ロシア南部の北カフカス地方が不安定化している。

​ 約140人もの犠牲者を出したモスクワ郊外でのイスラム国(IS)テロは、一見盤石そうに見えたプーチンの足下を揺るがせた(写真)。​

 


テロや抗議デモが多発する北カフカス地方​

 このテロについては、発生3日前にアメリカからプーチン政権に差し迫った危険を警告されていたにもかかわらず、側近の「大丈夫です」という甘言の前にプーチンは事前に手を打つこともせず、マンマとテロを実行させてしまった。

​ 実は、大きく報道されることはないが、イスラム教徒の多い南ロシアの北カフカス地方(地図)で、このところテロや政権への抗議デモが多発している。アメリカ議会の共和党保守派のサボタージュの恩恵で、ウクライナに傘にかかっていたテロ国家ロシアの足下は、意外に脆弱のようなのだ。​

 


北カフカスでテロ相次ぐ​​

 北カフカスでジョージアと国境を接するカルチャイ・チェルケス共和国で4月22日、過激派との関与を疑われるテロリストが警察車両を襲撃し、警察官2人を射殺し、武器を奪って逃走した。

 隣接するカバルジノ・バルカル共和国では4月11日にテロ未遂事件が起こった。その前の3月には、イングーシ共和国でイスラム国の戦闘員とみられるテロリストと治安部隊が衝突した。


ダゲスタン共和国出身兵士が危険な最前線に送られ、高い死亡率​

 北カフカス地方は、19世紀の帝政ロシアの南下政策に最後まで抵抗した歴史を持つ。

 ロシアの辺境だから、ソ連崩壊で中央からの援助金が途絶えると、経済は低迷し、貧困率や失業率は高止まりしている。

 低所得のイスラム系住民にとって、中央政府のウクライナ侵略要員としての徴募は応じやすい。それを良いことに、プーチンはザカフカスで徴募した契約兵を死地に送り出している。

 少し古いが、2022年8月12日に独立系ニュースサイト「メディアゾーナ」やイギリスBBCが自治体発表などを基に、死亡を確認したロシア派遣軍兵5507人の出身地で、最も多かったのは、約9割がイスラム教徒のダゲスタン共和国で267人もいた。モンゴル系ブリヤート人が人口の約3割を占めるシベリアのブリヤート共和国が235人で続いた。他方でモスクワは14人だった。ダゲスタンの人口は約315万人で、モスクワ(約1264万人)の4分の1だが、死者数は19倍もあった。


北カフカスの人々には独立を図る好機だ​

​ この状況は続いているようで、ダゲスタンではたびたび動員に反対する市民による抗議デモが起こっている(写真)。一部のウクライナ派遣兵士は、戦闘を拒否して前線から帰還しているという。​

 

 

 

 今、北カフカス地方のイスラム教徒にとって、ウクライナの侵略戦争に忙殺されるプーチン政権に対し、自分たちの共和国が独立を図る絶好の機会になっている。

 かつて第1次世界大戦に際し、帝政ロシア軍に動員され、戦争に駆り出される農民・労働者たちに、ボルシェヴィキのレーニンは「帝国主義戦争を内乱に転化せよ」とプロパガンダを展開した。

 今はプーチンのロシアに対して「ウクライナ侵略戦争を内乱に転化せよ」というスローガンとなる。


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