前回まではこちらです。
ロビンソン解釈 

 





今回はいよいよサビへ行きます。
 
誰も触われない 二人だけの国 君の手を離さぬように
大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る
 
サビは難解、かついろいろな解釈が可能のように思います。
「君」は前出の特別な存在である「サリーなる君」。
そうすると、「二人だけの国」とは僕とサリー的なるものの国になる気がしますが、
そうでしょうか?
 
一聴すると、「僕」と「君」、「二人だけの国」にはどうしたってあなた自身と他の誰か、おそらくは恋人を連想します。
ですから、「二人だけの、誰にも邪魔されない、されたくない、聖域としての二人の国」とユートピアと取るのが普通。
ポップミュージック的にも使い古されてはいますが、素敵です。

 
つまり、「僕」と「君」=「二人」と取ることで、閉鎖的だけど美しい、分かりやすいラブソングに聞こえるのです。

この一般的な解釈なら、何にもない「僕」と「君」だけど、今にも壊れそうだけど、「僕」と「君」がいればそれだけでいいじゃないか。
90年代の「神田川」となり、これはこれで綺麗です。

「二人だけの国」、「君の手を離さぬよう」、「誰も触れない」などなど。
ただ難解なだけでなく、共感可能な耳なじみのいい歌詞を散りばめる。

よく分からない、ともすれば意味不明にも聞こえるAメロ、Bメロでたまるもやもやも、サビである程度のカタルシスが果たされるのです。

ここが最大のヒットの要因だと思います。
 
そして、同時にここが難解と言われる所以だと思います。
Aメロ、Bメロの意味を取ろうとするとサビとの整合性が取れず、とんでもない解釈を生んでしまうのです。

ところで、
「神田川」もすばらしいラブソングです。

「若かったあの頃」、
時代の空気(終わった時代の空気、60年代の残り香)が一見何の変哲もない、おそらくは軟弱な二人の後悔を美しくさえ見せています。


 
 

では、自分の解釈のほうへ戻ります!
 
 
「僕」と「君」≠ 「二人」です。
 
「二人」とは僕とあなた、あなたと彼、彼女とあなた。

「同じセリフ」を吐いてしまう「僕ら」です。
 
 
サリーなる「君」は、「二人」=「僕ら」をつなぐ媒介であって、閉じこもる性質のものではないからです。

 
閉じこもる(二人だけの国)のはダメな僕らであり、サリーなる「君」に追いつけば、「君」はむしろ「僕ら」を解放してくれるはずなのです。

もし、「僕」とサリーなる「君」のユートピアを歌うのであれば、それは単なる逃避に過ぎません。
その逃避を歌ってしまう輩もいますが、臆病かつかみつきスピッツは本当の逃避など可能だとは思っていません。
 
地下室の隅っこ出身、「君」を奪って逃避行を企てても、ごめん、僕の尻尾には糸がついてたんだ(いつでも戻ってしまう)。
それがスピッツの基本姿勢。
もちろん上は「スパイダー」より。
 

ということは、「僕ら」=「二人」が作るリアルな国、世界でなければなりません。
「二人だけの国」を作る媒介が「君」であって、「二人」とは「僕」と「君」ではないのです。
 

そしてここから大きく宇宙にまで飛躍します。
意味でつなげていくと、ここでは魔法にかけられた僕らは宇宙にまで飛び出せるという意にもなり、少々クスリの匂いのする表現にもなります。それも一種アリだと思うけどドラッグの歌はつまらない。
 
ここは魔法ですから、音に頼らなければ解釈がぶれます。
 
スピッツが提示した「魔法」はなんとも頼りなげではかない。
 
音階の上がっていく昂揚感を聞いてハッピーですか?
いつまでも二人の世界はハッピーですか?
 
いえ、このメロから受け取るのは、いつか落ちてしまう不安感、浮かんでるのに今にも落ちそうな浮遊感だと思います。
 
ありふれた魔法によって宇宙を浮遊する僕ら。
 
先人の魔法の数々をかすかにとらえて、わずかに吹く風をあつめて、あなたと誰かは風に乗れるかもしれない。
でもそれはいつかはとける、いやとけないで。
 
それは決して実現しないものかもしれません。
それを知ってるからこそ、諦めてるからこそ美しいのかもしれない。

でもその風に乗れる可能性に気づいた時、可能性を信じた時、少なくともその時は僕らも一気に宇宙へと飛べる。
あこがれに同化できる。
 
それを可能にするのが、繰り返されるサリー的な「君」。
そして、情けない時代に生きる「僕ら」かすかな連帯意識なのです。
「同じセリフ」を持つ「僕ら」は時に「君」を媒介に「大きな力」を得ることができるのです。
 

「ルララ」は言うまでもありません。
60年代美メロをルーツに持つなら、そりゃあ「ルララ」。
ウォウウォウやイェイイエィでは絶対にない!
 
もし、90年代に平気でウォウウォウ、イェイイェイと歌ってるバンドがあれば、信用してはいけません。
あのバンド?あの人?
いやいや、比喩で。
 
で、循環するようにAメロに戻ります。
お付き合いいただきありがとうございました。
続きはまた次回で。