クレイジートラベラー!!~ロードレーサーで行く変態旅行記~
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ありがとう自転車趣味!の巻

10月27日

黄金色の絨毯のような落ち葉を踏みながら奥に進むと、至る所から立ち上る淡く香ばしい焚き火の匂い。ところ狭しと設営された丸っこいテントがまるで、群れで厳しい冬を乗り越えるために集結して来た、てんとう虫たちのようだ。

 

その狭間を縫うように、ロードレーサーを押しながらキャンプの陣地を探す男ふたりの姿があった。

 

『若いおっさん・・途中から輪行したいと願い出てくれてありがとな!お前が超ヘタレで本当に良かったぜ!!

 

私はそう言って、眩しい笑顔とハゲあがった頭を嬉しそうに輝かせる。実は途中から、自走で行くのが面倒くさくなって電車に乗ったので、早めにキャンプ場に到着しちゃったのだが、すでに入場者が殺到で制限がかかるギリギリのところだったのだ。

 

『俺も、兄貴が激しく輪行に同意してくれる腰抜けで嬉しいですよ。』と、若いおっさんは呆れたように鼻で笑った。

 

陽が落ちて、若いおっさんが焚き火に薪をくべながらしみじみと言う。

 

『兄貴とはもう長い付き合いですが、最近はよく遊びますねぇ。』

『そうだなぁ。つーか友達いねえし、お前以外のヤツとほとんど会わないしなぁ。』

 

こんな私でも、昔は<仲間>が居たような気がする。

とある自転車系のSNSで知り合った仲間に会いに行ったり、一緒に自転車で走りに行ったりしたものだ。

 

あのときは本当に幸せだったなぁ。ずっとあのまま・・楽しい夢を見ていたかったな。

だが、そのSNSもいよいよ無くなってしまうのだった。

彼らともう二度と関わることがないと思うと、何だか私の心に住んでいた大事な住人が、もう戻れないどこかの国へ去って行ってしまう気分である。

 

焚き火のオレンジ色に光る粉がふわっと舞い上がり、それを追いかけて夜空を見上げると、かつて<仲間>だった人たちの顔が浮かんだ。

 

若いおっさんのスマホから、泥んこになって遊んでいた子どもの頃を思い出すような、哀愁の漂うメロディーが流れ始める。これは劇場版ドラえもんのエンディング曲で、七歳の僕は大人になんてなりたくないな。でもどうして大人になるんだろう、と自分自身に問いかけている。(つーか、七歳でこんなこと考えるヤツすげえな)

 

『兄貴は、いつ頃大人になったと思いますか?』と、若いおっさんが私に聞いてきた。

 

『・・え?そもそも俺は大人じゃねえし。』

 

『なっ・・!?』若いおっさんの驚愕の表情が、焚き火の炎に照らされて揺らめいた。

 

『じゃあ、お前にとって大人になる、とは・・どういう事なんだ?』

 

私が問うと、若いおっさんの言う<大人>とは、<家庭を持つこと>なのだそうだ。私は首を振って答える。

 

『大人とは・・考え方や態度が十分に成熟していること。物事の道理をよく考え、深く思いを凝らして判断することができる人のこと。少なくとも俺には無理だ。もうお前になら分かっていると思うが、日本は滅ぶぞ。それで家庭を持っても幸せになるどころか、不幸をまき散らすだけなんじゃないか?それなら、家庭など持たないというのも、大人の判断とは言えないか?

また、日本人は大人になれないどころか、そもそも人間じゃねえ。自分の頭で物事を考えず、テレビやマスコミ、周りと同じ事をし、偉い人とお金の言いなりになる家畜だ。まずは人間性を取り戻さなきゃならねえ。』

 

私はもともと♀にモテないだけでなく、家庭を持ちたいという願望を持たない男なのでこんな事が言えるだけなのだが・・別に家庭を持っても良いと思う。日本人はもうこの世から居なくなる・・好きなことをすれば良い。

若いおっさんは神妙な面立ちで頷いた。

 

『はい・・。確かに大人になるのは難しいっすね。あ、そうだ。友達なんて居なくて全然問題ない、孤独で良いって、林修さんが言ってましたよ!』

 

何だ。若いおっさんは、友達がいねえ私を慰めてくれるってのか?

良い奴だな、俺はお前と出会えて本当に良かったよ。

 

翌日・・キャンプ場での爽やかな朝を迎えた私たちは、駅近くの温泉に入って帰っていく。もちろん輪行でな(笑)

私はもう自転車趣味にハマるということは無いだろう。

だけど、ありがとう。

この破滅するクソみたいな世の中でも、生きてて良かったと思える、素晴らしい思い出をくれて・・ありがとう。

11月2日

『腕力に自信のある人!いらっしゃいますか!!』

 

栃木県の災害ボランティアセンターにやってきた私は、勢いよく挙手をする。

すぐ隣にいたおっさんも同時に手を上げたので、思わず見知らぬふたりで笑った。

 

他人のために汗と泥まみれになって無償で動くなんて、相変わらず分からねえ、理解に苦しむ。ここに集まった人たちって、一体何者なんだ?

