2024/04/07 中日新聞朝刊

 【長野県】阿南町で公民館報の編集委員などを歴任した小西允子さん(78)が3月、文芸社から「心のほとばしり」(1210円)を出版した。エッセー風の文章を織り交ぜながら、母としての自身の半生のほか、現代社会への評論、地域の歴史をつづっている。「どんな時代にも母と子どもには絆があるということを表現できた」と話している。(池山航一郎)
 同書は、小西さんが数十年以上にわたり書き記し続けた絵日記やノートから、自身の子どもたちや身の回りのこと、地域の様子などを抜粋して加筆したもので、5章に分かれている。

 「何よりも命の大切さを訴えたい」という小西さん。最も力を入れたのは、戦前に大下条村(現阿南町)の村長を務めた佐々木忠綱氏(故人)の功績を伝える最終章「地域」。佐々木氏は村民が満蒙開拓団として旧満州(中国東北部)に送られないように抵抗を続け、終戦後は村をあげて西富士(静岡県富士宮市)の開拓を行った。「誰かが伝えなければ、阿南町の歴史が風化してしまう。佐々木さんは国策に逆らってでも、村民の命を守った。平和を維持する方法を知っていた」と力説する。

 若いころに重い病気で入院し、医師から「子どもを産むことができない」と告げられた。同じことを告げられた病室の友人が退院後に妊娠したが、自ら命を絶ったことが本を出版したいと思った最初のきっかけだ。「書くことで、命の大切さを訴えることができると思う」と小西さん。「私を母にしてくれて、子どもには感謝したい」と話した。