森友学園に吹いた神風 ―府に小学校設置に反対する理由はなかった― | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

 籠池理事長の国会での証人喚問が終わり、証言の内容をめぐって様々な反応が出ている。

 

 テレビでは連日籠池氏が新たな証拠として提出した、安倍昭惠夫人付きの秘書官だった女性が、籠池氏からの依頼で関係省庁に問い合わせを行った返答のFAXが話題となり、これがその後の森友学園の土地取引に対して、何らかの「忖度」が働たくことになったのではないかという疑惑が報道されている。

 

 こうした中で野党は安倍昭惠夫人に対する参考人招致を求めるなど攻勢を強めているが、一方で籠池理事長夫人と安倍昭惠夫人との間でやり取りされていたメールの中に、民進党の辻元清美議員が森友学園の経営する幼稚園に対して嫌がらせともとれる行動を行い、これを籠池理事長夫人が昭惠夫人に訴えていたと思しき記述があったことが判明し、民進党に対する批判の声がネット上では高まりつつある。

 

 ここに来ていよいよ政党間での泥仕合の様相を呈してきた森友学園問題だが、こうなると本来の問題である「土地の値下げ」が行われた経緯などはすっかりとどこかへ行ってしまったような感さえある。

 

 そこでこの点に立ち返って見ると、この森友学園の土地取引をめぐって、籠池氏の証言以上に重要と思われる発言が先日の予算委員会の中であった。

 

 これは24日に参考人として出席した当時の近畿財務局長であった武内氏の証言である。
 武内氏はこの場で当時の経緯について次のように述べている。

 

 武内氏「昨年3月に新たな埋設物が発見されたことを受けて、森友学園が予定していた開校の時期が遅れるような場合には、土地の貸主である国は損害賠償のリスクがあったところだ。こうした中、土地の売却価格については、関係者との協議の結果、産廃を含む土木建築工事における処分費用の見積もりを専門業者に依頼する場合、入札手続きなどで一定の時間を要することを踏まえ、建物の完成までの日程への影響を最も少なくするために、専門的知見を有する大阪航空局に処分費用を見積もってもらい、その金額を更地として土地の鑑定評価額から控除した時価で売却することとした」

 

http://www.sankei.com/politics/news/170324/plt1703240056-n4.html より

 

 この武内氏の発言はおそらく正確な記憶に基づいたものだろう。

 ここで日程上の問題から大阪航空局に処分費用の試算を任せたことが適切な判断であったかについてはいくらか議論の余地があるにせよ、近畿財務局としてはできるだけ早くこの土地に関する対応を決めなければ、森友学園側から賠償を求められる可能性が高まっていたことは間違いない。

 

 もしもこのゴミ処理が原因で学校の開校時期が遅れた場合、入学予定者の取り消しの発生などが発生し、さらに学園側から求められる賠償のリスクが膨らむことが考えられたからである。

 

 野党の追求を見ていると、財務省や大阪航空局が積極的にこの時期に動いていたのは、そこに何らかの政治的な影響が作用したことを疑っている節があるが、こうした財務省側の証言を踏まえれば、賠償負担などの問題から、むしろ財務省の方に率先して動かなければならない理由があったのである。この意味でも。

 

 「なぜこの土地を安く売却する必要があったのか」

 

 という問題と

 

 「今回の値引き額は適切だったのか」

 

 という問題は本来別に考える必要がある。

 

 そして、この値引き交渉について調べるのであれば、参考人として呼ぶべきは籠池理事長でも、松井知事でも、迫田国税庁長官でもなく、当時森友学園の代理人として交渉に当たっていた人物や、財務局の担当者らであろうと思われる。

 

 すでに財務省に当時の記録がない以上、交渉に関係していた当事者から話を聞くしかないのは当然だろう。

 

 こうした事件が起きると、世間やマスコミの関心は「誰が責任をとるのか」という話にどうしてもいきやすいが、必要なのは「誰の責任を追及するか」ではなく「なぜこうした事態になったのか」を冷静に当事者から聞き、分析することである。

 今回、森友学園をめぐる問題では、あまりにも政治ショー的な部分がクローズアップされてしまい、ここが極めて弱いように感じる。

 

