灯っており、薄暗いが一応は辺りを見渡せる。
「……攫われたか、雨宿りか。さーてどっちかねえ。クソ」
前者だろうな、と思いつつ、気を抜きすぎた自らの愚かさに悪態をつく。
「ウェリは……いるわけないよな」
わざわざ攫って荷物を保管しているのであれば、通り魔の愉快犯ということはないだろう、十中八九、盗賊団の仕業だ。
となれば、荷馬車を管理していたウェリアムは捕らえられたか、または、

ーー殺されたのか。

不穏な思考を打ち消して、オオガキは辺りの気配を探る。今は考えても仕方ない、生きていると信じて行動するべきだ。
唯一の幸運は、賊が荷台で眠る俺に気づかなかったことか。今なら油断しているであろうところを、アジトの内部から襲撃できる。
敵の数も、素生も、実力も、そしてウェリアムの生死も不明。
あまりにも分が悪い戦いだ。
それでも前に進むしかない。
己の命を、繋ぐためにも。


オオガキが思考を終了し、歩きだそうとした、その時。曲がり角から、音がした。人の足音ではない、小動物が近づいてくるような音。
そこから出てきたのはーー、銀色の、キツネだった。
とりあえず危害を加えてくるモンスターでないことに、オオガキは安堵し呟いた。
「銀ギツネか、こんな洞窟にもいるんだな」
放置して進もうとすると、こちらの足音に驚いたのか、走り去ってしまった。
それからおおがきも歩き出し、そして数十秒後、
「侵入者だとおおおおおう!?」
どこか遠くから、叫び声が聞こえてきた。
「げぇっ!?」
聞いたオオガキが驚愕する。後ろは行き止まり、敵には何故か侵入がバレて、バレたからにはこちらに向かってくるはずだ。
「仕方ねえ……!」
敵と鉢合わせるのを覚悟で、とにかく目の前の道を疾走する。いくつかに別れた道を、風の通る方へ走った数秒のダッシュの後、手頃な岩陰を見つけ飛び込み、転がっていた数センチサイズの岩を二つ拾い上げる。
運のいいことに、ここまでは敵と遭遇していない。
しかし、
ザッ、ザッ、と、人の近づいてくる音がする。
見つかれば戦闘もやむなし、命までは奪わずとも、敵の腕の一本ぐらいは落とす覚悟をする。
「来るなら来やがれ…」
ほとんど声に出さず、口の中で呟いて気合を入れるも、敵は岩陰のオオガキに気づかずに、通り過ぎて行く。
その傍には、一匹の銀ギツネ。
「アイツ、ペットだったのか……」
呟きつつ、手に持った石を握り投擲の構えをとる。
「ーーーーっ」
息を吸い、音をたてないようにしながらも、まずはキツネを狙って石を投げる。
ーーー命中。
「んなっ…!」
状況を把握できていない人間の方、黒髪の、恐らく盗賊団の一員であろう男に向かって、更に投擲する。
ガンッ!という鋭い激突音の後、男は倒れた。
「ふう……」
歩み寄り、一人と一匹の気絶を確認。
とりあえず、一難は去ったようだ。
恐らくこれからまた起こるであろう一難へ、自分から飛び込まねばならないのが残念だが。


「収穫はゼロか」
数分後、気絶した一人と一匹が敵の仲間に見つからないよう岩陰に隠し、これまであった分岐点を足早に調べたオオガキは、まだ通っていない道、つまり、さっきの盗賊が歩いて来た方へと足を進めていた。残念なことに、調べた分岐点は全部行き止まり、めぼしい品物も落ちてはいなかったし、ウェリアムも見つからなかった。
そして、オオガキには気になっている点が一つあった。
さっき気絶させた一人以来、敵がやってきていないのだ。
歩みを進めながら考える。
侵入者、つまり俺の存在を賊に知らせたのは、あの銀ギツネで間違いないだろう。
それで来たのが一人だったということは、あのキツネがあまり信頼されていなかったのか、もしくはーー、
「なあああんてこった!やっぱりパンパスの奴見逃してるじゃーねーか!」
ーー待ち伏せ、か。

