たとえ日本が終わるとしても!の巻 | クレイジートラベラー!!~ロードレーサーで行く変態旅行記~

たとえ日本が終わるとしても!の巻

5月20日PM10:00

夜中の中山道を爆走する、大型トラックの巨獣のような黒い陰が、羽虫のように小さいピンク色のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>に迫り来る。

 

こちらを避ける気があまりないのか、轟音と爆風を立てながら、すれすれを通り抜けていくトラックを見ても、私はもう何とも思わない。

 

・・諸行は無常であり、この身もいつかは滅びる・・。

 

何だか悟りを開いたかのような心境でピンク色の愛機を走らせていると、闇夜に潜んでいたオマワリがどこからともなく姿を現し、ライトセイバーみたいに赤く光る誘導棒をぶんぶん振って『こっち来い』しているではないか。

 
『うおっ!予想通り、出やがったー・・』
 
私は、面倒くせえという態度を隠そうともせずに舌打ちをし、愛機を端っこへ止めると、ヘッドライトがきっちり点灯し、テールランプの点滅やリアリフレクターが装備されている事を確認する。・・よし、手抜かりなし!かかってこいや・・。
 
権力の象徴と言える、紺の制服を身にまとった2人組の陰がぐんぐん迫り来る中、私は『アベ政治を許さない』とデカデカと書いてある、リュックの中身を見せびらかすようして、ごそごそと自転車防犯登録のコピーを取り出した。
 
『どうもお疲れ様です、こんばんはー・・はいこれ、防犯登録の証書ですよー・・それで、今夜はどのようなご用件なのかな?これから俺は長野まで、共謀罪に反対するデモに参加しに行くんですけどねぇ-・・?』
 
私は逆らう気も無いが、言いなりになるつもりも無いという超然とした態度で臨む。今までの経験上、この人種は『仕事をしていない自由人(税金をあまり納めていない人)』に対してやたらと冷たく、イチャモンをつけたがる性質があるようで、私が仕事しないでブラッと自転車旅行をしていたときは、えらい酷ぇ目に遭わされたものだ。(・・私はこの国はおかしいと小学校の頃から気がついていたが、このときに確信した。俺たちは働くために生み出された家畜なのだと)・・だが、今は彼らより遙かに安い給料でしんどい仕事をしているという自信(笑)があるので、もし口論になっても負ける気がしなかった(泣)
 
『な、なな・・長野っすか!お疲れ様です!!今夜は、危険な運転をするトラックが多いので、自転車に乗っている方へ注意を促しているんです。』
 
変な自転車の旅人に絡んじゃったなぁ・・と後悔しているような口調だったが、その道理の通らないおかしな答弁に、私は目を光らせた。
 
『ちょっと、それはおかしいですよ。注意を促さなくてはならないのは、危険な運転をするトラックの方でしょ?もしかして、チャリに乗ってるヤツを捕まえた方が楽だからっすか?トラック捕まえるの面倒くさいッスもんねー・・かといって、お仕事らしきことはしなきゃならない。オマワリさんも大変だぁ!お疲れさん!!』
 
私にやましい点が全くないので、イチャモンをつける事が出来ないばかりか、逆に自分たちがイチャモンつけられそうになっている事に気がついたのか、とっとと失せろ!といった目でこちらを見てきたので、私は彼らにビシッと敬礼をしてその場を立ち去った。
 
『やましい点は今のところは無い』か・・共謀罪が成立したら、デモに参加すること自体が、『やましいこと』になってしまうのだ。実際に、これを裏付けるやりとりが国会でなされていたのだから、間違いないのだ。
権力にもの申すと逮捕される・・日本も北朝鮮みたいになるんですな。
 
また、この悪法が成立してケーサツ組織の権限が強大になると、先ほどのような、道理の通らない理由でとっ捕まえられてしまう事もあり得るのだ・・例え権力に大人しく従っていてもね。実際、70年ほど前にあった治安維持法という法律で、あらぬ疑いをかけられて拷問を受けたりした人が居たのだ
 
(つーか、政治家やケーサツは共謀罪の対象外って、どーゆーことだ?自分たちにとって都合の悪い奴らをとっ捕まえるためと言う理由以外に何があるんだ?
 
