5.27 大日本プロレス by チャン・マメルトン | 熱闘!後楽園

5.27 大日本プロレス by チャン・マメルトン

まだプロレスがゴールデンタイムでテレビ放送されていた時代(今では考えられないが)、世間対プロレス者の「終わりなき抗争」が行われていた。

テーマはただ一つ、“プロレスは八百長であるか否か”。

昨今世間を騒がせた大相撲のように、事前に勝敗が決まっているかどうかというものや、技は本当には効いていない、痛くないだの、プロレスに愛情を持たない者たちの容赦のない否定や罵倒に精一杯の反論を試みるものの、やはり多勢に無勢、悔しい思いをした経験は誰しも一度や二度ではなかったはずだ。

そんな時、現れたのが天龍源一郎だった。どんな時でも、誰が相手でも一切の妥協を排除した痛みの伝わる激しいファイトスタイルは、これぞまさにプロレスの凄み、醍醐味を凝縮したもので、いつ観ても「ハズレ」のないその試合内容は、それこそ一瞥をくれる世間の者たちに「天龍の試合を観ろ!」と堂々と胸を張って言い切れる勇気をプロレス者たちに与えてくれた。その系譜は三沢・川田・小橋・田上の全日本プロレス「四天王」や、橋本・武藤・蝶野の新日本プロレス「闘魂三銃士」、さらに2000年代初頭はノアへと続いた。

そして今、個人的には「大日本プロレスを観ろ!」なのである。

デスマッチが主体というそのカラーから敬遠するプロレス者もいるだろうが、この団体、デスマッチ以外にも「ストロングBJ」と称するバチバチのハードヒットストロングスタイルもあれば、かつてのドン荒川やラッシャー木村・永源遥らが活躍したいわゆる「楽しいプロレス」、さらにはルチャ・スタイルまで幅広く網羅し、しかもセミのストロングBJ、メインのデスマッチと毎回満足度の高い試合で興行を締めてくれている。いわば「空クジなし」。凶器の使い方などは、凄惨さを超えて笑いさえ醸し出すような、明るく痛快な、それでいてプロレス頭と心をフルに駆使して展開される試合は、陰湿なイメージなど一切なし。試合後の爽快感は、スポーツと称しても何ら違和感はない(見た目は別にして)。


さて、今回の後楽園大会。年に2回のビッグマッチ、横浜文化体育館大会の直後とあって、新たな流れを構築する意味合いを持った大会で、客席は東・西・北とほぼ満員。南側は7割程度の入りか。団体発表は実数で974人。横浜文体大会を含めて、この約1ヶ月間で後楽園3回、新木場1回と東京周辺で5回も興行があれば、いかにヘビーな大日ファンといえど財布が大流血状態ではなかろうか。

都合により第三試合の途中から観戦。とは言え、気になるのは第一試合でシングルマッチが組まれた谷口裕一だ。「たにぐちくーん」というお客さんの掛け声に「ハイっ!」と元気に答える会場の人気者。大国坊弁慶とのやり取りは大日本前座の名物なのだが、最近若手の壁的な存在としてシングルが組まれることが多くなっている。見た目は若く、実年齢も30歳そこそこだが、実は大日本プロレス旗揚げと時期をほぼ同じくして入門。当時15歳だったから既にキャリアは15年以上。他のレスラーならその役割を担わせてもとなるのだが、谷口君だともう一つテーマや見所に乏しく、結果的にだがマッチメークの意図がよく理解できない。若手の壁というには強さや上手さも感じさせず、お客さんとのやり取りも意識的に少なくしているせいか、会場を温めるまでには至っていない。今後、どうなるのか? 気になるところではある。

で、その第三試合だが、MEN'Sテイオー、ツトム・オースギ、ヘラクレス千賀vs怨霊 旭志織 大橋篤の6人タッグマッチ。ルチャスタイルの試合だ。ほぼ毎回後楽園大会では第三試合にラインナップ。要は見た目の違う試合を挟んでという意図なのだろうが、もはやこの試合は必要ないと思う。今回に限らず、会場が沸いたことがほぼないのだ。
動きは悪くないのだが、いかんせん技の品評会をしているだけで、見ている者からすれば説得力や勝負論など何もない。特にMEN'Sテイオーの「試合をこなしています」感には、失笑すら出てしまう。彼が怪我で欠場中、ルチャスタイルを省いた全6試合で興行が行われたが、その穴を感じさせないどころか逆に最後までダレずに観戦できた。今後も継続するなら、大胆なテコ入れが必要だろう。


