2023/11/08 信濃毎日新聞朝刊
 会員高齢化で活動終了 不戦の願い、地元中学生らに託し

 下伊那郡泰阜村から満州(現中国東北部)に渡った大八浪(ターパラン)泰阜村開拓団の元団員でつくる「大八浪会」が7日、会員の高齢化のため活動を終了した。同開拓団は現地で家族を亡くしたり、長く取り残されたりした人も多く、帰国後も元団員たちで励まし合って生きてきた。この日は同会の運営を支えてきた村に活動終了を報告するため、会員の3人が村役場を訪問。横前明村長や地元中学生らと懇談し、帰国後も不安定な生活を強いられた胸の内を語った。

 役場を訪れたのは会長で村出身の中島茂さん(88)=飯田市=と池田肇さん(87)=同、飯田市出身の勝沼実さん(90)=愛知県豊川市。勝沼さんは敗戦後に両親を亡くし、引き揚げると親戚に「おまえが満州に行きたいと言ったからだ」と責められて後悔の念を抱いた―と回顧。「開拓団は行政が勧誘した。村としても歴史を残してほしい」と伝えた。横前村長は「会が終わっても史実は変わらない。村民と一緒に語り継いでいく」と応じた。

 村によると、同開拓団では1939(昭和14)年から敗戦までの間、村内や近隣自治体から276戸、1144人が入植。敗戦後の混乱などで620人余が現地で死亡、40人余が行方不明となった。

 大八浪会は72年以降、泊まりがけの親睦会を村内などで定期的に開き、再開拓で県外に散らばった元団員も集まった。引き揚げ後、地元で冷遇されることもあった中で「同じ苦労を味わった仲間が腹を割って話せる場だった」(中島さん)。村内で開拓犠牲者の慰霊碑建立へ奔走したり、千ページ余に及ぶ同開拓団の記録集作成に協力したりした。近年、健在の会員は近隣で数人にとどまり、体力的に集まることも困難になったことから活動終了を決めた。

 この日は泰阜中学校の3年生14人も来庁し、2時間近く3人の体験を聞いた。4歳で満州へ渡った池田さんは、敗戦後の逃避行できょうだいを亡くし、母とともに中国人の家に身を寄せた。38歳のときに帰国したが日本語が分からず片言で「言葉を拾い上げるような思いだった」。中島さんは「戦争をすれば人は何も物を言えないうちに亡くなる。『戦争をする状態』にならないようにしてほしい」と力を込めた。

 授業で満蒙開拓について学んできた籔下晴奈さん(15)は「話を聞いた私たちも新しい形で伝える機会をつくりたい」と受け止めていた。