彼らは、台風の被害で困っている人が放っておけないと、日本中から集まってくる。

これが分かれば・・少しは大人に近づくのかなぁ?そのために、今日の作業を頑張ろう。

ああ~俺はいつ頃、大人になるんだろう?

そう思いながら見上げる広い青空には、私の下らぬぼやきなど素知らぬふうに、ただ晩秋の乾いた風が吹き抜けていく。

 

 

 

今回のエンディングテーマ<少年期>

パーフェクトワールド!の巻

 

7月15日

愛機の入ったリンコー袋を担いでホームに降り立つと、まるで東京からやって来た旅人を出迎えてくれているかのように、大湊湾が朝日に煌めいているのが見え、私は思わず目を細めた。

 
『おはよう!・・一年ぶりだね。』

 

とか思っていると、沖の方では何隻か自衛隊の護衛艦が浮かび、碧い海に黒い影を落としている。
 
・・結局、あの艦はどこの国の、何を護衛するためのものなんだろうな。
 
『統一指揮権密約』とか言うヤツで、実は自衛隊は米軍の指揮下にあるそうだ。
これは相当エラいことなのだが・・まあ、この国においてマトモだと思えるのは、治安が良いことと、飯が美味いことだけだから(・・汚染物質とか食の安全という話は置いておいて)・・どうでもいいや。
 
私は海が見えるホームにくるりと背を向け、学生さんで溢れかえった駅舎を抜けて、去年と同じくホテルしか無い殺風景な駅前に出ると、愛機の組み立てを始める。

 

『てっぺんの終着駅 大湊駅』と彫られた木製の駅名板をバックに、写真を撮っていると、さっきまでワラワラ居た学生さんがバスに乗って、どんどん出発していく。

 

それでは、そろそろ私も出発しよう。

ピンク色のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>が、本州最北の地を目指して紺碧の空の下を激走ー・・しない。

 

 

とりあえず、日が沈む前に到着すりゃいいかぁ。と思いながら、海岸線すれすれの道を。そして山間の坂道をのんびりと時間が経つのも気にせずに上っていく。
 
途中、私のような自転車に乗ったカスに遭遇することなく、快適に走行していると、ちょうど峠道の頂上でそういった方面のお方と出くわしてしまい、一気にテンションが下がった。
 
 
基本的に『自転車趣味』や『自転車移動』などの行為を繰り返してばかりいる輩はバカである。
 
『賢いけど、気まぐれにバカなこともする』のならまだいいが、そうではなく、『愚かだからバカなこと繰り返す』だけの哀れな生き物なのだ。
 
私は顔を引きつらせて、とりあえず手を振ると、相手も手を振り返してきた。
もしかしたら相手も『うわっ!俺みたいにチャリに乗ったバカがいやがる!とりあえず手でも振っとこう・・。』と思ったのかも知れない。
 
大間に入ると、いよいよ海岸線に建設中の不気味な建物が見えてきた。
 
『フン・・人間の顔と同じで、汚ねえモノはそれなりのおぞましいオーラを出すもんだな。』
 
私は顔を歪めて、極悪政治家のような汚ねえ笑みを浮かべた。
今眺めているソレは、『大間原発』である。
 
 
北朝鮮からミサイルが飛んでくるからヤベえとか言いながら、標的にされるとヤバい原発を作るって、一体どういうことなのか?
もしかして、わざと標的となるモノを作ってんのか?
 
しかも世界で初めて、世界で一番危険なプルトニウムを燃料として使う設計になっている、この大間原発をだ!頭が悪すぎる!!
 
・・なぜ、こんなクソみたいなことになっているのかって?
 
そりゃこの国には事実上、主権が無くて、『国民に内緒でこっそり結んだ条約で、宗主国アメリカ様の言いなりになっており、さらにその事実を隠し続けるから』なのだ。
 
だから政治家や役人は売国奴ばかりで、日本のために働くわけないし、日本の富を他所の国に流しちゃうし、宗主国様に他国の脅威を煽られて、何の役に立たねえ迎撃ミサイルシステムとか、よく落ちる変なヘリコプターとか買っちゃうし。
 
本当に売国奴や、日本人じゃ無い方々のやりたい放題になっている。
まあ、自分から他国の奴隷に成り下がってるんだもんね、しょうも無い。
 
おまけに、国民は権力の奴隷に成り下がるヤツや、マラソンやら自転車趣味みたいな、どうでもいいことばかり夢中になる情けないヤツばっかだし。
 
これでは隣国とかにもバカにされて当たり前だな。
日本人は哀れなゴイム・・ハハハッ♪
 
 
もしかしたら、グローバルな原子力マフィアのために、原発による放射能汚染で人が住めないように仕組んで、日本列島を世界中の核のゴミ捨て場にしてあげるという噂話は、本当なのかも知れないな。
だから、わざと北朝鮮から近い日本海側に原発をずらっと並べたり、巨大な活断層の近くにある原発を再稼働したりしているんじゃないのか?
 
