プロレス人間交差点 鈴木修☓安部潤 後編「コブラさんからの手紙」 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

ジャスト日本のプロレス考察日誌

プロレスやエンタメ関係の記事を執筆しているライターのブログ

ジャスト日本です。

 

 

 

 

「人間は考える葦(あし)である」

 

 

 

これは17世紀 フランスの哲学者・パスカルが遺した言葉です。 人間は、大きな宇宙から見たら1本の葦のようにか細く、少しの風にも簡単になびく弱いものですが、ただそれは「思考する」ことが出来る存在であり、偉大であるということを意味した言葉です。

 

 

プロレスについて考える葦は、葦の数だけ多種多様にタイプが違うもの。考える葦であるプロレス好きの皆さんがクロストークする場を私は立ち上げました。

 

 

 

 

さまざまなジャンルで活躍するプロレスを愛するゲストが集まり言葉のキャッチボールを展開し、それぞれ違う人生を歩んできた者たちがプロレス論とプロレスへの想いを熱く語る対談…それが「プロレス人間交差点」です。

 
 
 

 

これまで3度の刺激的対談が実現しました。

 

 

 

 

 

プロレス人間交差点 棚橋弘至☓木村光一 

 

 

前編「逸材VS闘魂作家」  

 

 

後編「神の悪戯」 

 

 

 

 

 

 

 

プロレス人間交差点 木村光一☓加藤弘士〜アントニオ猪木を語り継ごう!

 

前編「偉大な盗人」 

 

 

後編「闘魂連鎖」 

 

 

 

プロレス人間交差点  佐藤光留☓サイプレス上野 

 

前編「1980年生まれのプロレス者」 

 

 

 

 

後編「幸村ケンシロウを語る会」 

 

 

 

 

 

 

4回目となる今回は作曲家・鈴木修さんと作編曲家・安部潤さんのプロレステーマ曲の巨匠対談をお送りします。

 

 

 

 

 

 
 
 

 

(写真は本人提供)

 

 

鈴木修

作曲家、ギタリスト。1965年静岡県出身。

1986年よりTV番組や舞台音楽制作者として活動。三冠王者、IWGP、GHC、G1 チャンピオンなど多くの選手達に楽曲を提供。、プロレスファンの間では「ミスター・プロレステーマ曲」と呼ばれている。現在はプロレスや舞台の創作を中心に、放送関係出演、個人様御依頼の制作や演奏といった多岐に渡る音楽活動を行っている。

 

主な楽曲提供選手:遠藤哲哉、藤波辰爾、武藤敬司、橋本真也、蝶野正洋、船木誠勝、佐々木健介、小橋建太、越中詩郎、小島聡、秋山準、潮崎豪、ジェイク・リー、グレート・ムタ等。

 

X(Twitter)https://x.com/OTOSAKKA56

 

 

 

 
 

 

 

(写真は本人提供)

 

安部潤

3歳より、ピアノ講師である母のもとピアノを始める。92年より上京、作編曲家・サウンドプロデューサーとして、J pop、Jazz Fusionシーンにおいて数多くのレコーディング、ライブツアーに参加、また映画、イベント、またテレビやラジオのCM音楽など、多岐に渡るジャンルの音楽を幅広く手がけている。「初⾳ミク」のLA公演、タイのジャズフェスへの自己グループでの出演、中国の国民的アーティストの楽曲の編曲など、海外での活動もめざましい。LAやNYレコーディングを含むJazz Fusion系のソロアルバムを3枚リリースしている(最新作、「Walk Around」Sony Music)。昭和音楽大学非常勤講

 

オフィシャルウェブサイト

https://junabe.jp/

 

X(Twitter)https://x.com/JunAbe_JunAbe2

 

 

 

 

 

 

新日本プロレスの数々のオリジナルテーマ曲を世に生み出した「ミスタープロレステーマ曲」鈴木修さん。ウッドベル時代の新日本プロレスのオリジナルテーマ曲を制作された「インストゥルメンタル・アーティスト」安部潤さん。プロレステーマ曲の巨匠二人による対談はおおいに     

 お二人のテーマ曲との出逢い、テーマ曲の作り方、思い出のテーマ曲など対談は大いに盛り上がりました。

 

 

 

是非ご覧下さい!