気づけば場所はかなり開けた空洞、中央には金髪の男。
その日一番の敵となるであろう男と、オオガキは対峙した。

~~~~~~~~~
後ろは洞窟だ、逃げ道はないぞ、どうするオオガキ!
そしてどこいったウェリアム!
つづく!
人の弱点の一つとして、顎がある。
そう言われても実感が湧かないかもしれないが、顎への一撃は頭蓋を揺らし、脳を揺らす。
結果、軽い脳震盪でも起こせば、しばらくはまともに動けない。
皆様も人の顎を殴る時は細心の注意を払うように。
と、言っても。今回これが起きたのは完全なる偶然であったのだが。
~~~~~~~~~~
「きゃああああああああああ」
ウェリアムの叫び声と、ゴッ、という鈍い音に振り返ったオオガキの見た光景は、彼の予想を裏切った。
ウェリアムが誰かに殴られた後短剣を突きつけられている、とかそんな予想を、裏切ったのだ。
やられていると思ったウェリアムは、マンドラゴラのごとき音量で叫びつつ腕を振り回し、その後ろにいるのはーーマスクで顔の下半分を隠した男。手には短剣を持っているが、足元はおぼつかない様子だ。恐らく、がむしゃらに振り回しているウェリの拳が顎に直撃でもしたのだろう。不運な奴め。
オオガキはそんなことを思いつつ、そそくさと賊にトドメを差して、縛り上げて荷台に乗せる。
「グッジョブ」
と、これは未だにあわあわ言ってるウェリアムへ向けた言葉だ。
近くにいた旅行者に一礼して、ウェリアムはどうせついて来るだろうから放置して、オオガキはまた歩き出した。

7
あわあわ言わなくなったと思いきや、先程のことを武勇伝のように語るウェリアムの話を聞きながら歩くこと20分程。
焼け付く鉄の臭いと、それを打つ金槌の音に迎えられ、バンホールに到着した。

「いやー、まさかこんなに謝礼が出るとはなあ!」
「うー、私の手柄なのになんで兄貴に謝礼が…」
二人は商売、そして賊の連行を終え、昼も過ぎて腹が減ったと、酒場にいた。
「何を言っている?トドメを差してここまで連れてきた俺にこそ謝礼は出すべきだろうよ。へへへ」
「その笑い方むかつく…」
「ま、そっちも売り上げが予想外に多かったんだしいいじゃないか。ここは俺の驕りだ、食え食えー」
「ぐぬぬ、納得いかねー……こうなったらその謝礼なくなるまで食ってやるぅぅ」
「10万ゴールド分も飯食える奴がいてたまるか……うーん、10万か…よし!」
と、オオガキは思いついたように顔を上げると立ち上がり、酒場中のみんなに聞こえるボリュームで言った。
「今から腕相撲で俺に勝った奴には奢ってやるぜえええい!」
ええ!?とウェリアムが驚いてオオガキのグラスを見ると、
「ちょっ、これ酒じゃん!昼間から何飲んでんのさ、もー」
はあ、と呆れながら、諦めて半ばヤケで食事を続ける。
声に反応して奥から歩いてきたのは、がっしりした体格の坑夫の三人組だった。
「がっはっは、面白れえ坊主だな。俺たち坑夫はつええぞ?」
「おーけーおーけー。やろうぜ」
「負けてから驕りはなしなんて言うなよぉ?」
「わーってるって。さっさとやろう」
オオガキが言い、手をセットする。
相手の坑夫もニヤニヤしながら手を差し出し、
「レディ」
「「ゴー!」」
どんっ。
「あ、あん?」
情けなく漏れた声は坑夫のものだ。
一方オオガキは立ち上がって、
「あいむうぃなー!うぇるかむにゅーちゃれんじゃー!」
なんて呂律も怪しい舌で言っている。
「げ、偶然だろ…」
なんて言いつつ負けた坑夫の仲間が二人やってきて勝負を挑むが、
どん!ばん!
オオガキ三連勝。
「はっはー。俺様!超!最強!」
流石に偶然ではないことを悟ったのだろう、坑夫達は渋々席に戻りを再開した。
「もう終わりかあ!挑戦者はおらんかあ!」
「ちょっと兄貴、うるさすぎ。あんなの見たら誰も来な……」
「たのもう!」
よく通る男の声が響く。
「おお?残念だったなウェリ、来やがったぜ!よし、やろう!」
「はあ…もう。ほどほどにしてよー」
ウェリアムはまた呆れモードに入って声のした方を見ると、2メートルは軽く超えているであろう、ものすんごく体格のいい、茶髪を後ろでまとめた男がいた。
「あー、あの、兄貴。これはやめておいた方が……」
「いやいや、相手が強い方が燃えるってもんだろうよ!」
と、オオガキが言ったのに反応して男が、
「ああいや、違う!やるのは俺じゃなくてな!」
男は首を後ろへ向けると、
「やるのは彼女だ!」
そう言い放った。
「……」
「……」
オオガキとウェリアム、二人顔を見合わせて沈黙する。
彼の後ろから現れたのは、小さい、いや、それは彼と並んでいるからそう見えるだけか。赤い髪を後で一つに結び、全身にホワイトな衣装を纏った、エルフの女性だった。
「ん?どうしたお二人さん。相手がエルフじゃ不満か?」
巨人が問うのに対しオオガキが答える。
「あー、いや……そういうことじゃないけどさ、俺はあんたとやってみたい」
エルフとは、基本的に弓を使い戦う種族だ。剣で戦うオオガキと腕相撲で張り合えるほどの腕前の者はなかなかいないだろう。それに対してジャイアントは、近接戦闘に特化している。
「ふぅむ。そう言うが見ての通り俺はジャイアントでな?戦闘種族と人間が腕相撲ってのは、流石にそっちに分が悪かろうよ。それにーー」
続く言葉は、それまで黙っていた赤髪のエルフが、
「彼と戦いたくば、この私を超えてゆけーい!」
しゅばっ、とオオガキを指差しながら言った。
二人はふたたびぽかーんとする。
暑苦しいジャイアントに、クールなエルフ。そんな一瞬のイメージは今崩れ去った。いや、勝手なイメージにもほどがあるのだが。

