前回のロビンソン解釈①。
 
冒頭のライン、「新しい季節」でいきなり終了。
今回はBメロまで行きますよ!
 
まずはAメロ。
 
"新しい季節は なぜかせつない日々で
河原の道を自転車で 走る君を追いかけた
思い出のレコードと 大げさなエピソードを
疲れた肩にぶらさげて しかめつら まぶしそうに
 
 
次の課題は、「新しい季節」の中にいる「君」。
ここを恋人と捉えるリスナーがすごく多い。
 
一概に間違いだとは思いませんが、優れたラブソングの「君」は恋人を超えた多様な意味を孕むもの。
 
一般的に「君」は僕らが憧れたもの、手に入れたかったもの、手にできると思ってスルリと逃げていったものの象徴です。
 
ロックの文脈で考えるなら、オアシスのアンセムDon't look back in angerの「サリー」と同じ解釈と思って構わないでしょう。
 
異論はあるかもしれませんが、一言で言えばロックのメンタリティを支えるコアの部分にいる女の子
彼女はコンプレックスを抱える普通の子。
みんなの前では明るくかわいい子。
でもベッドルームではひとりぼっち。
いつかここから出られる自由を信じてる。
 
ロック黎明期ののっぽのサリーからはじまり、同じく60年代への憧憬を隠さなかったストーンローゼズのサリーシナモンへ。
そしてオアシスです。
 

 
 
ロックの象徴としての「サリー」。
「サリー」は今ここにいるじゃないか、待ってるじゃないか、聞こえないのか?というのがオアシスのオアシスたる所以。
オアシスについては長くなるのでまた別の機会へ。
 
 
スピッツに戻りますが、
スピッツにとっての「サリー」=「君」は追いかけても追いつけない一歩先を行く、自転車に乗ったサリーなんです。
 
 
「思い出のレコード」、「大げさなエピソード」はここまで来れば言わずもがな。
90年代はCD全盛。
でも、僕は95年にちょうど二十歳。
ローティーン時代はレコードとCDは半々。
マサムネは8つ年上のようですから、この時28くらい。
早熟な音楽ファンであれば、コレクションのほとんどはLPでしょう。
でも、自分たちがリリースするのはCD。
しかも、へんてこな8センチCD。
 
 
ですから、思い出のレコードは、自分たちのものでない、古き良き時代の憧れのレコード
エピソードも、例えばウッドストックに代表されるような、決して自分たちのものにはなり得ない伝説。
つまり、思い出のレコードも、大げさなエピソードも、彼らが夢中になってかき集めてきたサブカルチャーの蓄積なのです。
その延長に、何かがあると信じていたカルチャーです。
 
だから、
ロビンソンのサリーは「しかめつら」(僕らにないものを持ってる世代への嫉妬と何もない自分たちへの自虐)で、「まぶしそう」(あこがれ)なんです。
 
愛憎入り混じる僕たちの世代とかつて何かがあった世代、冒険のできた世代への憧れが綴られるのがAメロ。
 
 
で次。
 
 
"同じセリフ 同じ時 思わず口にするような
ありふれたこの魔法で つくり上げたよ"
 
この気づきのラインに涙腺がゆるみます。
「新しい季節」=「同じ時」に出る「同じセリフ」。
 
何にもない、ゴーイングゼロ、デッドエンド、
否定的で愚痴のような負の言葉の数々。
90年代を特徴づけるのが、「何にもない」こと。
時代は、何かあると思ってた世紀末に近づいているのに、何かが起こる気配はない。
バブルははじけ、信じていた未来もない。
冷戦が終わっても、その穴を埋めるように別の争いが起こる。
何かの始まりを思わせたグランジ、カート・コバーンも死んだ。
「何もない」ことに自覚的であり、自虐的である世代。
 
そんな虚無的な世界感。
でも、皆が「同じ時」に居合わせている。
たとえそれが「何にもない」だとしても、「同じセリフ」として共有している。
それが世代感。
「何にもないね」「つまんないね」「何も変わんないね」「意味ないね」
それが最悪の「同じセリフ」だとしても。、
 
 
「ありふれた」はやり尽くされた意でしょう。
自分たちの曲が「古い」ことに自虐的です。
特に「空の飛び方」以降のアルバムはメロディーに重きを置きだしていています。
でも、そこには「魔法」が、マジックがある。
60年代だろうが、世紀末だろうが、それは変わらないはず。
やりつくされてたって、変わらぬ魔法がある。
 
釈迦に説法かもしれませんが、ここでラヴィン・スプーンフルの「魔法を信じるかい?(Do you believe in magic?)」は知っておくべきでしょう。

 
でも、この「魔法」。
当たり前ですが、「Do you believe in magic」である必要はありません。
魔法は音楽。あなたを解き放ってくれる、変えてくれる音楽です。
魔法にかけられたスピッツ、
でも魔法はひょっとすると自分たちにもかけられる
 
Bメロおしまい。
長くなるのでサビは次回で。