「廃道を歩く」から「きっかけ」後編 | トリブログ

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とにもかくにも道が好き。
廃道と隧道、地形図と運転を愛する石井あつこが廃道のことを綴るブログです。
たまに温泉や着物、日常の話もするかも。

「廃道を歩く」から「きっかけ」前編の続きです。

 

 

しかも、廃道で検索すると無数にサイトがあって、探索レポートが出てくるでてくる。こんなに全国各地にあるんだ……それもそうか。

一人ふむふむと納得して、おもむくままに閲覧を続けた。

そのうちに思いつきで親戚が住む“秋田県”というワードで検索をしてみたのが…運のつき。後に悪友となる平沼義之氏が管理人をする廃道サイト“山さ行がねが”と出会ってしまった。

とにかく「とりあえず前進する」彼の踏破スタイルが面白くて私は夢中になった。明日が仕事だというのに、深夜2時3時までレポートを読みあさった。

 

そして、レポートの一つとして紹介されていた、生保内(おぼない)手押軌道にある隧道が私の人生を変えた。

(山さ行がねが廃線レポート (yamaiga.com)より)

 

森林軌道という言葉さえ知らなかった私。木を伐り出すために全国の山中に何千キロもレールが敷かれていた時代があったなんて全然ピンとこなかったし、レールの太さや軌間に種類があるとか、動力もエンジンや牛や人などいろいろあるというのもよくわからなかった(ちなみに隧道とトンネルが同じ意味だと知ったのもこの時だ)。

それでも、惹かれた。

この隧道は車道からそこまで遠くない。私でもなんとかなりそうだ。よし、アクセラが納車されたら、次の休みに秋田に行こう。

地形図を触ったこともなく、もちろん持ってもいない。でもこのサイトの内容を暗記したからきっと大丈夫。私が持っていたのは若さと体力と無謀さだけだった。

仕事が終わって23時、私は自宅を出発した。

相棒はマップル一冊。目的地までは約650キロ。休みは明日明後日の2日間。よし下道で往復できる。秋田県に自分の運転で行くのは初めてだったけど、不安より期待が勝っていた。仕事の疲れなんか感じない、眠くない、アナタ(隧道)に会う為だったらどこまでも駆けていけるわ!…まるで遠距離恋愛の恋人に会いに行くようだ。いやだ、恥ずかしい。

 

途中、仮眠を挟み、翌日の昼頃にようやく仙北市内に入った。そして国道46号を生保内発電所を過ぎて右折、玉川を渡ってそのまま道なりに進む。集落が途切れて、建材屋さんの横から林道に入った瞬間に突然、怖気づいた。

こわいこわいこわい。隧道を見たい一心でここまで来たけど、何が出るかわからないじゃない。クマがいたらどうしよう、知らない人にあったらどうしよう。冗談ではなく血の気が引いていた。そんなこんなしている間に記憶していた看板の前に着いてしまう。この看板の横が、“山さ行がねが”を何度も読み返して覚えた、林道から軌道跡への降り口だ。

こわくて帰りたい、でも隧道を見てみたい。ここまで来て何もしないで帰るなんて空しすぎる…そう、650キロも走ってきたのに、行かないなんて選択肢はないだろう。私は決意してアクセラから降りた。

 

たいして藪もなく、踏み跡から軌道跡へ上るのも2m程斜面をよじ登る程度。

いまにして思えば、たった5分の散歩のような廃道歩きだったが、当時の私には大冒険であり、はじめて地図にない道を歩いた瞬間だった(人の道からはずれた瞬間かもしれない)。

そして、念願の隧道に到着。

「うわー!綺麗!素敵!かっこいい!!」(語彙力が貧弱)

初めての廃道探索で緊張と興奮がMAXになっていた私の贔屓目が十二分に入った感想だが、訪れたタイミングが良いこともあり本当に綺麗だった。

新緑の季節、ちょうど雨上がり、柱状節理を穿った隧道は深い灰色に光っていて、周りを彩る蔦も葉もしっとりと濡れていて、キラキラとしたひとつの芸術作品のように私の目に映った。やっぱり来てよかった。私は興奮しながら隧道の中や周りをうろうろして、柱状節理の多角形の破片をペタペタ触り、怖かったことなんてすっかり忘れて楽しんだ。

そして、「人が人の為に作って利用して、不要になったら棄てる。なんて切ない。自分は全部見てみたい。」と思った。そう、生保内手押し軌道のこの隧道こそが、私がオブローダー(廃道探索者を意味する造語)になるきっかけだ。

余談であるが、私は隧道を見終えた後、そのまま秋田市内のコンビニに向かい、当時コンビニの店長をしていた“山さ行がねが”管理人の平沼義之氏に「友人になってください」と声をかけ、連絡先を渡してから帰路に着いた。

いま考えるとありえないアグレッシブさだ…それほど廃道へ惚れ込んだということなんだろう。

以来18年以上、廃道探索は私といつも共にある。

生保内手押軌道の柱石隧道

鉄道省「日本案内記東北編」(昭和5年)の地図に景勝地記号で名称が書かれている。現役当時もこの柱状節理の隧道は目立っていたのだろう。また、初めて訪ねた時は内部に大量のビニ本やビデオが散乱していたが、後に廃道仲間と協力して全て撤去した。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

そんな盟友(親友?悪友?)平沼義之とわたしのトークイベント「廃道の日」&「廃道語りの夕べ最終夜」を

3月25日に都内某所で開催いたします。ご好評いただいて席残少!!

詳細・予約方法は3/25「廃道の日6」「廃道語りの夕べ最終夜」の詳細

よろしくお願いいたします!

 

 

 

 

ラベルレス、楽でいい。最近はだいたいこれ買ってる。

  

 

数年前から右手首の関節に石灰がたまって痛いという症状もちで、いっときは刺されたような激痛に。いまはたまに痛い。あと、手首があまり曲がらない。

字をたくさん書くと悪化しちゃう。

ということで、自分の宛名のハンコ作ったら超らくちん。朱肉は100均のスタンプ台で充分用が足りる。