佐藤佐吉大演劇祭参加作品『転職生』の合宿稽古を、秩父にある出演者の黒澤くんの実家「森の家」にて行うことにした。2泊3日の合宿中日誌を書いてみることにした。良ければ覗いてみて下さい。

転職生、公演詳細

◾️合宿1日目

合宿の会場となる「森の家」秩父の小鹿野という町の、その又山中にある。その家は僕の同居人である黒澤多生くんのお父さんが枕木を組んで一人で作ったという。
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初日は夜20時過ぎに西武秩父駅に集合することになっている。西武線の下りは飯能を越えると一気に人が少なくなり、駅と駅の感覚も長くなる。なんと無く音楽聞いたりするのは勿体無く感じ、電車のガタゴトする音をBGMに今回の脚本で引用したりしてる宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を読み返す。
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元々は19時に集合して皆で駅前の温泉に入ろうという話だったのだが、のってくれる人は少なめだった。少し、なんだかなぁとか思う。稽古後にご飯に誘ったりする時も特定の人しか来なかったり。そういうのに憤りを感じたりする。なんだろう、劇作をする時、何か普通の、淡白に作業をする以上のことを求めがちだ。必要、とかってより、何か欲求をそこで生産しようとするような、恋人みたいに考えるというか、、単に寂しいのかも。
銀河鉄道の夜の、ジョバンニがカムパネルラに嫉妬心を抱くところで、僕もふとそんなことを思った。


「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」


ジョバンニの台詞。
今回の脚本は会社という場所で、幸せについて考えるような話なのだ。

読み終える。気付くと車両には僕と、ハットを深く被って顔が見えないおじさんと。二人だけになっていて。

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車内の放送で、「左手の車窓から芦ヶ久保の氷柱が見えます」というアナウンスがある。覗くと、ライトアップされた壮大な氷の森と、ポツンと鳥居が見えた。銀河鉄道の夜の、鉄道に乗った後の風景の描写は色々な比喩がこれでもかって位出てきて想像が追い付かない。死ぬほど綺麗なんだなくらいの補完なんだけど。多分僕はこれからこの本を読むとき、あの氷柱の、なんとも言えない色のことを考えるのだろう。

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西武秩父駅につき、何人かと温泉に入って。20時過ぎ、入らなかった人たちも集まる。皆それぞれ仕事終わりだったり、用事の後だったりする。なんでこんなとこまで来たのだろう。その疑問は多分、何故演劇をやってるのかってことと直結する。それについて考える、ということが、これの意義の様に思う。これから山の中で、会社の演劇を作る。

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駅からバスに乗って森の家の近くまで行くのだが、出演者の深道きてれつさんから電車が遅れてバスに間に合わないとの連絡が来る。僕は深道さんを待ち、二人でタクシーで向かうことにした。「深道きてれつ」という名前は勿論偽名である。因みに女性だ。彼女は自らの素性を殆ど明かさずに演劇活動をしている。僕は最初それを聞いた時少し不安に感じた。俳優のドキュメントに頼る様なことが、僕の劇作には必要な気がしている。ただ、稽古する内に杞憂だと解った。寧ろ素性を明かさないという彼女の拘りは大きなドキュメントであり、彼女に対して行う僕の想像は作品をとても豊かにして行ったと思う。彼女に演じてもらう「シナト」というキャラクターは、タイトルの「転職生」に当たる、謎の中途入社員なのだけど。

深道さんと二人でタクシーに乗る。山道を行き、車窓から夜景が見えた。バスからは見えなかったらしいので、タクシー代4000円分の夜景が見れた、と深道さんは喜んでいた。

目的地である森の家近くの薬局に辿り着き、他の皆と合流。そこから黒澤くんのお父さんとその彼女さんが車で迎えに来てくれた。車で山道を登り、到着。山の中にポツネンとあるその家は、相変わらずため息が出る様な素敵な空間だった。

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黒澤父は陶芸家で、この家で焼き物を作ったり、教室を開いたりして生計を立てている。東京にいる身から考えると、とても不思議な生き方である。挨拶を済ませ、黒澤父と彼女さんが作ってくれた夕飯を皆んなで頂く。至れり尽くせりだ。

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食後、二階の広々としたスペースで改定を終えたばかりの台本の読み合わせをする。

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この二階のスペースはちょっとしたライブなど、イベントに使用することもあるらしい。僕はぼーっと読み合わせを聞きながら、窓の外側に張り付いた蛾を見ていた。都心では見ないサイズの蛾が、室内の光目掛けて窓に張り付いている。時々飛んで、位置を変えてまた張り付く。ばたつかせてる羽は鱗粉にまみれてる。大きな蛾は、小さな鳥の様にも見える。そう言えば虫や鳥は逃げる為に飛ぶ事を選んだそうな。

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読み合わせを終え、稽古は終了。直ぐに寝る人と、お酒を飲む人と。僕は二階の端っこでストーブにあたりながらこれを書いている。

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