一昨日からアップしてきた宮良さんの楽曲とのコラボ小説の最終話です。
 ぜひぜひ、同タイトルの楽曲を試聴してくださいね♪

         
              http://www.myspace.com/irodolco


コラボ小説『君は唄う』最終話  ~夏みかんの味~



         (3)


 狸小路を真っ直ぐ西に向かい七丁目に差し掛かったところで南に左折すると、以前ぼくが通ってた創成小学校が見える。そして小学校の向かい側、狸小路七丁目の外通りに、ぼくらの目指していた『クリームソーダ』という店があるんだ。
 一方通行の道路脇には、何台ものバイクが停めてあって、翼を広げたエンブレムの黒くてピカピカのバイク。ハンドルが大きく上にせりだしていた。
 なんだかハリウッド映画で、ピーター・フォンダという俳優が乗ってたバイクと似ている。
 店の中を覗くと大量のポマードでリーゼントヘアにした少し恐いお兄さん達が、なんだか踊っているようだった。店の壁も、そしてお兄さん達の革ジャンの背中にもペンキで髑髏のマークが描いてある。
 その髑髏の下には『Too Fast to Live,Too Young to Die』なんて書いてあった。英語は中学で習いたてで言葉の意味はわからないけど、すっごく場違いなところに来たのを肌に感じる。
 ぼくと柴田は店の中を見た後、自然と顔を見合わせた。
 どうする。
 ここまで来て引き返せるわけがない。
 ぼくは、ごくんと一回つばを飲み込んでから、「入るよ」と言った。
 店のドアを開けると、中にいる男達がギロっと音の出そうな視線を投げかけてくる。みんなが思い思いにキメた服装をしていて、誰が店員なのか分からない。
 ぼくらが店の中に入って来ると、店のあちこちからクスクスと押し殺した笑い声が聞こえた。


 「お前ら、笑ってんじゃねぇよ」
 店の奥から裸に革ジャンを羽織った男の人が現れた。
 「いらっしゃい、小さなお客さんだねぇ。小学生かい?」赤い櫛を使ってポマードで光を放つ髪の毛を撫で付けながら男の人が言った。
 「ぼくたち今年、中学に上がったばかりです。先輩の誕生日に、ここの財布をプレゼントしたくて・・・」ぼくは話のわかりそうな、でもすっごくおっかなそうな男の人に説明した。
 男の人は、こぼれるような笑顔で
 「良い後輩達を持った先輩だなぁ。こいつらもそれぐらい思いやりのある奴らだったら苦労しねぇのに」と言いながら店の中にいる男達を見て顎をしゃくってみせた。
 「店長、そりゃないっすよぉ」なんて言葉が聞こえてくる。男の人は豪快に笑いながら、ぼくらをショーケースのところに手招きしてくれた。
 ぼくらは一番流行っているという赤いヒョウ柄の財布を越知先輩に選んだ。男の人はその豪快さと裏腹に実にきれいに包装してくれて、おまけにリボンまで結んでくれた。
 ぼくらは丁寧にお礼を言って帰ろうとすると
 「坊主、これ持ってきな。試作品のサンプルなんだが今度の新商品だ」と言って、パステルカラーの財布をぼくにくれた。エメラルドグリーンの表面にはコブラが口を開けた刺繍が施されていてその下にはPeppermintと筆記体で書かれている。
 ぼくがあらためて深々と頭を下げると男の人は親指を立てて豪快に笑った。

 店を出た後、柴田が「マコっちゃん、良かったね」って声をかけてくる。ぼくはいつの間にか柴田のその呼び方に慣れっこになったのか、「うん。柴田に付き合ったお陰だ」なんて返していた。

 再び、狸小路を通って来た道を戻る。
 途中、「腹空いてないか」と柴田に尋ねて狸小路六丁目の『味の十八番』という食堂に入った。ここは亡くなった親父の友人の店で、店先で『ぱんじゅう』という今川焼きを少し小さくしたような饅頭を焼いている。一個四十円の饅頭では、なかなか商売も出来ないのだろう。店の中はラーメンなどのメニューが並んでいる。




 
 結局、店を出る頃にはぼくを懐かしむ店のおじさんに圧倒されて食事代を断られ、その他にぱんじゅうのお土産を持たされて外に出た。
 「どこに行っても、マコっちゃん、マコっちゃんだね」柴田は本当に可笑しそうに話し掛けてくる。
 ぼくは頭を掻いて苦笑いで返す。
 「でも、今日はいっぱいいろんな人から貰っちゃったね」腕に付けたターコイズブルーのブレスレットと茶色い袋に入った温かいぱんじゅうを交互に見て柴田は言った。
 ぼくは、頷いて「さぁ、帰ろう」と先を促した。


 札幌駅から岩見沢行きの列車に乗ってしまうと、ぼくはまた何だか落ち着かなくなった。
 わざと大仰に欠伸をしてみせて狸寝入りをすることにした。
 柴田は特に気にすることもなく、「おやすみ、マコっちゃん」なんて笑っている。
 ぼくは目の前の柴田の気配を感じながら、長いこと狸寝入りを演じていた。すると目の前の柴田はなにやら鼻歌を歌っている。
 



 彼女の歌う鼻歌は、なんだかとっても優しくって、とっても懐かしい気持ちになるそんな歌だ。
 すごく心地が良くって、ずっとこのまま聴いていたい気持ちになっていた。





 自然とぼくは右耳を柴田の方に向けて薄目を開けて車窓を流れる田園の風景を眺めていた。
 彼女の歌声に合わせて風景がだんだんと黄金色に染まって行く。真っ赤になった太陽が水を張ったばかりの田んぼに反射して夕日が二つあるように見える。
 「きれい・・・」柴田が感嘆の声を漏らす。
 「ああ」知らず知らずにぼくは反応してしまった。
 「なんだ起きてたの」柴田はぼくを見て言った。
 ぼくは応えずに大きく伸びをした。


 周囲が真っ赤に染まった幌向駅に降り、ぼくらは自転車置場に向かう。
 先に口を開いたのは柴田だ。
 「マコっちゃん。今日は本当にありがとう」
 「いや、べつに。ってか何度も言うようだけど学校では、その呼び方やめろよな」ぼくは柴田に再度、釘を刺した。
 「うん、わかったよ。マコっちゃん」また、クスクス笑いながら応じてくる。
 「お前なぁ・・・」ぼくは頭を抱える。
 「なんだか街にいるマコっちゃんって、少しかっこよかったよ。はい、これあげる」と言って、柴田は手提げ鞄から夏みかんを取り出してぼくにくれた。
 ぼくが呆気に取られていると柴田はさっさと自転車を漕ぎ出して
 「じゃあね、また明日。マコっちゃん」と行ってしまった。
 自転車置場に一人残されたぼくは、柴田のくれた夏みかんの皮をむいて一口食べてみた。
 それはすっごく甘くて、でも目が覚めるような酸っぱい味がした。


                         (了)









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