籠池証言に踊った人々  | 十姉妹日和

十姉妹日和

つれづれに書いた日記のようなものです。

 先日の報道によると、明日31日に学校法人森友学園への大阪府と大阪市による調査が行われる見通しだという。

 

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010928471000.html

 

 さらに籠池理事長が小学校の建設工事のために、金額が異なる契約書を提出していた問題でも大阪地検が本格的に動き出したそうだ。

 

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170329/k10010929451000.html

 

 これでおそらく森友学園問題は徐々に収束へと向かうだろう。

 

 予算委員会で常にこの問題を取り上げ続けてきた野党にしても、結局本丸の安倍総理や夫人の関与が土地取得にあったという主張を立証することはできないうちに、ここへ来て籠池氏の妻と、安倍昭惠夫人のメールのやり取りから、思いがけずネット上で民進党の辻元清美議員が「幼稚園侵入未遂」や「森友学園に隣接する土地の取引に関わっていたのではないか」という疑惑が持ち上がってしまったために、問題を長引かせることがあまり得策ではなくなってきたからである。

 

http://www.sankei.com/politics/news/170329/plt1703290021-n1.html

 

 今のところ辻元議員の疑惑をめぐっては、批判する側と辻元議員を擁護しようとするマスコミやジャーナリストとの双方に応援団がつく形での論戦が連日繰り広げられているが、そもそもこれは実際に辻元清美議員が幼稚園にどの程度近づいたかという話ではなくて、籠池氏やその妻の証言がてどの程度信憑性があるものなのかということが問題なのである。

 

 民進党の玉木雄一郎議員は、この疑惑についてツイキャスで籠池氏の夫人がこの侵入の場を見ていないと発言しており、夫人が話している動画も見つけたと自身のtwitterで述べているが、実はこちらの方がこれまで籠池氏の証言を国会で度々持ち出してきた野党とすれば不利になるおそれがある。

 

https://twitter.com/tamakiyuichiro/status/847036588831916032

 

 実はこの件をめぐっては、以前に籠池理事長自身も、自身が配信した動画で「辻元清美議員が幼稚園に侵入する寸前のところだった」と語っていたことがあり、そしてこのときも辻元議員はこの疑惑について否定したことがあった。

 

http://www.hochi.co.jp/topics/20170309-OHT1T50193.html

 

 しかし、当時籠池氏のこうした発言を大手メディアではほとんど相手にされなかったようであり、ネットでも森友学園の実態が不明であったことから、それほど盛り上がることはなかった。


 ところが昭惠夫人と籠池夫人のメールのやり取りが公開されたことで、思いがけず当時の籠池氏の発言に関する追加の証拠があらわれたことになってしまったわけである。

 これは野党にとってはいささか迷惑だろう。


 これで籠池氏の証言をもとに、昭惠夫人からの100万円の寄付の件などを政府に質問してきた野党は、今度籠池氏側の当時の証言だけは事実ではないと否定しなくてはならないという面倒な事態に陥ってしまったからである。

 

 lこのように見るとあまりにもお粗末な一件といえるが、この問題は今回の森友学園問題をよく象徴している出来事のようにも思える。

 

 国会の論戦も、マスコミの報道も、この数週間は「森友学園をめぐって」というより「籠池氏の発言をめぐって」右往左往していただけに過ぎなかった。


 だが、そうした中で籠池氏の証言にはそもそもあまり信憑性があるものではないということは常に無視されてきたのである。


 これは森友学園のホームページ上で天皇皇后両陛下や、昭和天皇が森友学園を訪問したかのような記述があると証人喚問の場で指摘されていたことなどからもうかがえる。

 

 にも関わらず、籠池氏の証言でこれだけ世間が動かされたのはなぜか。

 

 おそらく、それは世間が籠池氏を信じていたからではなくて、むしろ多くの人々は単純に籠池氏の口からどんな話が出てくるかを愉しんでいたに過ぎなかったのではないかと思う。


 そこでひとつ思い出すのだが昨年の舛添前東京都知事に「公私混同」ともとれる政治資金の支出が発覚してからの一連の流れだ。

 

 この事件の発覚前、舛添氏は都知事としての「豪遊ぶり」などがすでに一部では問題視されていたが、湯河原にある別荘へ公用車で通っているなどの一件が発覚するや、メディアが大々的にこれを取り上げ、次々と様々な疑惑が噴出することとなった。