なんやかんやで、迫力に押されたオオガキは、二人組みのジャイアントとエルフの、なんとエルフと腕相撲をすることになった。
「私左利きなんだけど」
エルフが言う。
「オーケーだ、左でやろう」
「なめてくれるわねー。人を見た目と種族で判断してると痛い目見るわよ?」
「然り然り。昔ナイフ片手に俺の懐まで飛び込んでくるエルフが居た時は驚愕したもんだぜ」
懐かしむ声はジャイアントのものだ。
「そうまで言うなら本気でやるけど……知らないぜ?怪我しても」
「うふふ。怪我するのはどっちかしらね。さて、」
机に立てた腕を握り合う。
「レディ…」
「「GO!」」
勝負は一瞬で終わるーーほとんどの人はそう思っていただろう。
「んぐぐぐぐ」
「むうううう」
開始1分。双方腕は未だに開始位置から動かせていない。
「やるなあ、アイツ」
巨人が隣のウェリアムに話しかけてくる。
「いやいや…そっちのエルフさんも異常な強さですよ…あ」
とん、と軽い音がして、手が机につく。
勝ったのはーー、オオガキだ。
「いやー強いわね。参ったわ…」
負けたエルフがちょっとだけ悔しそうに言う。
「そっちもエルフとは思えない強さだったぜ?どんな鍛え方してるんだか……」
「それは企業秘密ということにしておくわ。それ以上強くなられたら、私が勝てないじゃない。そもそも効き手同士だったら負けてたもの」
「まーまーそう言わず教えて下さいよお嬢さん。そこのジャイアントさんにもまとめて奢りますから!」
「マジでっ!?よしわか……」
テンション急上昇の巨人の口をエルフが抑えて言う。
「お誘いありがとう、でも残念だけど私達は用事があってここに来たの。そろそろ行かないと」
オオガキは、そっかーそれならまぁ仕方ない、と残念そうに言って諦めるが、隣の巨人くんは諦めずに、
「一杯だけでも奢ってもらおう!」
「ダメよ」
即拒否された。
「それじゃあ御機嫌よう、すけこましのオオガキさん」
そう言って、エルフは悠然と、ジャイアントも諦めて酒場を出て行った。
「なんか、凄いコンビだったね」
残されたウェリアムとオオガキが話し出す。
「ああ、あんな強いエルフがいるなんてなあ。世界は広いな、ワクワクしてくる!」
「そういえばあのエルフさん、兄貴の名前知ってたね、なんでだろ」
「ああ…なにやら俺は巷で有名なすけこまし野郎らしいからな……。しまった、あの二人の名前聞くの忘れたぜ…」
「兄貴兄貴、すけこまし、ってどういう意味?」
オオガキは、しまった!と思いつつも平静を装って、
「凄く強い剣士、って意味だ、覚えておけ妹よ」
平然と偽情報を流した。
「ふーん。いつの間にか兄貴もそんな有名人かあ」
なんとか威厳は失わずに済んだようだ。
それどころか好感度アップかもしれない。やったねオオガキくん!


