茶の木育ててやっと名乗れる「水筒男子」 | 気にするほどじゃないけれど

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気にするほどじゃないけれど、気になるものは気になるんです!そんな気になるモノ・コトを紹介します。

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「夏も近づく八十八夜」とよく言いますが、お茶づくりは八十八夜のみにあらず。「九十九夜の泣き霜」なんて言葉知ってますか?そんな知られざるお茶づくりの現場をレポートします。(5月11日訂正しました)

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●「水筒男子」と名乗る資格なし!
僕は普段からお茶をよく飲みます。ペットボトルで買うとお金がかかるので茶葉から淹れていて、今流行の水筒男子です。しかしそれだけで「水筒男子」を名乗っても良いのでしょうか?お茶っ葉をお湯に浸しているだけの僕は、バレンタインデーの乙女たちと同じく「にわか」。市販のチョコを湯煎して形変えただけの「手作りチョコ」と同じです。本当にお茶が好きだったら、せめて茶葉を摘むところから始めないと「水筒男子」と名乗る事はできないと考えました。今回は真の水筒男子を目指すべく、茶農家のお手伝いをします。

水筒男子を目指す志高き青年である僕も、現時点では茶栽培の事について素人です。そのままお手伝いをしても足手まといです。付け焼刃でも知識があった方が良いと思い、お茶の博物館で勉強です。静岡県島田市にある「お茶の郷博物館」。お茶に関する各種情報が集まっています。
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博物館に展示されている製茶の機械。この時期、機械は昼夜問わずフル稼働し、茶工場の前を通ると咽るような茶の香りに襲われる


博物館の資料によると、以下の行程で茶の生産が行われているそうです。
1月 管理計画の設計
2月 土づくりと春肥
3月 整枝、防虫、防霜
4月 一番茶の摘採
5月 整枝、更新、防虫消毒
6月 二番茶の摘採
7月 施肥、防虫、殺菌
8月 土づくり
9月 三番茶の摘採
10~12月 翌シーズンへの準備

ほぼ一年中茶園管理が必要です。晩秋~初冬はオフシーズンですが、その間も土壌の保温などの作業は必要とのこと。細かい時間管理も必要。八十八夜だけではなく、収穫後の遅霜への注意を喚起する「九十九夜の泣き霜」という言葉もあります。ちょうど今日あたりが九十九夜にあたりますね。


●水筒男子は茶畑のマメ男
お勉強を踏まえて実際にお手伝いをする事になりました。僕の母の実家が島田市内で茶農家を営んでおり、今回はそちらにお願いをして一緒に作業させていただくことになりました。無理をお願いしてしまいすみませんでした…。「きょうちゃん(僕のことです)、また嵐の◯宮くんに似てきたね~」「今から新東名行っても、混んでてサービスエリア入れないら~」など、いかにも親戚っぽい会話を交えながら茶畑に向かいます。

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納屋、軽トラ、庭に広葉樹。農家っぽい風景に心躍る


しかし簡単に茶摘みなど出来ません。世の中そんなに甘くありません。まずは茶の木に降りかかった落ち葉を拾う事から始まります。近年は茶摘みにもオートメーション化の波が押し寄せ、手摘みから機械刈りに変わっています。茶畑は森の中にあるので、周りから落ち葉やゴミが飛んできます。そのゴミを茶の木から取り除いておかないと、ゴミ付きの茶っぱになってしまうのです。
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山中にある茶畑は森に囲まれているため、結構落ち葉が降ってくる


単に落ち葉を拾うだけと思う事なかれ。広大な茶畑を全て確認し、抜けなく拾わなければいけません。また、大切な茶の若葉を傷つけないよう、慎重に拾う必要があります。集中して拾い続けるため、茶っぱがゲシュタルト崩壊を起こしてしまうほど。お茶の葉一枚一枚がそれぞれバラバラに感じられ、「お茶ってこんなんだっけ?」みたいな感じ。

また、森の中といえば虫です。ちょっと前まで京都でアーバンライフを過ごしてきた、都会人である僕には、自然の驚異に感じられます。しばらくすれば見慣れてしまう虫の卵も、戦々恐々とした気分で挑まなければいけません。また、森の中に入ればヘビなども盛大に生息しており、水筒男子の肝を太くする訓練に持ってこいです。
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カマキリの卵。自然界に普通に存在するものだが、「都☆会☆人」には辛い


●水筒男子も涙する「茶畑、愛のものがたり」
この日、半日かけて茶畑の落ち葉を拾い、夕方になってようやく作業完了となりました。この後、茶の収穫を行い、それらを茶工場(ちゃこうば)に出荷します。一方で茶畑は二番茶収穫に備えて防虫や消毒、木の整形を行います。美味しい一番茶を作るためには、綿密な計画のもと、数多くの準備や、後処理が必要です。これらを知って初めて「水筒男子」を名乗れるのではないか?そんな感慨にふけってしまいました。

今回お手伝いさせていいただいた茶農家の伯母さんから、この茶畑を拓いた時のお話を聞きました。今でこそ美しい茶園風景が広がりますが、最初はただの野山。茶園運営に必要な資材の搬入や施設の設置から始まります。野山ゆえ、せっかく作った農道もイノシシに荒らされてしまう事が多かったとか。そんな辛い中でも、夫婦で励ましあいながら、夫婦の愛とともに茶畑を育んできたのだそうです。美味しいお茶を作るうえで、最も重要なのは「愛」の力を信じる事なのでしょうね。
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この美しい農園も、ただ美しいだけじゃない。辛いこともたくさんあったのだ


「水筒男子」だ何だ言ってきましたが、まずは水筒を共有できる、一緒に愛をはぐくむ人が必要です。一人で偉そうな事言ってないで、まずはその相手を探すところから始めないといけないですね…。

※お茶の郷博物館では、季節限定でお茶摘み体験もできるそうです。水筒男子を目指す皆さんもデートなどで是非行ってみてくださいね!