 

プロレス人間交差点 鈴木修☓安部潤 前編「プロレステーマ曲の巨匠対談」 

 

 

 

 

 

プロレス人間交差点 

鈴木修☓安部潤

後編「コブラさんからの手紙」

 

 
 
 

 

 

 

 

 

 

グレート・ムタのテーマ曲『MUTA』誕生秘話

「色々なシチュエーションに融合していくのを最初からイメージして作ったのが『MUTA』」(鈴木さん)

 

 

 

 

──実は今回、昭和プロレステーマ曲研究家のコブラさんからお手紙を預かっているんですよ。

 

安部さん ちなみに大変失礼かもしれませんが、コブラさんはどういった方なんですか?

 

──昭和プロレステーマ曲研究家で、プロレステーマ曲に関しては多分日本でトップクラスで詳しい方なんですよ。

 

安部さん そうなんですね。

 

鈴木さん コブラさんや木原文人リングアナウンサーが揃ったらすべてのプロレステーマ曲は網羅できますよ。私は自分のテーマ曲のこともこの二人に聞きますから。どの日にどの会場で流れたとか。みんな教えていただいてますよ。あの域に達するのは本当にすごいと思います。

 

──コブラさんの著書『昭和プロレステーマ曲大事典』は尋常じゃないほどのマニアックな作品なんですよ。そのコブラさんの手紙には鈴木さんと安部さんへの質問がございましたので読ませていただきます。

 

「鈴木さん、ご無沙汰しております。昨年のGスピリッツのインタビューの際はお世話になりました。安部さん、初めまして。昭和プロレステーマ曲研究家のコブラと申します。今回はジャスト日本さんにお願いしまして、失礼ながらお二方に書面という形でご質問させていただきます。よろしくお願い致します」(コブラさんからの手紙より)

 

鈴木さん  よろしくお願いします。

 

安部さん よろしくお願いします。

 

 

 

──「一つ目の質問です。グレート・ムタについてお二方にお聞きします。まず鈴木さんへの質問です。別キャラの曲をアレンジするという手法は90年代のテーマ曲界において最大の発明であり快挙だと思っているのですが、最初に『HOLD OUT』を和風アレンジにするというアイデアは如何にして生み出されたのでしょうか?」(コブラさんからの手紙)

 

鈴木さん   ムタのテーマ曲を制作することになって、「ムタは忍者なので曲調は和風だよな」というイメージができてました。私が若い頃から色々な神社や仏閣巡りをしていて、そこから得たヒントも入れたり、あと歌舞伎や能楽の色々な楽器を使って、津軽三味線とかも全部自分の中でごちゃまぜにして、忍者と和風をイメージして『HOLD OUT』の旋律に乗せて作ったんですよ。『MUTA』のプロトタイプは音を一個ずつ流して繋げていって、シーケンサで最初のベースとドラムのテンポだけ作っておいて、あとは全部手で弾きました。「ムタ」「よぉー」という掛け声を自分でマイクに言って完成しました。制作時間が短くてあっという間にできたテーマ曲でした。

 

──冒頭の「ムタ」の掛け声は鈴木さんの声だったんですね!

 

鈴木さん マイクを持って掛け声するとメーターの針が左右に揺れまくったんですよ(笑)。CDのレコーディングの時にエフェクターの方からもっと叫ぶ感じでやろうとか色々なアイデアが出たんですけど、私はボソッと言った方がいいと思ったので、プロトタイプもCDでも掛け声は同じでしたね。

 

──それは正解ですね。あれで不気味さが増しましたから。

 

鈴木さん ありがとうございます。ムタがスーパー・ストロング・マシンとよみうりランド(1991年8月25日)で闘った時に月が出ている中で入場したりとか、色々なシチュエーションに融合していくのを最初からイメージして作ったのが『MUTA』でした。私も楽しく制作できたので本当に感謝しています。

 

 

 

──鈴木さんが制作した『MUTA』の次にムタのテーマ曲を担当されたのが安部さんです。コブラさんの手紙でも言及されているので読ませていただきます。

 

安部さん はい。

 

──「安部さんへの質問です。ムタの手法は『トライアンフ』に変わってからも受け継がれ、『愚零闘武多協奏曲』を安部さんが編曲という形で手がけられました。この曲の製作秘話のようなものがあれば是非お聞きしたいです」(コブラさんからの手紙)

 

安部さん 『愚零闘武多協奏曲』も鈴木敏さんからの指示でしたね。この曲も含めた7曲収録のイメージアルバムで出したんですが、ムタって悪役ではありますけど悲壮感もありますよね。そうしたものも出しつつ、劇判(映画やドラマなどのストーリー中に流れる音楽)のようなイメージで製作した記憶がありますね。