 そして大阪府や財務省の発言を見ていると、今回の森友学園問題をめぐる重要なキーワードはひょっとすれば「利害の一致」という言葉でなかったかと思わされることが多い。

 

 まず、財務省側の証言に基づけば、財務省とすれば学園側との訴訟リスクが増大している以上は、できるだけ早期に問題を解決する必要に迫られていたわけである。


 そうなれば解決策のひとつとして、学園側が土地を欲しがっているのだから、売却してしまっても構わないと思ったのは不自然なことではなかった。むしろ交渉で時間をかけ、余計な賠償責任を負うよりかは、面倒な土地であるだけにいくらか安く売り払ってしまっても損はないと考えた可能性が高いのだ。

 

 このため、籠池氏が「神風が吹いた」というほどのスピードでとんとん拍子にここから話が進んでいったのもけしておかしいことではない。

 

 籠池氏と財務省。まずこれが一つ目の「利害の一致」であった。

 

 これと同様に、大阪府の「森友学園の認可相当判断」をめぐる問題についても、やはり当事者同士での利害の一致があったように考えられる節がある。

 

 森友学園の認可申請をめぐっては、籠池氏側から提出されている建築事業費が、それぞれ国、大阪府、私学審議会向けの三通で、金額が違うことが判明し、国会でも大きく扱われているが、先日の証人喚問の場ではさらに小学校教員の免許を持っていない籠池理事長が
認可された場合の小学校校長として「経験34年」と書いた書類が申請に出されていたことも公明党に追求されるなど、他にも相当にいい加減な申請があったことがわかっている。

 

http://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/1796510-3.html

 

 また小学校の運営計画をめぐっても、私学審議会の委員から協議段階で「土地、資金、カリキュラム、教員の確保の問題で疑義が出ていた」ことが指摘されており、このあたりからそもそも森友学園の認可申請が通ってしまったこと自体にも現在では強い疑惑の眼が向けられている。

 

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170323/k10010921501000.html

 

 大阪府の松井知事はこの判断について、籠池氏から松井知事への働きかけなどは一切なかったとしているが、これはその通りだろう。


 では、誰か別の政治家による働きかけがあったのではないかとなると、これについては土地取得に関するものと比べて、まったくといっていいほど話題になっていない。


 それだけ具体的な名前が出ていないのである。

 

 籠池氏も証人喚問で、畠成章氏という大阪府議会の議員に口利きを依頼したと証言しているが、畠氏は数年前に政界を引退し、2014年の9月に亡くなっていることが判明している。


 これは大阪府が森友学園の認可申請を条件付きながら「認可相当」と判断した時期を考えれば、影響はほとんど考えられなかったと思われる。

 

 こうした点から「政治家の関与があって一気に認可申請が進んだ」という話にはどうも信憑性があまり感じられないのだ。

 

 ではどうして森友学園の認可が認められたのか。

 

 そこで一つ考えられるのは、そもそも大阪府側が森友学園の小学校開設に賛成していたため、ある程度経営計画がいい加減でも、これを後押ししてしまったから、という可能性だろう。

 

 えらく単純に思えるが、実はこれは案外とバカにできない可能性なのである。

 

 今月の15日、元大阪府知事の橋本徹氏はtwitterで

 

 「規制緩和と審査体制強化をワンセットでやらなければなりませんでした。ここは僕の失態です」
 「事実上は僕の知事時代に進んでいたことであり、僕の私学審議会体制強化が不十分だったことが原因」

 

 と、府の規制緩和を急いだ自身の責任について言及した。

 

http://www.asahi.com/articles/ASK3H677MK3HPTIL02J.html

 

 つまり、大阪府が規制緩和を急いだ弊害として、森友学園の申請をチェックする体制が甘くなっていたというわけである。

 

 確かに森友学園の認可申請をめぐっては、私学審議会の中でも相当に「異例」の対応があったとされている。

 

 しかし、何が「異例」だったかというと、そもそもこの認可申請そのものがかなり異例なものだったようだ。

 