バンホールの街を、やたら身長差のある二人が歩いている。
一人は茶髪のジャイアント、もう一人は赤髪のエルフだ。
彼らはバンホールの奥にある、バリダンジョンを目指して歩きながら話している。
「どうせ時間はまだあるんだ、一杯くらい貰ったってよかったんじゃないか?」
「駄目よ。貴方一杯で酔い潰れて朝まで起きないほどお酒飲めないじゃない。そのくせに好きだし」
「いいじゃあないか!酒も眠りも戦闘も!存分に楽しむことこそジャイアントの努めッ!」
「はいはい、わかってるから静かにして。テンション高いわ」
ジャイアントは、むむ、と言った後裏声で、
「さっきノリノリで『彼と戦いたくば、この私を超えてゆけーい!』なんて言ってた奴とは思えないセリフだ…」
聞いたエルフは顔を真っ赤にしてジャイアントの顔を見た後、
「う、うううるさいわね!なんかテンションあがっちゃったんだもの!仕方ないじゃない!」
キレ気味に叫んだ。
対してジャイアントは平然して、
「お前昔から変なとこでいきなりテンションあがるよなあ……」
「そんなことよりさっさと行くわよ」
「いやいや。どの道深夜まで扉は開かんないじゃないか」
「……」
「その顔は忘れてたな?……まあいい、宿はとってあるから夜までそこで潰そう」
時刻は15時、バンホールには雨が降り始めた。