また、やたらと原発を推進したり戦争をしたがるヤツが居るのだが、本当に愛国心なるものがあるのなら、もう滅び行くこの国に、さらなる破滅を強いるようなことをするのは止めた方がよいと思う。
                                                                      そもそも、自分の国を守るための軍隊の指揮権も無く、攻撃されたら一発でおしまいの原発を54基も抱えて居る時点で負けているのだ。
最大の弱点である原発を爆破されたら、収束作業に追われて戦争どころじゃ無いだろ。
 
つまり俺たちは何としてでも、原発を無くして戦争を避ける方法を見つけるしか、生きる道は無いんじゃないかぁ・・とは思うのだが。
まあ、どうせこの国は滅ぶからどうでもいいけどね。
 
私は、去年と同じように大間崎にやってきた。
・・ここに来るのは何度目だろうな。東京からチャリで自走で来たのは二回しか無いけど。そして、青森のバカ姉妹と出会った思い出の場所でもある。
 
まぐろ一本釣りを表現したモニュメントの向こうでは、やがてはこの地を破滅に追いやる、悪魔の施設が着々と完成しつつある事を知らないかのように、静かな海が広がっていた。
 
 
本州最北のお土産屋さんで、ピンク色のお派手なご当地Tシャツをゲットし、食堂で大間まぐろの丼を食した私は、さらに別のところでマグロの焼いたヤツを食らい、大間で採れたという、タコの一夜干しを食らっていた。もう満腹だが、まだ食うつもりである。
とりあえず現地で何かを消費して、経済的に少しでも潤すことが目的なのだ♪
だって、ここには原発に頼るしかない町になって欲しくないからね。
 
 
『そこのピンクのお兄さん!ピンクが似合ってるね!ところで、どこから来たの?』
 
次の美味いモノを求めてふらついていたところを、地元の人に話かけられた私は、頭上に広がる空のように晴れ晴れとした顔で答えた。
 
『明日行われる、大間原発に反対する集会に参加するために、鉄道とチャリで東京から来たんですよ!』
 
翌日、7月16日
昨日と打って変わって、そぼ降る雨の中を続々と会場に集まってくる人たちを見て、私は思った。
 
『いやぁ・・よくやるもんだなぁ。』
 
原発に反対する集会など面白くも何ともないし、できればこんなことはやりたくないものだ。少なくとも、私は家でゴロ寝しながらエロ本読んで屁でもこいて居たい。
 
私はこの世の全てが『どうでもいい』のだ。本当に心の底からどうでもいい。
いよいよ、この国が破滅すると言う、小学生の時から分かっていたことが、めでたく実現するだけの話である。
 
原発は無くならねえし、共謀罪も成立したし、もう確実な終焉がやってくる。
 
うむ、俺の人生には何の意味も価値も無かった・・いや、そもそも人間の行う全ての営みが無意味。俺は徹底的に性格が最悪であり、息もケツから放たれる屁も超臭えし、頭バカだし、ハゲてるしマジで生きる価値も無い人間のカスだが、人間自体が無意味なのだから、これまた無意味。
 
私の心を暗雲のように覆っていた、悩みやら不安やら全て無意味!!
バカでも天才でも意味なし!金持ちでもビンボーでも関係なし!!
めんどくせえ全ての事柄や、ありもしない幸福だの追い求める必要も無し!!
 
何コレやべえ!超絶楽ちんじゃん!!
 
 
これが分かるようになると、心がほんわかとヘリウムのごとく軽くなり、不自由な人の形をした自分の器がパカーッと割れて、ふんわりと『本体』が浮き出てきて、どこか別の時空にある世界へ辿り着いたみたいに、この世の全てを超越した『無』になって、何だか心がとても自由で安らかになるのだ。
 
何も無い、そして何もいらない。
これすなわち、『全てがある』ということ。
 
つまり、俺だけのクソ変態パーフェクトワールドへウエルカムだぜ!!
この野郎!!
 
・・みたいな感じになってしまうのだ。
だが、果たしてこれでよいのだろうか?
 
『クソなモノには、クソだ!とハッキリ訴え続けなきゃならねえ!!だから俺は、原発はクソだ!いらねえと言い続けてやる!!』
 
福島の浪江からやってきたラッパーの方の怒りの声が、雨の降る会場に響いた。彼の故郷は、原発事故によって汚染されてしまったのだ。
 
そうだな、クソなモノはクソだ!!
幸も不幸も、何も関知しなくなる便利な心を持っても、現実によくないモノが無くなる訳ではない。何も変わらない。
これは・・ただの現実逃避だ。
 
私が辿りついた『パーフェクトワールド』は、現実逃避という名の病の中でも一番最悪なヤツである。そもそもこれは、私が最も忌み嫌うモノだったはずだ。
 
いつも、『チャリだのマラソンだの食い物だのばっか夢中になって、現実逃避してるんじゃねえよクズども!!』とか言ってる自分自身が、そんなクズになって、どうするんだ?
 