 

 このため連日ワイドショーは舛添問題を大々的に報道し、世論が「舛添辞任すべき」に傾いていったのは事実である。

 

 だが、あれから10か月あまりが過ぎた現在では、もはやテレビには舛添の「ま」の字も出てこず、舛添氏が今どこでどうしているかなど、都民を含めて誰も関心がない状態にある。

 

 そうした中、今月の3日に東京地検特捜部は政治資金規正法違反の疑いで告発されていた舛添氏に「不起訴」の判断を下した。

 

http://www.asahi.com/articles/ASK335JXFK33UTIL03V.html

 

 これに対して告発していた市民団体などは、改めて不服を申し立てたようだが、あれだけワイドショーで大きく扱われた事件の結末としては、いかにも小さな扱いであった。

 

 舛添氏の件と同じように、籠池氏と森友学園をめぐるここ一月あまりの報道も振り返ってみると、どうも何かに翻弄されていたような気がしてならない。

 

 私の記憶している範囲では、もともとこの件は、先月の末に森友学園に公有地が大幅に値引きされたことがネット上で話題となり、これに安倍総理や当時の財務局の迫田英典理財局長などが関与しているのではないか、という疑惑が持ち上がったことが発端だったように思われる。

 

 そこからメディアの報道はこの森友学園という学校法人がどのようなものであるかに注目が集まり、法人が経営する幼稚園で教育勅語の唱和が行われていることや、園内で虐待のような行為があったのではないかという疑惑が持ち上がったことで連日ニュースやワイドショーでも大々的に報じられた。


 そして、学園が新設しようとしている小学校の名誉校長に安倍昭惠総理夫人が就任していたことから一気に関心が高まった、という具合である。

 

 世間からすれば「こんなおかしな幼稚園に安倍総理や保守系の政治家が関与して便宜を図っていたのではないか」という、そうした疑惑を持ったわけだ。

 

 だが、これは結局単なる憶測以上のものではなかった。


 当初は安倍総理や稲田防衛大臣の関与を疑っていた野党も、次第に情報が出るに連れて本件への安倍総理の関与はなく、あくまで安倍昭惠夫人を介しての関節的な繋がり程度しかなかったと認めざるを得なかったからである。

 

 今後も野党はあくまで「総理夫人が森友学園に関与したことで、一連の決定に様々な『忖度』が働いたはずだ」という主張を変えることはないだろう。

 しかし、それにしても立証はおそらく不可能である。

 

 すでに大阪府と財務局とは森友学園の認可や土地売却をめぐり、お互いに責任を擦り付け合っているが、どうも今後はそちらの方が焦点となりそうだ。

 ただ、この大阪府と財務局とについては前回、そして前々回のブログでも書いたように、大阪府と財務局のどちらにも森友学園の小学校建設にはこれを後押しする理由があり、そのため非常にスムーズに話がまとまっていたと考える方がおそらく自然であろう。


 その上での責任論とは、つまり「大阪府と財務局、どちらがより主導的な役割を果たしていたか」というそれだけに過ぎないのである。

 

 ただこれにしても、いずれ地検による捜査が進めば自然と収まっていく方向にある。

 

 このように見ると、森友学園問題で今更書くべきこともあまりないように思えるが、ただひとつ私がこの問題でいまだに疑問なのは籠池氏の「豹変」に関することだ。

 

 私が書くべきことでもないが、もともと籠池氏はテレビに登場した頃から、相当に「ネット右翼」(という不正確だがネットでは知られている名称)に近い人物に見えた。

 

 これまでブログでも「ネット壮士」についていくらか書いてきたが、今にいたるネットの保守層には大きく分けて二つの潮流があり、ひとつには安倍政権を支持しながらも、関心事は経済や、外交などの政治全般の議論で、もともとリベラルに近い意見も理解する穏健層(よく「冷笑系などと揶揄される」)であり、もう一方はチャンネル桜や保守論壇の影響が強く、歴史問題や日韓問題でも一貫して強硬論を主張する層である。

 

 籠池氏はおそらく後者のタイプだろう。

 

 そうでなければ幼稚園で園児たちに中国、韓国、北朝鮮の批判などはさせたりはしないだろうからである(意外に穏健派がこうしたパフォーマンスには冷淡である)。

 

