北朝鮮がもっとも脅威と思っているのは中国ではないか、という話 | 十姉妹日和

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つれづれに書いた日記のようなものです。

 北朝鮮と米国の緊張状態がここに来て一気に加速度を増している。

 

 現在、アメリカは空母カール・ヴィンソンを中心とする打撃部隊を派遣しており、15日中には朝鮮半島付近に展開する見込みだという。

 

 さらに横須賀には現在整備中の空母ロナルド・レーガンも配備されており、18日に来日が予定されているアメリカのペンス副大統領が同艦を視察することもすでに決まっているようだ。

 

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017041500284&g=eco

 

 こう次々と大きな動きがあると、私のように普段軍事問題にあまり興味がない素人から見ても米国が北東アジア周辺で何かしらのアクションを起こす準備をはじめているのではないかと考えてしまうのだが、では米国の狙いがどこにあるのかとなると、これはどうも読み難いところがある。

 

 そもそも米国はなぜ今このタイミングで北朝鮮に対する圧力を強化したのだろうか?

 

 これまでも北朝鮮はたびたび長距離弾道ミサイルの発射実験や、核実験を繰り返してきた。


 つい先月にも秋田県沖のEEZに北朝鮮から発射されたミサイル三発が落下したことは記憶に新しい(ただしこれはICBMではないと見られているが)。

 

http://www.jiji.com/jc/article?k=2017030600225&g=prk

 

 だが、当時はアメリカどころか日本国内でさえ、いわゆる「森友学園問題」で政界もマスコミも大騒ぎをしている最中であり、北朝鮮のミサイルなど世間も大した問題とは考えていなかった。

 

 本来であれば自国の周辺海域にまで他国のミサイルが飛んでくる状況というのは相当に忌々しきことではあるのだが、日本人はこうした他国からの挑発行為などには驚くほど関心がない。

 

 それどころか「そんなことは考えても仕方がない」という割り切りさえどこかにあるのではないかと思えるほどに淡々としている。


 おそらくは、みんな本当にミサイルが飛んで来るとは考えていないのだろう。

 

 しかし、北朝鮮のミサイル開発は確かに安全保障の上では脅威ではあることは間違いない。


 この数年の間にも北朝鮮は着実に実験を繰り返し、ミサイル技術の性能を向上させることに成功した。


 このまま放置を続ければ、いずれはアメリカ本土に到達する長距離ミサイルの開発と、日本の在日米軍基地などを標的としたより精度の高いミサイルの配備にも成功する可能性がある。

 

 こうした中で米国が北朝鮮に対する警戒感を強めていたのは事実だろう。


 だが、仮にそうなったとしても、北朝鮮がそれを現実に使用するかとなるとまた別問題だ。

 

 実際、すでに核保有国であり、複数のICBMを保有している中国やロシアは米国にとって安全保障上の脅威ではあるが、お互いに大量破壊兵器の使用に踏み切れば大打撃を受けることがわかっているだけに「ある種のバランスの上」で均衡を保っている状態にある。

 

 そのため北朝鮮が仮に核兵器や、弾道ミサイル技術を保有することになったとしても、「それを実際に使用することがない」のであれば世界はそれほどの脅威とは感じなかったに違いない。

 

 これは中東のサウジアラビアや、イラン、イスラエルが常に緊張状態にあり、互いに牽制をし合っているのに比べれば、少なくとも北東アジアは日本、中国、韓国、北朝鮮、そして台湾がそれぞれ駆け引きをしている状態にあり、そう簡単に大規模な衝突が起こるとは考え難いためだ。

 

 しかし、この駆け引きにはひとつの落とし穴がある。

 

 それは基本的に日本と韓国はアメリカが盟主国であり、これに対して北朝鮮を中国とロシアが支援しているという構図が前提にあるということだ。

 

 つまり本来であれば北朝鮮によ、韓国にせよ、米中ロそれぞれの思惑を無視して単独の行動に出ることができる状態にはない。

 

 実際、日本でもマスコミをはじめ北朝鮮が中国の援助支えられていると考えていた人々が多かったのもこのためだろう。

 

 ところがここ最近の北朝鮮の動きは、むしろ中国に対して挑発的とも思える行動をとることが多かった。

 

 その最大のものが2013年に中国と強いパイプを持っていたといわれる北朝鮮の高官張成沢氏の粛清だ。

 

http://jp.wsj.com/articles/SB10001424052702303674004579265011671785676

 

 このとき中国は北との関係悪化を懸念しつつも、あくまでこれを「権力闘争」の一環とみて、北朝鮮内部の動きが即座に「方針転換」に繋がるとまでは考えていなかったようだ。

 

 しかし、このあたりから北朝鮮内部で大規模な「粛清」が行われているらしいという情報が続くことになる。

 

 2015年には副首相の崔英建氏や、玄永哲人民武力相らの高官が相次いで処刑されて大きなニュースとなった。

 

 これらも金正恩体制の強化を狙ったものとの見方が強かったが、こうした高官たちの粛清は海外との結びつき、という点から見れば、むしろそれを断つことで、北が自ら内に籠ろうとしていた動きだったともとれる。

 

http://jp.reuters.com/article/column-northkorea-purge-idJPKCN0QJ0HN20150814

 