私は会場のみんなと一緒に、威勢よくシュプレヒコールを上げる。
 
『大間原発建設反対!原発作らず、未来を作れ!!』
 
 
さぁて!そろそろ、この土砂降りの中をデモ行進する時間のようだ。
今年中に建設中止になってくれよな!マジで!!
去年も雨だったし、来年もデモなんぞに参加するのは嫌だぞ!!
 
デモが終わり、ずぶ濡れになった服を着替えて、フェリー乗り場で待機していると、雨雲が割れて青空が覗くようになった。
 
『フッ・・今さら遅えよ。』
 
まあ、どうやら雨の北海道にならなそうで良かった。
ところで、これから向かう函館市は、大間原発の建設差し止め訴訟を起こしているのだ。
んじゃあ、大量に土産でも買って応援しなくっちゃな!会社の人や友達に配れば喜ばれるし、一石二鳥!!
私は、愛機と一緒に意気揚々とフェリーに乗り込んだ。
 
翌日、7月17日
私はまたフェリーに乗って青森市に上陸し、青森のバカ姉妹と再会しておった。
 
『おめー、最近はチャリで青森に来なくなったなー!』
 
リンコーでしか青森に来なくなった私をヘタレとなじるバカ姉妹であったが、ちょっと待てや。
 
東京から青森まで700km以上もあるんだぞ!!
 
確かに以前は、しょっちゅう青森までチャリで自走でやって来てたけど、あのときの俺は、頭がちょっとおかしかったのだ。
 
『走ってばっかいてもつまんねーっつーの!チャリで走る距離なんかに何の価値も無いわ(笑)』
 
チャリで走り回るなどの行為は、はっきり言ってガキがやることだ。
大人には大人のやるべき事がある。
つーか、つい最近までガキみたいな事ばっかやってた俺って、一体・・。
 
ちなみに、バカ姉妹の姉貴の方は結婚しちゃったそうである。
なおのこと、自転車趣味などばかり夢中になっているわけにはいかねえな。
日本は原発と戦争で破滅するけど、これからの姉貴の人生が良くなる可能性を少しでも高めるために、これからも行動し続けなくてはならにゃいな。
 
新青森の改札口の外側で私に手を振る、バカ姉妹にさよならの手を振り、私は東京に戻るのだった。
 
趣味などという、単なる<楽しみ>など、どうでもいい。
 
本当に必要な事を必要な分だけやるだけだ・・自分の出来る範囲でな。
 
7月22日
私のピンク色の愛機<クレイジィ・エンジェル>が、荒川サイクリングロードをちんたらと走る。
 
『自転車はいつでも止まれる速度で!』と書かれた看板があるからと言うわけでは無く、単純に速く走るのがめんどくさいし、その意味を感じないのだ。
 
ゆっくりいけ、じっくりやれ、チャリに乗れ!
 
何だか、おぼっちゃま君みたいだが、これが今の私にはちょうど良い。
 
葛西臨海公園に到着すると、人工なぎさで、ゴミ拾いのイベントに参加する。
未来を生きる全ての生物が、今よりはよい生活を送れる可能性を高めるために。ま・・正直、あまり意味があるとは思えないがね。
 
すまないな。俺の悪い頭では、このくらいしか思いつかないんだ。
つーか、これ以上は面倒くさいのだ。
 
だがこうしていると、あの『パーフェクトワールド』に居たときと同じくらい、心が安らかになるのだ。
 
ゴミを拾う私たちの向こうでは、東京湾の汚れた海がきらきらと輝いている。
まるで、もっとどうしようもなく汚れた私たち人間を、その広い心で優しく慈しむかのように。
 

たとえ日本が終わるとしても!の巻

5月20日PM10:00

夜中の中山道を爆走する、大型トラックの巨獣のような黒い陰が、羽虫のように小さいピンク色のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>に迫り来る。

 

こちらを避ける気があまりないのか、轟音と爆風を立てながら、すれすれを通り抜けていくトラックを見ても、私はもう何とも思わない。

 

・・諸行は無常であり、この身もいつかは滅びる・・。

 

何だか悟りを開いたかのような心境でピンク色の愛機を走らせていると、闇夜に潜んでいたオマワリがどこからともなく姿を現し、ライトセイバーみたいに赤く光る誘導棒をぶんぶん振って『こっち来い』しているではないか。

 
『うおっ!予想通り、出やがったー・・』
 
私は、面倒くせえという態度を隠そうともせずに舌打ちをし、愛機を端っこへ止めると、ヘッドライトがきっちり点灯し、テールランプの点滅やリアリフレクターが装備されている事を確認する。・・よし、手抜かりなし!かかってこいや・・。
 