 しかし、実はこうしたタイプと安倍総理の相性はけしていいとはいえない。


 かつて第一次安倍政権のとき、アメリカで中国系の抗日団体によっていわゆる従軍慰安婦問題が持ち上がった際に、ブッシュ大統領に訪米した安倍総理が慰安婦に「謝罪した」と報道がされたことがあった。

 

 するとこのとき2ちゃんねるをはじめとする保守系ネットユーザーの多い場所では一斉に安倍批判の声が沸きあがったのであった。

 

 彼らの多くは慰安婦問題はそもそも韓国側の捏造、誇張であり、日本政府は徹底してこうした韓国や中国の反日行為と戦うべきだと考えていた。
 それにも関わらず、これまで河野談話の見直しにも言及していた安倍総理が、先に謝罪したのではどうしょうもないというのだ。

 

 ここから行き場を失った強硬論の台頭が、後の「ネット壮士」の活動に大きな影響を与えることになるが、それは別の話として、籠池氏が安倍総理に対して、相当に過剰な期待を寄せていたのは、当時の強硬なネット壮士たちとそれほどの違いはなかったろう。

 

 そのため籠池氏とすれば、安倍総理もまた教育勅語の再評価や、ある種の愛国教育には共感してくれるはずだと信じていたのである。

 

 だが、安倍総理は実は必ずしもそうした単純な政治家ではない。

 

 総理は確かに戦前の日本、ことに明治維新以降の日本には強い愛着を感じているようには思われるが、かといって戦後のバランス感覚がないわけでもないのだ。

 

 それは第二次安倍政権の対米外交を見てもわかる通りで、軍部の権限が強い戦前回帰の路線を取ろうとしているとはとても思えず、むしろ率先して米国主体の国際秩序に参加することを強調しているように思われる。

 

 こうなるとおそらく昭惠夫人は籠池氏の教育理念のひたむきさに(昭惠氏は思想に関係なくこういうものがひたむきな人たちが好きなのだが)引かれていたのは確かだろうが、安倍総理とすれば、昭惠夫人から伝えられる籠池氏のイメージはあまり近づき過ぎても面倒なタイプとも感じられただろう。

 

 保守系とされる中には意外とこういう人物が多いからである。

 

 そしてこの双方の考えの違い。

 安倍総理を熱烈な愛国者と見る籠池氏と、あくまで理念と現実対応には距離を置く「政治家」である安倍総理の実像とは、いずれ必ずどこかで衝突する運命にあった。

 おそらくはその事実を籠池氏が理解したのは籠池氏や夫人のいう。

 

 「安倍総理からしつこい人だといわれた」

 

 ときではないかと思う。


 だが、これはまだ決定的な決裂ではなかった。安倍総理がこうした発言をした後も、籠池氏側と昭惠夫人との間にはメールでのやり取りがされていたのは確かだからである。

 

 では、その決定的な決裂が起きたのはいつか。

 

 私はおそらくこれは3月15日に東京に籠池氏があらわれ、菅野完氏と面会した前後ではないかと思っている。

 

 そしてこのきっかけとなる出来事は、5日前の3月10日に、森友学園が大阪府に出していた小学校の認可申請を取り下げをしたことと関係しているように思う。

 

http://www.huffingtonpost.jp/2017/03/10/moritomo-to-withdraw-elementary-school_n_15277684.html

 

 先日、テレビ番組で橋下徹前大阪市長はこの森友学園の認可申請取り下げを学園側の失敗だったと指摘したが、これは確かにその通りだろう。


 森友学園としてはこのまま認可申請を続けて、いっそ府から認可を受けられないという事態になった方が、まだ後々の裁判で「認可相当」の判断をした府の賠償責任などを問うことができたからである。

 

 しかも取り下げた時期が例の金額の異なる三通の契約書の問題が取りざたされていた時期であるだけに、むしろ森友学園側に不正行為があるため、学園側は認可申請を取り下げたと見られる可能性も高いことになってしまった。

 

 つまり、森友学園の小学校設立の道は完全に閉ざされてしまったというわけである。
 ただ、籠池氏はこのときまだそうは考えていなかった。
 世間が騒ぎ過ぎているので、それが収まるまで一時的に様子を見よう、というくらいのつもりだったのではないだろうか。

 