 大阪府の認可私立小学校の一覧を見ると、2000年代になってから設立された小学校はわずか3校しかなく、いずれも歴史のある学校法人によって運営されており、森友学園のように幼稚園経営しかした経験のない法人が新たに小学校を新設するというケースは、大阪府としてもまったくはじめてだったことがうかがえる。

 

http://www.pref.osaka.lg.jp/shigaku/syoutyuukou/itiran-syou.html

 

 このため大阪府としてみれば、森友学園からの認可申請は、これまであまり門戸を開いてこなかった教育の分野にはじめて学校経営の経験がない法人が小学校の認可を求めてきたということであり、それだけに申請をめぐる判断も相当に慎重になっていたのは確かだろう。

 

 森友学園の当時の運営状況を見ると、地元では長い伝統を持つ幼稚園を経営する学校法人として信頼もあり、過去には朝日新聞でも好意的に紹介されるなどけして評判は悪くなかったことがわかる。

 

http://agora-web.jp/archives/2025037.html

 

 つまり、これは「新しいお客さん」と見れば悪くない相手に思えただろう。

 

 さらに大阪府には森友学園の認可に前向きになるだけの理由が他にもいくつもあった。

 

 まず、森友学園が取得する土地(当時は賃貸契約)は国が保有する公有地であり、現状のままではほとんど大阪府にメリットがない。


 しかし、そこに小学校が開設されれば、当然大阪府としても税金収入が増えることになる。
さらに校舎の建設などで、地元にも多額の金銭が動くことになる。

 

 そもそも小学校というもの自体、地元にできて困る理由など何ひとつない。

 

 生徒が増えればそれだけ地元も賑わう。活気も生まれる。

 

 こうなると大阪府としても私学審議会に対して。

 

 「まあ多少不備があってもいいんじゃないのー。府の方も助かるし、財務省の方もなんか前向きなんだからさー」

 

 というムードになっていったとしても、何ら不思議ではないのだ。

 

 ここで、森友学園の認可についても財務省、大阪府、森友学園の利害が見事に「一致」していたからである。

 

 このように考えると、おそらく森友学園の問題がこうした形で取り上げられることがなければ、今頃は小学校は無事に認可され、新入生を迎える準備も進められていたのは間違いなかったろう。

 

 ところが、思いがけない形で世間の関心を集めてしまったために、今度はみんなが自分たちの責任できるだけ回避しなくてはならなくなってしまったのである。


 そのため、本来前向きであったはずの府や財務省が、自己弁護に走っているため、証言の食い違いとなってあらわれている、というわけである。

 

 これはもちろん推測に過ぎないが、どうにもそんな印象が強いのだ。

 

 しかしこうなると籠池氏のいう「梯子を外された」という表現もまんざらでたらめというわけでもない。

 みんな「それぞれの利害のために」学校の解説に前向きだったのが、問題が出るや一斉にそっぽを向いてしまったのである。


 後には学園の経営者である森友学園の責任だけが追及されることになった。

 なぜ籠池氏があれほど松井知事を憎んでいるのかといえば、結局それは「前はあんなに歓迎してくれたじゃないか」という不満であろう。

 

 とはいえ、いくら梯子を外されたとはいっても、そもそも梯子を一番上りたがっていたのは籠池氏本人であり、氏がそのために色々なところへ働きかけを方々にしたのも事実なのである。

 

 これもあまり話題にはならなかったが、先日の証人喚問でも籠池氏は鴻池祥肇元防災担当相のところに「商品券」を持参した旨を認めており、これは政治家に金銭等と引き換えに便宜を図ってもらおうとした「収賄」と見られる可能性もある(鴻池氏側には当時のやり取りの記録もあるようだ)。

 

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017032300674&g=pol

 

また建設事業費をめぐる問題でも、将来的に刑事責任が問われるのは免れないだろう。

 

籠池氏は土地の値引きが決まったとき「神風が吹いた」ように感じたというが、もしかするとこの神風というのは、結局彼のあずかり知らぬところで大勢の人間が利害を計算し合っているうちに、それがたまたま森友学園に追い風となっていたのに過ぎなかったのではないか?

 

どうにもそんな気がしてならないのである。

 

 

今回も読んでいただき、ありがとうございました。