権力の象徴と言える、紺の制服を身にまとった2人組の陰がぐんぐん迫り来る中、私は『アベ政治を許さない』とデカデカと書いてある、リュックの中身を見せびらかすようして、ごそごそと自転車防犯登録のコピーを取り出した。
 
『どうもお疲れ様です、こんばんはー・・はいこれ、防犯登録の証書ですよー・・それで、今夜はどのようなご用件なのかな?これから俺は長野まで、共謀罪に反対するデモに参加しに行くんですけどねぇ-・・?』
 
私は逆らう気も無いが、言いなりになるつもりも無いという超然とした態度で臨む。今までの経験上、この人種は『仕事をしていない自由人(税金をあまり納めていない人)』に対してやたらと冷たく、イチャモンをつけたがる性質があるようで、私が仕事しないでブラッと自転車旅行をしていたときは、えらい酷ぇ目に遭わされたものだ。(・・私はこの国はおかしいと小学校の頃から気がついていたが、このときに確信した。俺たちは働くために生み出された家畜なのだと)・・だが、今は彼らより遙かに安い給料でしんどい仕事をしているという自信(笑)があるので、もし口論になっても負ける気がしなかった(泣)
 
『な、なな・・長野っすか!お疲れ様です!!今夜は、危険な運転をするトラックが多いので、自転車に乗っている方へ注意を促しているんです。』
 
変な自転車の旅人に絡んじゃったなぁ・・と後悔しているような口調だったが、その道理の通らないおかしな答弁に、私は目を光らせた。
 
『ちょっと、それはおかしいですよ。注意を促さなくてはならないのは、危険な運転をするトラックの方でしょ?もしかして、チャリに乗ってるヤツを捕まえた方が楽だからっすか?トラック捕まえるの面倒くさいッスもんねー・・かといって、お仕事らしきことはしなきゃならない。オマワリさんも大変だぁ!お疲れさん!!』
 
私にやましい点が全くないので、イチャモンをつける事が出来ないばかりか、逆に自分たちがイチャモンつけられそうになっている事に気がついたのか、とっとと失せろ!といった目でこちらを見てきたので、私は彼らにビシッと敬礼をしてその場を立ち去った。
 
『やましい点は今のところは無い』か・・共謀罪が成立したら、デモに参加すること自体が、『やましいこと』になってしまうのだ。実際に、これを裏付けるやりとりが国会でなされていたのだから、間違いないのだ。
権力にもの申すと逮捕される・・日本も北朝鮮みたいになるんですな。
 
また、この悪法が成立してケーサツ組織の権限が強大になると、先ほどのような、道理の通らない理由でとっ捕まえられてしまう事もあり得るのだ・・例え権力に大人しく従っていてもね。実際、70年ほど前にあった治安維持法という法律で、あらぬ疑いをかけられて拷問を受けたりした人が居たのだ
 
(つーか、政治家やケーサツは共謀罪の対象外って、どーゆーことだ?自分たちにとって都合の悪い奴らをとっ捕まえるためと言う理由以外に何があるんだ?
 
ちなみに、現政権の憲法改革案では、現憲法にある『公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる』から<絶対に>の文字を消してしまっているのだ!!つまり、今後はやりたくなったら拷問するよん♪と言う意味なのだ!楽しみだね!ウフッ♡)
 
なんだか、北朝鮮の危険性を煽っておきながら、そんな国になろうとしているね・・もしかしたら、今の政権はあの国とグルなのかねぇ。
ミサイルが飛んでくるからヤベーと言うことで電車が止まるのに、もっとヤベー原発が止まらないのは何故なのだろう?不祥事だらけの政権から国民の関心をそらすために、打ち上げ花火でもお願いでもしたのかねぇ?
 
まあ、とにかくこの流れを止めなければ、日本の未来は確実な闇だ。
私は空を見上げた。この夜空の向こうに輝く星のように、声を上げ立ち上がる人が居る限り、まだ希望の光はあるさ。
 
翌朝。
私は群馬県から長野県にまたがる、碓氷峠という峠を登っているのだが、しんどかった。斜度はかなり緩やかな部類に入るのだが、それでもしんどかった。
ここよりずっとしんどい峠はいくらでもあるのだが、何か今までで一番しんどい。
俺もすっかりオッサンですな、頭もハゲてるしー・・
 
このハゲー!違うだろ!違うだろ!
 
きっと、お仕事があまりにも忙しいせいでクタクタなのだろう。あんなに仕事が嫌いだったのに、今では俺もすっかり社畜だぜ-クソがー・・
 
ぶつくさ文句を言いながら坂を登っていくと、頂上は爽やかな軽井沢であった。
あとは長野市まで坂を緩やかに下っていくだけなので、楽ちんである。
 
私はふっと糸が切れたように、イートインコーナーがあるそこら辺のコンビニで崩れ落ちた。
 
自転車に乗ることを目的とした『自転車趣味』はそれ自体がカスだが、遙か遠い目的地までの移動手段、そして現地の足として自転車を運用する『長距離自転車移動』もそれに引けを取らないくらいにカスである。そんな遠いとこなんざ、電車で行けよな?
 