 少なくとも、まだこの件で安倍総理夫人や、大阪府の松井知事を積極的に糾弾しようとはまでは考えていなかったように思う。
 この森友学園をめぐる報道には、メディアや野党議員の側にも相当な行き過ぎがあったのは確かだからである。

 つまりそれが収まれば、再び学園再建の夢も叶うだろうと信じていたのだ。

 

 この前日の3月9日に籠池氏は「辻元清美が幼稚園に侵入しようとした」と発言している、例の動画を上げているが、ここではやはり森友学園へのメディアのバッシングを批判している。

 

 つまり、少なくともこの時点においては籠池氏は野党や菅野氏を相当に敵視していたはずなのである。

 

 しかし、それからわずか一週間足らずの間に籠池氏の態度は急変することになる。

 

 私はこの当時、とくに3月15日に籠池氏が当初予定していた外国人特派員協会での会見を急きょ延期したことについて、おそらく誰か政権に近い人物からのアドバイスがあったのではないかと思っていた。


 この時期、籠池氏が何か不用意な発言をすれば、海外メディアがそれを取り上げて、余計に安倍政権と森友学園双方の立場を悪くする可能性もあったからである。

 

 この見立てはいくらか当たっていた。

 

 当時籠池氏にアドバイスをしていた人物は確かおり、昭惠夫人のメールの中にも登場していたが、これは文芸評論家の小川榮太郎氏であった。

 

 小川氏は自身のFacebookで次のように述べている。

https://www.facebook.com/eitaro.ogawa/posts/1368527566573394?pnref=story より

 

 「昭恵夫人が10日、籠池夫人にメールで私の記事を伝へた所、籠池夫人から私に連絡を取りたい旨の打診があつた。私は塚本幼稚園を保守系で評判よい幼稚園だつたといふ以上詳しくは知らず、籠池夫妻との面識は全くない。
 が、疑惑は疑惑、メディアレイプはメディアレイプ、国政とも国家とも関係ない地方の一幼稚園の事案でここまで一方的なバッシングはあり得まい。
籠池氏並びに森友学園をメディア被害から守る為に微力でも役立てればと思ひ、昭恵夫人に対し、先方と連絡先を交換する事を了承した。
  その後、10日夕方から、籠池理事長と電話のやり取りをし、メディア対応に限定した助言を数回やり取りした。
ところが、3月15日夜、理事長の電話に出た夫人から『昭恵さんに裏切られた。許しません』と突然言はれ、一方的に電話を切られた。
朝までの理事長とのやり取りは丁重なものだつたので驚いた私は昭恵夫人に即座に電話し、何かあつたのか尋ねたが、この数日連絡をとつてをらず何もしてゐないとの事だつた。」

 

 ここで小川氏も菅野氏との接触を境に、籠池氏の態度が豹変したことを疑問に感じているようだが、その原因が果たして何であったのかはよくわからないようだ。

 

 ただ、その後の籠池氏の発言を見るに「自分だけが切り捨てられた」という意識がどうにも強いように思う。
 とくにそれがなぜ松井大阪知事に向けられたのかは、結局最後までわからずじまいになりそうだ。
 そこで籠池氏の発言を振り返ると「大阪府が認可相当の判断を下したから、土地を借りて、学校を建てたのに・・・」という恨み節が見られる。

 

 そうすると浮き出てくるひとつの仮定は、籠池氏が菅野氏との接触の前後に豹変した背景には、彼の最大の目的である、学校の設立という夢が、実際には影響にとん挫したと思わされる何かがあったということだろう。

 そしてこれは学校の認可に絡む何かではないのか。

 

 とはいえ、そんな予想をしてみても、真相が解明されることもない。

 もはやそんなことには誰も関心がないからである。

 

 おそらくは明日またたくさんの報道陣が森友学園に押しかけることになる。

 彼らが撮りたいのは査察を受け、追及を受ける籠池氏の姿であり、そこで彼がまた何をいうかということなのだ。

 

 それが苦し紛れの出まかせなのか、真実かがわからなくとも、彼の言葉を世間が心待ちにしているのはメディアはよく知っているからである。


 しかし、だとすれば果たしてこの森友学園問題は、誰が役者であり、誰が踊らされていたのか。

 ふと、そんな疑問も浮かんでくる。

 ともあれこの政治ショーもいよいよ最後の幕が近づいてきたようだ。

 

 

 今回も読んでいただき、ありがとうございました。