2008/03/26 毎日新聞宮城版


 ◇年金満額支給/支援給付金など柱
 中国残留邦人支援法は、日本語が壁となり定職に就けないなど、不遇な状況にあった孤児の生活支援のため昨年11月に改正され、今年元日に施行された。
 孤児の多くは、72年の日中国交正常化後、帰国事業が本格化した80~90年代に帰国。厚生労働省によると、国費で帰国した1世は07年10月末現在で6354人を数える。平均年齢71歳と高齢化しているうえ、生活保護受給者は58%に及ぶ。受給条件を満たすため、低賃金でも定職のある子供たちとあえて別々に暮らしたり、地域で孤立するケースもあり、生活保障が喫緊の課題だった。
 改正支援法の柱は、(1)従来3分の1しか支給していなかった老齢基礎年金を満額6万6000円に(2)生活保護に代わり、最大月8万円の支援給付金支給(3)地域社会における生活支援――の3点。
 年金の満額支給はすでに申請受け付けを開始し、順次認定。4月からは、支援給付金も支給される。
 今回の企画で取り上げた並木玉恵さんの場合、通常65歳から支給が始まる老齢基礎年金を前倒しして62歳から受給してきた。4月から、前倒し分を差し引いて支給されるが、今月まで受けている生活保護約7万円に代わる支援給付金の額は、まだ知らされていない。
 並木さんにとっては、中国への渡航費も悩みの種だ。独り暮らしの養母(88)は、病気で歩くこともできず、会うたびに「次はいつ会える」と手を離さないという。だが、「頻繁に帰国すると、生活拠点の問題や費用の問題で、生活保護対象者から外されるかも」と危惧(きぐ)してきた。今後、帰国の頻度や日数がどこまで認められるかも心配している。
 改正支援法成立で残留孤児を巡る課題すべてが解決するわけではない。地域社会で孤立し、制度変更に伴う申請手続きなどを知らないままの孤児が出る恐れもささやかれている。また、基本的に支援対象は1世に限られ、1世本人が60歳未満で死亡した場合、配偶者は支援給付金を受けることはできない。
 2世3世が抱える問題は法の対象外だ。支援者の間では、孤児や家族の持つ特殊性が、一般的な「生活困窮者」として社会問題に埋没する可能性も指摘されている。
 ◇東北訴訟も取り下げへ
 中国残留孤児らに対する国の支援策を巡っては、全国の孤児ら約2200人が02年12月以降、国は早期帰国への支援や、帰国後に社会に適応し生活するのに必要な支援を怠ったとして損害賠償を求める集団訴訟を全国15地裁に起こした。
 東北地方では05年5月以降、男性37人、女性48人の計85人が仙台地裁に提訴。法廷で原告らは「仕事をかけもちして生活費をかせぎ、日本語教室に通えなかった」「日本語ができず電話も使えない」などと苦労を訴えた。
 06年12月の神戸地裁や07年3月の名古屋地裁判決は、国の賠償責任を認定した。政治解決を目指した与党プロジェクトチームが支援策を検討。原告団が昨年7月に受け入れ、埼玉、東京、大阪など各地で原告側が訴訟を取り下げ、次々と終結している。仙台地裁の東北原告・弁護団も27日に取り下げ手続きをする見通し。