ちなみに、現政権の憲法改革案では、現憲法にある『公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる』から<絶対に>の文字を消してしまっているのだ!!つまり、今後はやりたくなったら拷問するよん♪と言う意味なのだ!楽しみだね!ウフッ♡)
 
なんだか、北朝鮮の危険性を煽っておきながら、そんな国になろうとしているね・・もしかしたら、今の政権はあの国とグルなのかねぇ。
ミサイルが飛んでくるからヤベーと言うことで電車が止まるのに、もっとヤベー原発が止まらないのは何故なのだろう?不祥事だらけの政権から国民の関心をそらすために、打ち上げ花火でもお願いでもしたのかねぇ?
 
まあ、とにかくこの流れを止めなければ、日本の未来は確実な闇だ。
私は空を見上げた。この夜空の向こうに輝く星のように、声を上げ立ち上がる人が居る限り、まだ希望の光はあるさ。
 
翌朝。
私は群馬県から長野県にまたがる、碓氷峠という峠を登っているのだが、しんどかった。斜度はかなり緩やかな部類に入るのだが、それでもしんどかった。
ここよりずっとしんどい峠はいくらでもあるのだが、何か今までで一番しんどい。
俺もすっかりオッサンですな、頭もハゲてるしー・・
 
このハゲー!違うだろ!違うだろ!
 
きっと、お仕事があまりにも忙しいせいでクタクタなのだろう。あんなに仕事が嫌いだったのに、今では俺もすっかり社畜だぜ-クソがー・・
 
ぶつくさ文句を言いながら坂を登っていくと、頂上は爽やかな軽井沢であった。
あとは長野市まで坂を緩やかに下っていくだけなので、楽ちんである。
 
私はふっと糸が切れたように、イートインコーナーがあるそこら辺のコンビニで崩れ落ちた。
 
自転車に乗ることを目的とした『自転車趣味』はそれ自体がカスだが、遙か遠い目的地までの移動手段、そして現地の足として自転車を運用する『長距離自転車移動』もそれに引けを取らないくらいにカスである。そんな遠いとこなんざ、電車で行けよな?
 
自分でやっておいて何だが、俺は一体何をやってんだろね?こんなもん、ただの時間つぶしなんだから家で寝てればいいのに・・まあ、大概は家で寝てるが。
 
それにしても『自転車趣味』に『長距離自転車移動』・・これらは他人から見たら同じようなものなのに、俺が『自転車趣味』ばかり夢中になるヤツを見ると吐き気がするのは、何故なのだ・・。
 
時間ぎりぎりで長野市の集合場所に到着すると、すぐさま共謀罪に反対するデモに出発である。たとえ無駄だと分かっていても、やらなきゃならない事がある!!
 
デモが終わると、私は善光寺へお参りに向かった。
確かお寺の場合のお賽銭には、『欲を捨てる』という意味があったと思う。
 
ということは、『早く自転車移動という愚かな欲望を捨てられますように』とお願いすればよいのだろうか。ついでに『日本が原発をやめて共謀罪が成立しないで戦争しませんように』とお願いしたいところだが、これだと欲をかくことになるのかな?いろいろ考えながら賽銭箱に五円玉を放り投げると、見事に外れて床に転がった。
 
うーむ。どうやら、私は下らない行為を止めることは出来そうにないし、日本は原発ジャンジャン作って動かして、核のゴミまみれになって、共謀罪が成立して戦争突入のようだ・・。
 
でも、そんなことは分かっていたよ。ガキの頃からな。
夏の始まりと、日本の終わりの始まりを予感させる青空を仰ぎ、私は今度は超特急で帰路についた。
 
6月17日
 
私はまた、文句を垂れながら性懲りも無く『自転車移動』を行っていた。
 
『うわぁーダルいし、超めんどくせえ-・・』
 
東京都と神奈川県にまたがる大垂水峠をひぃひぃ言いながら上っていると、後方からロードレーサーに乗車した複数の男性がやってきて、私を軽やかに追い抜いていった。だが、私と同じくしんどいようで、時折かけ声をあげ、お互いを励まし合っているようである。
 