 

 

小島聡選手のテーマ曲『RUSH!!』誕生秘話

「小島さんは僕の中では正統派プロレスラーのイメージがあったので、ちょっと色を出すのは難しかったような記憶があるんですよ」(安部さん)

 

 

──ありがとうございます。ここからコブラさんの次の質問です。

「お二方への質問です。お二方両方とも作曲された数少ない選手の1人が小島聡選手なんですが、それぞれどういったイメージで作曲されたのでしょうか?(鈴木さんは『STYLUS』、安部さんは『RUSH!!』)」(コブラさんからの手紙)

 

 

 

鈴木さん 武藤全日本時代に木原文人リングアナウンサーからご依頼を受けて制作した小島選手のテーマ曲が『STYLUS』。武藤全日本において小島選手がチャンピオン、トップレスラーとしてやっていくというイメージで作りました。2021年に出したCD(『鈴木修ワークス 爆勝宣言』)の中に『STYLUS』が収録されていますが、これは現場で使われたものじゃないんです。現場で使われていたのはプロトタイプで、力強く音の輪郭の部分がうまく出せなくて、そこは残念だったなと思います。でも2021年発売のCDではうまく制作できたなと思っています。

 

──小島選手のテーマ曲に関しては鈴木さんよりも安部さんが制作した『RUSH!!』のイメージが強くなってしまうんですよね。

 

鈴木さん そうなんですよ。私は新日本担当を離れてから他団体も含めてあまりプロレスのテーマ曲を聞かなくなったんですよ。小橋さんの時の全日本やノアの時に比べるとそこまでガッツリ関わったわけではない時にご依頼を受けたので、その辺がテーマ曲制作においてちょっとピントが絞り切れていなったなという反省点がありますね。

 

──安部さんは小島選手のテーマ曲『RUSH!!』をどのようなイメージで制作されましたか?

 

安部さん 小島さんは僕の中では正統派プロレスラーのイメージがあったので、ちょっと色を出すのは難しかったような記憶があるんですよ。直線的なイメージで曲を作ったような感じです。

 

──『RUSH!!』は名曲で未だにこの曲がかかると自然発生的に「小島」コールが発生しますからね。

 

安部さん そうなんですね。余談ですけど、近くのカレー屋で偶然、小島夫妻にお会いしましてご挨拶させていただきまして、緊張しながら「小島さんのテーマ曲を制作させていただきました」とお伝えすると気を付けして深々とお礼して「ありがとうございます」と言ってくださり、本当にいい人でした。

 

──安部さんが制作されたテーマ曲の中でも『RUSH!!』はプロレスファンに愛されてる屈指の名曲だと思います。

 

安部さん ありがとうございます。

 

 

 

なぜ、藤原喜明選手は一時期『ダーティーハリー4 』をテーマ曲にしていたのか?

「この曲の件で藤原さんとお話はしてなくて、田中秀和リングアナウンサーから『UWFの匂いがしないものを』と言われたのは覚えています」(鈴木さん)

 

 

 

 

 

──コブラさんからの鈴木さんへの質問です。

 

「去年のGスピの取材で聞けなかった事なんですが、昭和63年に藤原喜明がドン・ナカヤ・ニールセンと異種格闘技戦を行なった時から『ダーティハリー4』に変わったのは、どういう経緯だったのでしょうか?あれだけ定着していたワルキューレから変えるのはかなりの決断だったと思います。自分としては、当時は前田らが新日を離れて新生UWFを立ち上げた頃なので、藤原からUWF色を払拭する狙いがあったのかなと予想していたのですが。あと、出来れば選曲理由もお聞かせ願えれば幸いです」(コブラさんからの手紙)

 

鈴木さん これは新日本からUWFの匂いを消すというようなことを依頼されまして、『ワールドプロレスリング』の中で関節や小物を折るSEをつけて『ダーティハリー4』を採用させていただきました。この曲の件で藤原さんとお話はしてなくて、田中秀和リングアナウンサーから「UWFの匂いがしないものを」と言われたのは覚えています。

 

 

 

『炎のファイター』オーケストラバージョン誕生秘話

「全然予算がなかったので、全部打ち込みでやりました。当時はソフトシンセとかなかったので、CDとかを駆使して頑張って作りました」(安部さん)