自分でやっておいて何だが、俺は一体何をやってんだろね?こんなもん、ただの時間つぶしなんだから家で寝てればいいのに・・まあ、大概は家で寝てるが。
 
それにしても『自転車趣味』に『長距離自転車移動』・・これらは他人から見たら同じようなものなのに、俺が『自転車趣味』ばかり夢中になるヤツを見ると吐き気がするのは、何故なのだ・・。
 
時間ぎりぎりで長野市の集合場所に到着すると、すぐさま共謀罪に反対するデモに出発である。たとえ無駄だと分かっていても、やらなきゃならない事がある!!
 
デモが終わると、私は善光寺へお参りに向かった。
確かお寺の場合のお賽銭には、『欲を捨てる』という意味があったと思う。
 
ということは、『早く自転車移動という愚かな欲望を捨てられますように』とお願いすればよいのだろうか。ついでに『日本が原発をやめて共謀罪が成立しないで戦争しませんように』とお願いしたいところだが、これだと欲をかくことになるのかな?いろいろ考えながら賽銭箱に五円玉を放り投げると、見事に外れて床に転がった。
 
うーむ。どうやら、私は下らない行為を止めることは出来そうにないし、日本は原発ジャンジャン作って動かして、核のゴミまみれになって、共謀罪が成立して戦争突入のようだ・・。
 
でも、そんなことは分かっていたよ。ガキの頃からな。
夏の始まりと、日本の終わりの始まりを予感させる青空を仰ぎ、私は今度は超特急で帰路についた。
 
6月17日
 
私はまた、文句を垂れながら性懲りも無く『自転車移動』を行っていた。
 
『うわぁーダルいし、超めんどくせえ-・・』
 
東京都と神奈川県にまたがる大垂水峠をひぃひぃ言いながら上っていると、後方からロードレーサーに乗車した複数の男性がやってきて、私を軽やかに追い抜いていった。だが、私と同じくしんどいようで、時折かけ声をあげ、お互いを励まし合っているようである。
 
・・やれやれ、気持ち悪いな。
 
いや、待て。はたから見たら、俺だって同じくらい気持ち悪いはずだ。
 
 
ああ・・そうか、きっとこれが『同族嫌悪』と言うヤツなのだな。
自分もあんな連中と同じだと思いたくない、という反動なのだろう。
 
私たちが住む日本は、原発事故の真っ最中だというのに、さらなる原発の建設に再稼働、しかもわざわざ火山やら巨大な断層の近くに建ってるヤツをだ。さらにさらに、戦争をするための準備だって着々と進んでいるという危機的状況なのだ。いわば、自分の家が大火事になっているというのに、その現実から目を背けて、自転車趣味だのクソみてぇな行為に夢中になってるようなものだ。バカだろ。
 
・・とは思うが、もうそれでいいのかも知れない。
 
もう共謀罪は成立してしまったよ・・(それどころか、7月11日から施行だよ)
オワタ-(^o^)v
めでたく日本の破滅は確定しちゃいました。なので、やりたいことを心置きなく好きなだけやればいい。どうせもう終わりだし。
 
俺のやりたいことかぁー・・特にねえな。今まで通り、ゴミ拾いのイベントに参加したり、被災地に助太刀しに行ったりして、そして私たち弱者市民を苦しめる強者に抗い、最期は弾圧されて終わる。そう・・それでいい。
 
また、『終わりが確定する』というのは、実に楽なことだ。もう将来について不安になる事が無い。
 
ああ、そうそう。私の精神が未熟だったため、自転車趣味やらマラソンやら、食い物ばかり夢中になる者どもを、心の底からバカにしてしまい、申し訳なかったと思う。今ここにお詫び申し上げる。
 
『同族嫌悪』・・これは相手が自分と『同族』だと思うから起こる心理現象だ。それなら、同族だと思わなければよい。実にたやすい。
 
今後は自転車趣味など、どうでもいい行為ばかり夢中になる者を見てしまったら、あれはバッタやクワガタだと思うことにするよ。
 
いや、待てよ。バッタやクワガタが、そんな下らねぇ行為に夢中になるかよ。彼らの名誉を傷つける訳にはいかないので、やっぱ止めよう。
・・人間は人間だ。人間はこの地球に生きるあらゆる生物で一番、下等で醜くて愚かなものだ。他に比べようも無い、比類無きカスなのだ。
 
だから、自国の原発が爆発しようが、自分たちの子孫の未来が無くなろうが、いよいよ自分たちの破滅が目前に迫ろうが、関係なくどうでもいい事に夢中になって当たり前。実に人間らしい。うむ・・これでよいのだ。
 