・・やれやれ、気持ち悪いな。
 
いや、待て。はたから見たら、俺だって同じくらい気持ち悪いはずだ。
 
 
ああ・・そうか、きっとこれが『同族嫌悪』と言うヤツなのだな。
自分もあんな連中と同じだと思いたくない、という反動なのだろう。
 
私たちが住む日本は、原発事故の真っ最中だというのに、さらなる原発の建設に再稼働、しかもわざわざ火山やら巨大な断層の近くに建ってるヤツをだ。さらにさらに、戦争をするための準備だって着々と進んでいるという危機的状況なのだ。いわば、自分の家が大火事になっているというのに、その現実から目を背けて、自転車趣味だのクソみてぇな行為に夢中になってるようなものだ。バカだろ。
 
・・とは思うが、もうそれでいいのかも知れない。
 
もう共謀罪は成立してしまったよ・・(それどころか、7月11日から施行だよ)
オワタ-(^o^)v
めでたく日本の破滅は確定しちゃいました。なので、やりたいことを心置きなく好きなだけやればいい。どうせもう終わりだし。
 
俺のやりたいことかぁー・・特にねえな。今まで通り、ゴミ拾いのイベントに参加したり、被災地に助太刀しに行ったりして、そして私たち弱者市民を苦しめる強者に抗い、最期は弾圧されて終わる。そう・・それでいい。
 
また、『終わりが確定する』というのは、実に楽なことだ。もう将来について不安になる事が無い。
 
ああ、そうそう。私の精神が未熟だったため、自転車趣味やらマラソンやら、食い物ばかり夢中になる者どもを、心の底からバカにしてしまい、申し訳なかったと思う。今ここにお詫び申し上げる。
 
『同族嫌悪』・・これは相手が自分と『同族』だと思うから起こる心理現象だ。それなら、同族だと思わなければよい。実にたやすい。
 
今後は自転車趣味など、どうでもいい行為ばかり夢中になる者を見てしまったら、あれはバッタやクワガタだと思うことにするよ。
 
いや、待てよ。バッタやクワガタが、そんな下らねぇ行為に夢中になるかよ。彼らの名誉を傷つける訳にはいかないので、やっぱ止めよう。
・・人間は人間だ。人間はこの地球に生きるあらゆる生物で一番、下等で醜くて愚かなものだ。他に比べようも無い、比類無きカスなのだ。
 
だから、自国の原発が爆発しようが、自分たちの子孫の未来が無くなろうが、いよいよ自分たちの破滅が目前に迫ろうが、関係なくどうでもいい事に夢中になって当たり前。実に人間らしい。うむ・・これでよいのだ。
 
何だろうなぁ、今のこの気持ちは。この世の全てが一緒くたになって、そして全てがどうでもいい。実に気楽で心地よいな。
 
いよいよ、私も終わりだが・・もう人間として生まれ変わりたくないな。
最悪の生物である人間として生まれてくるのは、きっと罰なのだ。
何の罰なのかは、今の私には分かりかねるけどね。
他の生物なら?いや、そもそも『生まれ変わらず、無になりたい』
だが、次回もきっと人間だろう。私の罰ゲームはまだまだ終わらない。
 
まだまだ『無』にはなれない。
 
今まで生きてきて、ろくな事やってないもんなぁ。クソだったもんなぁ、俺。
 
だから今の愚かな俺に出来ることは、次回の自分のために、罰の負担を軽くしておいてやるくらいだよなぁ。
 
私のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>が、山梨県韮崎の駅前に静かに到着した。するとそこでは、誰かが演説をしており、10人くらいのおっさんやおばはんが集まっていた。
 
彼らは、共謀罪を廃案にするために立ち上がった人たちなのだ。
ま・・どうあがいても、日本が破滅しないで済む可能性は『0%』だけどな。
 
だけど、確かに『0%』だが、何も行動しなれば、それは永遠に変動して『100%』になりゃしないよ。やろうとしない限り、何も変わりはしない。
 
 
量子力学による不確定性理論によると、どんな場所でも、どんなときでも『無』から『有』が生じる可能性があるため、この宇宙には本当の『0』なんて無いんだってさ。
私はそこから、少しでも可能性を引き上げることが出来ればいいや。
 
えーと結局、何が言いたいんだ俺は?
 
うーむ!つまり、どうせ無駄だけど何もしなければ、後には後悔だけが残ると言うことさ。
 
・・さて、どうやらデモ出発の準備が整ったようだ。
そろそろ私は行くことにするよ。じゃあ、またね。