 そのため、最近の北朝鮮が外交的にどういう方針を持ってこうした粛清を行っていたかを見ると、何か非常にチグハグな印象を受けることになる。

 

 日本との関係でもこれは同様に、2014年の春、モンゴルで拉致被害者家族の横田滋さん、早紀江さん夫妻が、横田めぐみさんの娘とされるキム・ヘギョンさんと面会していたことが報じられたことがあった。

 

http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/15/megumi-yokota_n_4972772.html

 

 それと共に北朝鮮が拉致の再調査を行うことも約束していたため、日本国内では拉致問題の新たな進展とともに、北朝鮮との関係が改善に向かうのではないかと好意的な見方がされていた。

 

http://www.huffingtonpost.jp/2014/05/29/dprk-abductees-research_n_5409780.html

 

 しかし、これも結局は目立った成果が上がらないまま、先延ばしになり2016年には4回目の核実験とミサイル発射による日本の制裁強化とともに立ち消えとなってしまった。

 

http://mainichi.jp/articles/20160213/k00/00m/030/169000c

 

 これにしても北朝鮮には何か一貫性というものが欠けていた。


 戦略的に何かの目標に向かっているというよりも、何か国内でドタバタしていてまとまりがないという印象なのだ。

 

 そこでひとつの仮説を立てると、実は金正恩体制がもっとも警戒していたのは国内から政権を倒そうとする運動がはじまり、それに「外国勢力」が加担することだったのではないか、ということが考えられる。

 

 この外国勢力はもちろん敵対している日米韓ではなく、北朝鮮国内に強いパイプを持つ国。つまり中国をおいて他にないだろう。

 

 すると金正恩体制が進めてきた粛清の意図は、単純に金正恩氏の権力を強化するだけではなく、中国とパイプを持つ高官をできるだけ排除し、中国の北朝鮮内部への介入を抑制することにあったのではないかと思えてくる。

 

 これが外交的に大きな動きに出られなかった理由。その方針さえも定めることができなかった大きな要因ではなかったろうか。

 

 すると、なぜわざわざ北朝鮮が金正男氏をマレーシアで暗殺しなければならなかったかの理由も見えてくるような気がする。

 

 ニューズウィークは2月、金正男暗殺に関する中国高官のインタヴューを掲載したが、その中で中国の高官が正男氏暗殺について。

 

「もし仮に、金正男が金正恩の指示によって殺害されたのだとすれば、それは"血のつながりのある"後継者の可能性を消したのではなく、
張成沢系列を抹消するためだと考えなければならないだろう。」

 

と、述べているのは興味深い。

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-7010_3.php

 

 つまり4年前に処刑された人物の「影」がいまだに北朝鮮に付きまとっているというのだ。

 

 おそらく中国はこの事件を契機に、北朝鮮が最も警戒している相手は米国ではなく、中国だということに気づいただろう。


 それは同時に北朝鮮がもはや中国の影響下にはなく、今後どのような動きに出るかが予測できないということを示している。

 

 もしもこうした「孤立」状態にある北朝鮮が暴走した場合に、周辺国に及ぼすであろう危機を考慮した上で米国が動いているとすれば今の事態もまったく違う側面が見えてくる。

 

 今日4月15日、北朝鮮では大規模な軍事パレードが行われたが、そこでは新型の弾道ミサイルと見られる兵器なども多数登場しtwitter上でも話題となった。

 

 本来であればこうした武装は当然アメリカとその同盟国にだけ向けられるものであると考えられるが、これが万が一中国に向けられることになった場合、おそらく中国が被るであろう損害は、米国本土を北朝鮮が攻撃した場合よりも、はるかに大きいと想定することもできる。

 

 もちろんこうした可能性は、現状では絵空事であり、ほとんどないといっていい。

 それこそ「自爆」だからである。

 

 ただ、北朝鮮の核やミサイルが「抑止力」として向けられている相手は、必ずしも米国陣営に限定されないという見方は必要だろう。

 

 アメリカサイドは今日になり、北朝鮮に対して必ずしも「金正恩政権の体制転換は目指さない」と報じたが、依然として「対話」にいたる
前提条件としてミサイル開発、及び核実験の放棄を掲げている。

 

http://www.yomiuri.co.jp/world/20170415-OYT1T50102.html

 

 一見進展のようにも思えるが、これは北朝鮮にはやはり吞むことが難しい条件であることに変わりはない。


 今や北朝鮮にとってこの「抑止力」を失うことは、アメリカだけでなく、中国に対するカードをも失うことになり兼ねないためだ。

 

 今後事態がどう推移するのかはともかく、おそらく相当に流動的なものとなるだろうと思われる。


 その結末はともかくとして、この一連の流れは。

 

 「中国の影響下からの脱却を模索した北朝鮮の足掻き」と見ると、今や新しい「冷戦」の構造に突入しつつある北東アジアの変化が漠然とではあるが感じられる。

 

 今後その中で、日本や韓国が果たしていく役割もまた今とは違うものになっていく可能性が高いだろう。

 

 戦後70年を過ぎ、日米協会の発足から100年の節目に当たる今、日本の「戦後」も徐々にではあるが、終わりに近づいているように思われる。

 

 今回も読んでいただき、ありがとうございました。