何だろうなぁ、今のこの気持ちは。この世の全てが一緒くたになって、そして全てがどうでもいい。実に気楽で心地よいな。
 
いよいよ、私も終わりだが・・もう人間として生まれ変わりたくないな。
最悪の生物である人間として生まれてくるのは、きっと罰なのだ。
何の罰なのかは、今の私には分かりかねるけどね。
他の生物なら?いや、そもそも『生まれ変わらず、無になりたい』
だが、次回もきっと人間だろう。私の罰ゲームはまだまだ終わらない。
 
まだまだ『無』にはなれない。
 
今まで生きてきて、ろくな事やってないもんなぁ。クソだったもんなぁ、俺。
 
だから今の愚かな俺に出来ることは、次回の自分のために、罰の負担を軽くしておいてやるくらいだよなぁ。
 
私のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>が、山梨県韮崎の駅前に静かに到着した。するとそこでは、誰かが演説をしており、10人くらいのおっさんやおばはんが集まっていた。
 
彼らは、共謀罪を廃案にするために立ち上がった人たちなのだ。
ま・・どうあがいても、日本が破滅しないで済む可能性は『0%』だけどな。
 
だけど、確かに『0%』だが、何も行動しなれば、それは永遠に変動して『100%』になりゃしないよ。やろうとしない限り、何も変わりはしない。
 
 
量子力学による不確定性理論によると、どんな場所でも、どんなときでも『無』から『有』が生じる可能性があるため、この宇宙には本当の『0』なんて無いんだってさ。
私はそこから、少しでも可能性を引き上げることが出来ればいいや。
 
えーと結局、何が言いたいんだ俺は?
 
うーむ!つまり、どうせ無駄だけど何もしなければ、後には後悔だけが残ると言うことさ。
 
・・さて、どうやらデモ出発の準備が整ったようだ。
そろそろ私は行くことにするよ。じゃあ、またね。
 
 

自転車は交通手段である!の巻

3月25日

荒川サイクリングロードをピンク色のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>が行く。

 

おやおや、この麗らかな春空の下、<自転車趣味>ですか、それはよろしゅうござりますね。と声をかけたくなるような、そよ風にも追い抜かれそうなスピードで走る俺・・(そもそもサイクリングロードはゆっくりと走るものだが)

 

<自転車趣味>ですかぁ・・そういえば、若い頃はこんな無駄行為に夢中になっておりましたよ。若気の至りですな。

えっ?今のこの俺の状況ですか?こっこれは<自転車趣味>ではなく、<交通手段>ですよっ!!(汗)ほらっ!こんなゴム長靴と作業着を装着した<サイクリスト>なんて普通は居ないっしょ!?

 

私は自分が未だに<自転車趣味>という愚かな行為に夢中になっている現実を認めたくないので、これを<交通手段>だと思うことにした!!本当に、人間というヤツは幻想の中で生きる生き物でありませうなぁ、ホッホッホ。

 
今回のイベントの会場に到着すると、あれ?何故だか今日は参加者がいっぱい居るぞ!?もしかしたら、自転車やらマラソン系のイベントと勘違いしてやってきたのだろうか?
 
日本人は無駄で下らない行為だけは夢中になる傾向があるので、もしかしたら、<何らかの罰ゲーム>としての参加なのだろうか?今回のような荒川のゴミ拾いや整地のイベントなど、普通は参加したがらないだろうし。
 
かくしてイベントは開幕したが、主催者の人によると、今日は予想以上に人が集まったので、午前の部だけでゴミ拾いと整地の作業が終わりそうとのことである。
 
私は整地の作業に参加することにしたが、この荒川に生息する、とある希少な生物の住処を守るための作業とのことで、『珍しい生き物を捕まえに来る人がいるので、このことは内緒にして欲しい』と主催者に言われてしまった。
 
私はこの言葉に軽く目眩を感じた。<生物好き>を自称するヤツに限って、生物を破滅に追い込もうとするのだから。
 
また、野生で生活している生物を連れ去って、自分の管理下で飼育するという行為も理解しがたい。本当に<生物好き>を自称するのであれば、生物が生きていけるような環境を守り、そっと遠くから見守るのではないのだろうか?また、生物に対する知識ばかり詰め込み、観察という名の覗きをするだけで現実的に何もしないのに<生物好き>を自称するというのも意味不明である。
 
まあ、これは走っているだけとか知識ばかり詰め込んで<自転車好き>と自称している人にもあてはまることではあるが。
 
私は確かに若いときは<自転車好き>だの<生物好き>だのと自称していたが、実際にはちっとも<好き>では無かったのだなと今となっては思うし、恥ずかしいなぁと思う。ナハハ・・。
 
