2024/04/16 信濃毎日新聞朝刊 

 帰国者家族ら、感謝の再会

 中国黒竜江省ハルビン市で中国残留孤児やその養父母の中国人を支援してきた「ハルビン市日本孤児中国養父母連絡会」の名誉会長、胡暁慧(こぎょうけい)さん(81)らが14日、阿智村の満蒙(まんもう)開拓平和記念館などを訪れ、残留孤児だった帰国者やその家族らと交流した。帰国者たちは現在の生活や養父母への感謝を語り、連絡会側は、この間の歴史を踏まえて日中友好の架け橋となり続けたい―との思いを伝えた。

 交流は新型コロナウイルスの感染拡大で見合わせてきたため、およそ5年ぶり。連絡会側は7人が訪れ、再会を喜び合った。記念館は開館の2013年から毎年、連絡会の協力を得て中国で養母の証言を記録したり、胡名誉会長を招いて講演会を開いたりして、手を携えて歴史の継承に取り組んできた。

 記念館での交流会には帰国者1世や、その子どもや孫に当たる2世、3世が参加。3世の井原暁美さん(42)=飯田市=は祖母澄子さん(87)が1945(昭和20)年春、旧伍和村から阿智郷開拓団として家族で満州へ。敗戦後、澄子さんの父はシベリアへ抑留され、病気で逃げることが難しくなった母は、生き延びるため中国人の家庭に入った。暁美さんは「養父母がいなかったら母も私も生まれていない」と感謝を伝えた。

 ハルビン市からは、残留孤児の父が養父母に育てられたという徐敏(じょびん)さん(57)が来訪。自身は新聞記者を経て作家をしており「この歴史を伝えるため努力したい」とした。

 連絡会の7人は、飯田市で開かれている帰国者向けの日本語教室も訪ねた。帰国者も対象とするデイサービス施設を運営するNPO法人「共に歩む会」が開いており、1世と2世の10人が迎えた。

 自身が残留孤児で中国人養父母に育てられた多田清司さん(85)=飯田市=は長年、医療福祉の現場で帰国者への通訳に従事。2世の中にも言葉の壁や経済的な課題に直面している人もいることを伝え、「今後も困ったことがあればお手伝いしたい」と思いを語った。胡名誉会長は「養父母たちのことを忘れないでほしい」とした上で、日本側に「2世や3世への支援にも力を入れてほしい」と話した。

 また胡名誉会長は、ハルビン市の資料館「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」にある中国人養父母の展示について、8月を目標にスペースを2倍に増設する準備を進めているとした。陳列館は、生物兵器の開発を進めた日本の関東軍731部隊の資料を展示。連絡会の働きかけで12年から養父母の歴史も伝えている。