 

 

──ありがとうございます。コブラさんから安部さんへの質問です。

「『炎のファイター』をはじめ『パワーホール』や『燃えよ荒鷲』など過去の名曲のアレンジをご担当される事が多いですが、その際に心がけていた事はございますか?『トライアンフ』よりもさらに『古典』というべき曲ばかりなので、かなりのプレッシャーもおありだったかなと思いますが、そのあたりのご心境もお聞かせ願えれば幸いです」(コブラさんからの手紙)

 

安部さん どの曲も原曲がインパクトが強かったんです。音は昔の音源はあるけど、CDにするときに演奏の権利上できないときは完コピが多かったんですね。『燃えよ荒鷲』は結構大変でしたけど。『炎のファイター』も完コピバージョンも作ったことがありました。

 

──『炎のファイター』オーケストラバージョンに関しては後に藤田和之選手がPRIDE参戦時から使うようになりましたね。

 

安部さん あれは何も知らなかったですよ。藤田選手が好きでテレビでPRIDEを見ていたらいきなり流れてきたのでビックリしました(笑)。猪木さんが亡くなってからも色々なテレビ番組でもこの曲が使われているので完全に独り歩きしてますよ。『炎のファイター』オーケストラバージョンは全然予算がなかったので、全部打ち込みでやりました。当時は

ソフトシンセとかなかったので、CDとかを駆使して頑張って作りました。

 

──安部さんが手掛けたリアレンジがかなり古典の曲でしたが、こちらに関するプレッシャーはありましたか?

 

安部さん プレッシャーはもちろんありつつも、自分がそれに携われる喜びの方が強かったかもしれないですね。

 

──これでコブラさんから質問は以上です。手紙の最後に「鈴木修さん、安部潤さん両氏の今後一層のご活躍を期待しております」という一文で締めくくられておりました。

 

鈴木さん ありがとうございました。

 

安部さん ありがとうございました。

 

──では最後の質問をさせていただきます。お二人にとってプロレステーマ曲とは何でしょうか?

 

鈴木さん この質問はよくいただきますし、私も年々、言うことが変わっていっています。この年齢になって感じることですが、選手の人生と一緒に歩んでいけたり、自分の主観と客観、選手の主観と客観とかあらゆるものが交わる部分を担うのがプロレステーマ曲なのかなと思います。

 

──ファンと選手交わる分を接着する役目を果たしているということでしょうか?

 

鈴木さん そういう捉え方もできますし、選手にとってテーマ曲は人生の中の思い出のひとつになったり、自分を奮い立たせるものにもなりますし、それが何か色々なもので繋がっているような気がしますね。時々、選手と会場で会ってテーマ曲の話になって、ファイトスタイルとかプロレス観を聞くと色々なものがそこでクロスオーバーしているなと感じますね。

 

──ありがとうございます。安部さん、よろしくお願いいたします。

 

安部さん 鈴木さんに素晴らしいことを言われてしまい、その後言うのは恥ずかしいんですけど(笑)。映画音楽や昔のヒット曲を聴くと当時の自分を思い出したりするじゃないですか。プロレステーマ曲も昔のことを思い出させてくれる音楽のひとつだと思います。映画とかヒット曲よりも、もしかしたら人によってさらに深い音楽の一つかもしれません。

 

──確かにそうですよね。

 

安部さん プロレステーマ曲は背景音楽の中でもマニアックな世界観があって、人によっては人生の応援歌になっているのかなと思います。仕事に行く前にプロレステーマ曲を聴く人もいるでしょうから。

 

──鈴木さん、安部さん、これで対談は以上となります。ありがとうございました。お二人のご活躍を心からお祈りしております。

 

(プロレス人間交差点 鈴木修✕安部潤・完/後編終了)

 

 

 

 

 

 

 

 

【特別掲載】

鈴木修さんと安部潤さん主要テーマ曲リスト

(昭和プロレステーマ曲研究家・コブラさん作成)
※こちらに掲載している鈴木修さんと安部潤さんが作曲に携わったテーマ曲は主なものをピックアップしています。もし抜けがあったりした場合はコブラさんまでご一報よろしくお願いします!今回、掲載しているリストは2020年4月17日に追加させていただきました改訂版です。
 
昭和プロレステーマ曲研究家
コブラさんのX(Twitter)
https://x.com/kokontezangetsu
 
 
(鈴木修さん)

 

 

 
 
(安部潤さん)