2024/04/25 長崎新聞 

 中国残留孤児の帰国に尽力した新上五島町出身の作詞家、柏実さん(84)=東京在住=の偉業をたたえる顕彰碑が同町若松郷の潮の香薫る公園の一角に建立された。21日、除幕式があり約40人が参加、柏さんも東京から駆けつけた。

 柏さんは、旧若松村神部で生まれて間もなく、両親、姉2人と満洲に渡り、終戦を迎えた。戦地に赴いた父の生死は不明、母は終戦の翌年死亡、現地で生まれた妹、弟とは生き別れに。引き揚げ後、若松中を卒業し上京。歌謡曲の作詞家となり数々の作品を世に送り出した。

 約50年前、残留孤児の肉親捜しをしている人に出会い、民間組織を設立。中国と日本両政府に働きかけ、現地調査活動も行い、多くの残留孤児の帰還に尽力した。自身が引き揚げ中に逃げ惑った記憶とともに、現地調査活動の記録も本にまとめた。

 柏さんの偉業を広く知ってもらおうと、若松郷の会社顧問、谷口稔さん(80)が「柏実」顕彰碑建立委員会を設立。代表として町内外から建立資金を募った。若松大橋そばに建てられた顕彰碑には「『旧満洲残留孤児引揚』功績者生誕の地」と刻まれ、柏さんの功績を記した碑文も掲示。谷口さんは「地元出身の偉人を未来に伝え続けることができる。町民だけでなく観光客など多くの人の目に留まるだろう」と話した。

 柏さんは「出身地に建立してもらい、この上ないうれしさ。戦争は反撃の繰り返し。歴史の本質を学べば争いはなくなると思う。考えるきっかけになれば、さらにうれしい」と言葉に力を込めた。(平田有子)
 

【写真説明】
顕彰碑の前に立つ柏さん(右)と谷口さん=新上五島町若松郷