つづく
~~~~~~~~
難しい。新キャラ出すのが難しい。
そしてキャラが安定しない。
精進します。
5
「アカンパニー〈同行移動〉、ダンバートン!」
叫ぶと同時、オオガキと、抱え上げられた少女が光に包まれた。
光の晴れた時、そこはもう森の中ではなく、商業の盛んなウルラ大陸の中心にある町、ダンバートンだった。蜜蝋の羽を使うとその町の中心部へとワープするので、あたりは人でごった返している。
オオガキは早足に、しかし抱えた少女を揺らさない様慎重に人の波を抜けると、ヒーラーの家に向かった。

ダンバートンでヒーラーの家を経営する男、マヌスは、優秀なヒーラーだ。
オオガキが運び込んだ少女の状態を、何も尋ねずにすぐに見抜き、即時に適切な処置を施した。
そんな敏腕ヒーラーのマヌスだが、
「ふう。これでもう心配はないぞ。このマヌス様の腕に狂いがあるはずもないからな」
と、初対面の時からこんな調子なので、苦手と思う人もいるようだ。しかし彼の腕と、人助けの心意気を知っているオオガキは、昔から大怪我をすればここへ通い、この調子にも完全に慣れてしまった。
「それで、何があった?」
マヌスが少女に布団をかけながら質問を投げかける。
だがオオガキにも、少女なにがあったのか把握できてはいない。
「わかんねえ。森で何かを威嚇してるクマ見つけたから、不意打ちで狩った後に木陰を見てみたら、その娘がいた」
マヌスは額に腕を当て、考える素ぶりを見せながら、
「外傷からしてクマに襲われた感じではないが…引っかき傷ではなく、魔術でやられているぞ、あの娘は」
オオガキはそれに頷き、
「そうなんだよな。服に焦げ跡があるからおかしいと思ったんだ。でも、辺りには誰もいなかったし、あんな人の通らない森の中で盗賊に襲われるとも考えにくいしな……」
「ふむ、まあ並々ならぬ事情があるのかもしれん。目覚めるまでヒーラーの俺が責任をもって見ておくから、安心して帰ってくれていいぞ」
「なーんて言って、俺が出ていったら襲ったりとか」
このヒーラーがそんなことする訳もないが、ちょっと茶化して見る。
「ありえんな。お前と違ってロリコンではないし、患者に手を出すヒーラーがどこにいるか」
さらっとロリコン扱いされたのは受け流したのか、否定ができなかったのか。
「まあ、マヌスなら安心だけどな。でも、これからすることもないし、もう少しここにいようかな」
「ま、仕事の邪魔にならんなら構わんが。患者も寝ているし、どれ、マヌス特性マッサージでもしてやろうか」
「げっ…やめとくよ。すっげー痛いって噂だ。それより、怪我の治療法でも聞いてる方が有意義そうだ、もしかしたらアンタより有能なヒーラーになったりして」
実はそこそこの筋肉の持ち主であるヒーラーマヌスは、その痛みが身体によいのだ、と言いたかったが飲み下す。
「ふははは、一朝一夕の経験で俺を越えられるわけがあるまい。いいだろう、簡単な応急処置くらいなら短時間でも覚えられる」
ーーーーこうして、今日も一日が過ぎて行く。

6
翌日、オオガキはダンバートンの南側に位置する自宅で朝を迎えた。適当に自分の朝食を済ませた後、ペット達にもエサをやり、出掛ける用意をする。
昨日、マヌスに応急処置を教わって、大量の包帯(恐らく売れ残りの大量在庫だ)を押し付けられ、大量の包帯を自宅へ持ち帰る途中、妹のウェリアムに会った。
と言っても、実の妹というわけではない。昔から家が近かったのでよく遊んでいたら、なんとなく妹の様な存在になっていた。ウェリアムの方も似たような思いなのだろう、オオガキのことを兄貴と呼んでいる。
そして昨日遭遇した時、頼みごとを聞いたのだ。待ち合わせの時間まであと30分、寄り道もしたいしそろそろ家を出よう。

昨日使ってしまった緊急用蜜蝋の羽を補充しておこうと、広場の露店を見回ったが、20分たっても見つからなかったので諦め、待ち合わせ場所に向かう。
昨日ウェリ、ことウェリアムから頼まれたのは、交易、要は行商。別の街に荷物を運んで売るので、その手伝いをして欲しいということだった。
交易自体は、安く買った荷物を荷馬車で別の街に運び、高く売るという、さして苦労するものでもない作業だ。
しかしここ最近は、その荷物を狙った盗賊団がたびたび現れており、襲撃に合う商人が後を立たない。しかも品物を奪うだけでなく、運んでいる人にまで危害を加える奴らもいるらしい。
そんなわけで、今日頼まれたのは護衛任務、というわけだ。
待ち合わせ場所のダンバートン北門に着くと、誰かが門の外で積み荷を積んでいるところだった。
肩まで降りた黒髪に深紅の両目、ウェリアムだ。動きやすさを重視したのか、今日は身軽そうな格好の彼女がオオガキに気づき、声をかけてくる。
「お、きたね兄貴。ささ、これを積むのを手伝ってくださりませ」
見ると、積まれてるのは麦のようだ。
「どこまで運ぶんだ?これ」
「ちょっとバンホールまでね。あっちの方は農場が少ないから高く売れるんだ」
「ふーん。ま、いくか。バンホールなら手早く戻ってこれるだろ」
話しながらも手を動かし、積み込み完了。そして出発。

ダンバートンの南に位置する街、バンホールは、鍛治の盛んな都市だ。
行くにはダンバートンを南門から出て、ひたすらに真っ直ぐ。途中にあるドラゴン遺跡は鉱山が豊富な上に、岩を削ってドラゴンの形にした巨像がある故、ちょっとした観光名所になっていたが、いまや鉱石も取れなくなり、ドラゴン像を見にくる人もまばらだ。

「兄貴ぃぃ~、重いぃぃ、これ押すのかわってええー」
「嘘つけ、たかだか麦が重いわけないだろが」
出発から一時間、オオガキとウェリアムは、ドラゴン遺跡に差し掛かろうという所だ。
「女の子は繊細なんですよー。ほらほらどうせ兄貴なにも持ってないし」
「ははは馬鹿言え、この背中の大剣が目に入らぬか。凄く重いんだぞ」
「でも兄貴それ背負ったまま大荷物持ったりしてるじゃんよ」
「うっ、それは…今回の頼みは護衛だろ、そっちに集中しーーウェリ、ちょっとストップ」
数百メートル先、ドラゴン遺跡の丁度中心あたりに、腰に短剣を携えた男が立っている。
「怪しいな…観光客の可能性もなくはないけど…」
「え、誰かいる?どこどこ」
「ドラゴン遺跡の真ん中あたり。よしウェリ、交代だ、荷物持つよ」
言って、オオガキがウェリアムから荷車の持ち手を奪う。
「え、兄貴がそれ持ったら戦えないじゃん?」
「まだ盗賊と決まったわけではないしな。もしそうならこれ放り出してボコすから、ちょっと離れて付いてきてくれ」
「あ、そっか。了解であります、兄貴」
言って、二人は歩き出し、遺跡に足を踏み入れる。この辺りは周りが見渡せないので注意が必要だ。
ちょうど遺跡中央、ドラゴン像を見上げてる怪しげな男に向かって、オオガキが警戒の色を隠し話しかける。
「こんにちはー。こんなところに人なんて珍しいですね、観光ですか?」
男はそれまでオオガキの存在に気づいてなかったのか、一瞬驚きの表情を見せたが、
「ああ。このドラゴン像がどうも気に入っててな。よく見に来るんだ、家も近いんで」
とりあえず観光客ということを確認したオオガキが安堵しかけた、その時だ。
オオガキの背後、ウェリアムが歩いているであろうあたりから、
「きゃああああああああ」
悲鳴、そしてゴンッ、と、何かを殴ったような音が響いた。
「しまッーーー」
言いつつ、慌てて振り返ると、そこには……。

~~~~~~~
振り返ったオオガキの目の前に広がった光景とは!?
次回に続きます!