おやじアーカイブス 再録「スイングマン」 | おやじ道楽

おやじアーカイブス 再録「スイングマン」

朝6時、今日も雨、雨。
せっかくの週末なのになあ・・・。


路面は完全ウェット。
ポタリングは残念ながら見送りだ。


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さて、時間ができた・・・。(苦笑)


ヒマに飽かせてPCをイジっていたら、ずっと以前に私が別のブログに書き込んだ記事が残っていることを発見。

読み返すと、これがまた実にばかばかしい。


あまりにばかばかしいので、再録することにした。


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□■「スイングマン」



左側の座席の男が、揺れ始めた。


座ったまま上体を前後左右に大きく傾け、ゆっくりと不規則にそれを延々と繰り返す。


見れば、濃紺の背広に身をくるんだ同世代だ。
全身から立ちのぼる不快に甘い臭気は、過剰なアルコール摂取で酩酊した者のそれに

違いない。



終電近い西武線は、酔客と残業でくたびれ果てたサラリーマンでいつもごった返す。
こちらも疲労の極に達したカラダを引きずり、倒れこむようにして腰を落とした座席だ。
そう簡単には離れられない。


発車した電車の中で、その男が私の側に倒れると、私は男に押されて隣の乗客を押し、

私に押された乗客はまたその隣を押す。
それとまったく同様のことが私の反対サイドでも展開された結果、7人掛けの座席は

中心に座ったスイングマンを起点にウェーブのような波動を強いられる羽目になった。



やがてスイングマンの波動が小さくなり、周辺に安堵の空気が漂い始めた頃、

私はあらためて次の小さな異変に気づいた。


今度は…時々しゃっくりを思わせる微妙な周期でスイングマンが体をびくつかせ始めたのだ。
雑音と喧騒をかき分け耳を澄ませると、明らかにしゃっくりとゲップを混ぜたような
異音を

発している。


間違いない、えづき始めやがった…。


危険だ。 この状態はかなりやばい。


満員電車でのゲロンパは周囲に深刻な被害をもたらすだけでなく、

奴がもし乳製品系の食材を喰っていたなら、その伝播力は凄惨を極める。


青ざめたのは私だけではい
スイングマンをはさんで私とは反対側に座った婦人も異変を察し、ハンカチを握りしめて

明らかに動揺していた。


これは、恐怖だ。


…しかし席は立てん。


土壇場でつい自分を試したくなる性分が恨めしい。
だがそもそも、この程度の恐怖を克服できないようでは、混迷を深めるビジネスジャングルを

渡り切れようはずもない。
この選択には自信を持っていいはずだ。


実際、迷った。
迷ったが、そこで私の採った対策は…
「眠ること」だった。


まず眠りさえすれば、とりあえずその間の恐怖を忘れられる。
そう、夜は万人に平等なのだ。




澱のように溜まった疲労が私を睡眠に導くのに、時間はかからなかった。
気がつけば、下車すべき駅がもう間近に迫っていた。


と、私の左ひざに突っ伏すように男が背をかがめ、静かに寝息をたてているではないか。


スイングマン…。
押し寄せる吐瀉の圧力に耐え、尊厳を守り切ったのだね…。


恐怖はすでに安息に変わり、私も無事電車を後にすることができた。



駅からの徒歩、夜気に晒され早足に家路を急ぐうち、ひたひたと冷たい何かが

足にあたることに気づいた。
恐る恐る街灯の明かりで確認すると、ズボンの左膝のあたりに夏みかん大の輪染みが

残されていた。


おそらくは、スイングマンの…


動物の本能だろうか、一瞬、臭いをかぎたい衝動に駆られたが、そこにある明白な結果を察して

理性のブレーキが働いた。


そう、これでよかったんだヨ。
…これくらいで済んで。


スイングマン、ありがとう。



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