第四試合から徐々にクオリティが上がってきたのだが、印象に残ったのが休憩明けの二試合。まずはセミファイナルの関本大介 岡林裕二vs バラモンシュウ バラモンケイのタッグマッチ。
タッグのスペシャリストとしては、邪道外道以来の逸材と言えるバラモン。奇抜な髪型で水を口から噴きながら、場内を練り歩いては会場を温める“空気”の作り方。マグロや豚の頭、スライム、墨汁噴射など、持ち込むアイテムのユニークさと使い方の多彩さ。言葉一つ一つのタイミングや面白さ。体の作りや技のキレ、受けの技術に見せ方。常に見られていることを意識している動き。ヒールであることを理解したアジテーション。負けっぷりの良さと負けても落ちない商品価値。それらが高いレベルで融合している様は、全団体を見回しても希少な存在だ。
正直、個人的にはたまにゲテ物感を覚えるのだが、それすら彼らの思惑にまんまとはまってしまったからこその印象なんだろう。その彼らがストロングBJの象徴的タッグ、現アジアタッグチャンピオンチームである関本・岡林組と激突するのは何ともミスマッチで、試合展開や結果がまるで予想のつかないものだった。

開始早々、岡林が意表をついた行動を見せる。相手のお株である「口からスライム」攻撃をバラモンに仕掛けたのだ。かつて過激なアナウンサーと言われていた当時の古舘伊知郎キャスターなら「掟破りの逆スライム」とでも絶叫するのだろう。体ごとぶつかるスタイルを身上とする関本・岡林組だが、柔軟な対応ができることに感心。
ところが10分過ぎからバラモンが、その確かな実力を遺憾なく発揮してきた。バラモンの役割は主に色物的で、10分前後でお客を楽しませ、試合編成の上でも異質なものを見せることでその後に繋げようとすることが多い。ゆえに10分を超えて、つまり色物的なファイト以外のバラモンを初めて観たが、ストロングBJにも十分に対応し、関本・岡林をもしやというところまで追い詰めている。会場もバラモンに対するいつもの見方ではない。いつしかファイター・バラモンを応援している。
結果は関本のぶっこ抜きジャーマンで決したが、バラモンの全然違うスタイルを観られたので十分満足だ。


そしてメイン。伊東 竜二 シャドウWX アブドーラ・小林 vs 宮本裕向 木高イサミ 星野 勘九郎の6人タッグマッチ。団体の看板タイトル、デスマッチヘビー級王座をめぐる新たな闘いを、チャンピオン・伊東を中心にしたこの6人で、まずはどう作るのか? 
結果から書けば、星野勘九郎がアブドーラ小林からピンフォールを奪って、そのまま伊東のベルトへの挑戦が決まった。まさかと言うか、これは完全に予想外である。星野は体が頑丈で、どんな試合形式でもぶっ壊れない安心感がある。一方でファンに深い印象を与える試合を残してこなかったのも事実。それでも星野に挑戦させるということは、挑戦者が限られてきたベルトを巡る争いを、しいては大日本のデスマッチファイターの底上げを図る狙いのようだ。
先にストロングBJの充実振りを指摘したが、反比例するかのように新たなデスマッチファイターが最近出現していない。ある時にはユニオンの石川を組み入れたりしたが、やはりレギュラーのファイターが欲しいところだろう。
それにしても、こういう展開を仕掛けるところが大日本の面白さ、すなわちマッチメーカーのセンスの良さである。このセンスを少しでも見習って欲しい団体がいくつもあるのだが…。全体としては、今回も満足感のある興行だったと思う。


デスマッチを観ていて、たまに思うことがある。彼らはなぜ、あの過酷な試合をし続けるのだろうと。毎回流血が当たり前なのだから、現代の地上波テレビなどでは絶対に放送されるはずはない。ゆえに過去のようなプロレスブームが起こせる可能性が、世間の多くの人が知るような人気者にはなれない可能性が低くはない中で、それでも蛍光灯で頭を叩かれ、金網の上から投げられ、そしてバルコニーからダイブをする。

でも、その一つ一つに嘘や八百長は存在しない。

流れ出る血や受身を取ったことは事実であり、それでも倒れず、死なないで試合をし続けている。多くの人は「バカバカしい」と吐き捨てるのかもしれない。それでも、彼らは楽しそうに、真摯に「バカバカしい」事に全力で取り組んでいる。「こんな事、お前らにできるのか!」。そう世間に堂々と胸を張って言い切れるのが、今の大日本プロレスである



団体発表の試合結果はこちら。
http://www.bjw.co.jp/vm/game-sec_2950.html