さてさて、ホニャララという生き物の住処を守るための作業をおっ始めるとしよう。スコップで泥をすくって土嚢袋に詰めて、それを積んで河川の水が入ってこないようにするのだが、早くも私は泥まみれである。
まあ、このための装備なのだから、精一杯泥まみれになってやろうじゃ無いか。
 
活動自体は1時間くらいしか無いのだが、周囲のゴミは綺麗に片付けられてしまった。この荒川でたむろしている人たちが一斉に掃除をしたら、きっと速攻で綺麗になるのだろう・・だが、それは無理な話だ。
 
私は、超特急でサイクリングロードを走る自転車に乗ったカスどもを見やった。
・・到底あり得ない話である。
 
さて、さっさと帰ってゴロ寝しながらエロ本読んでエロゲームでもするか・・。
人間は『基本的に何もしない方が良い』のだ。地球のガン細胞だからな。
 
 
自分がゴミカスだということを自覚しつつ、それに染まらないように気をつける。
だが、それを他人に強いる訳にもいかない。人に何かを強制するようなものは、私の望む社会ではないのだから・・。
 
河川敷では、子どもたちが楽しそうに<玉転がし>をやっている。
私はその見た目は平和で、実際には滑稽な光景を眺めていた。
 
4月2日
ここは南多摩尾根幹線、通称<尾根幹>である。多摩丘陵を横断するので、緩やかなアップダウンが続き、それが自転車レースなどの練習に適しているため、<聖地>などと呼ぶ者もいるそうだ。
 
ほら早速、ロードレーサーに乗ったバカが連なって走行している様が見受けられるぞ・・って、俺もじゃねえかクソが。
 
私は<自転車は交通手段である!>と言ってはばからないが、実際にこんなピンク色のロードで<聖地>に乗り込んで来ている時点で、<自転車趣味>以外の何でも無い。
 
それなのに<だってニンゲンなんだもん♪>だのと醜い言い訳を吐いて、現実から目を背ける・・。
 
私は<聖地>からそれて、「聖蹟桜ヶ丘」という、何だか耳を澄ませば、清らかな恋愛が待っていそうで、待っていなさそうな方へ向かう。
 
すると、その途中で威勢の良い声を上げる、とある一団と遭遇した。どうやら間に合ったようだ。
 
おっ!無駄なことをやってるな!実にいいねぇ!!
 
彼らは『共謀罪』に反対するために立ち上がった人たちであった。私もその中に加わり、街を練り歩くことにする。
 
ちなみに、もう本当はみんな分かって居るだろうが、確認のために言うと、この法律はテロを防ぐためなどではない。戦争による理不尽を私たち国民に強いるために必要な法律である。
 
だが、このおぞましい法律の真の目的は、他にあるような気がするのだ・・。
 
『君、こんなピンクの派手なカッコで勇気があるのね!』
 
参加者のおばちゃんが、私のお派手な愛機に貼られた『原発はいらない!』やら『戦争反対!』やら『アベを許さん!』だのといったプラカードを見て話しかけてきた。
 
『いやいや、バカなだけですよ・・それにしても、もちろんアベは許せんですが、もっと許せんのは俺たち国民ですね。かつての戦争で滅亡寸前までいったのに、歴史から何も学ばず、自転車趣味やらスポーツやらクソみたいな行為に夢中になり<自国の問題を誤魔化すために他国の脅威を煽る>なんていう手段に簡単に騙されて売国奴の言いなりになる。お互いに自国の国民を騙すためのウソなんですけどね。バカな国民がバカな国を作っているだけで、アベは日本人の映し鏡です。』
 
私は厳しいことを言いつつも、口調は穏やかだった。
この国は、どうあがいても破滅するのは間違いないのだから。
 
『そうだね。日本人は権力の言いなりになる家畜だからね。共謀罪なんだけど、本当は何のためなんだろうね?巨大な財閥が戦争ビジネスでお金儲けをするためとかいう説もあるけど、それだけじゃないだろうね。やっぱり人口調整のためかな?』
 
陰謀的な話をする人は珍しいなと私は思いながら答えた。
残念だが、陰謀論は大体は本当だと思う。人間には他人を騙して自分だけが都合のいいように便宜を図ろうとする性質があるのだから。
 
『戦争をするのは様々なビジネス的な意図が絡んでいるし、人口調整のためでもあると思うのですが、共謀罪のような<思想>を取り締まろうとする傾向にはもっと深いものを感じますね・・本当の意味で<自分の頭で物事を考える人間>を滅亡させて、何でも言うことを聞く人工知能に置き換えちゃうとか。それが彼らにとっては望ましい社会になるのかも知れませんね。もしかしたら、謎の巨大財閥のトップはすでに人工知能だったりして。
何だかテレビアニメみたいな話ですが、最近やたらと機械化やら人工知能がクローズアップされているのは偶然では無いような気がします。
俺はそんな社会は嫌ですね。だから例え無駄だとしても、こうして行動し続けてやりますぞ!!』
 
デモが終わり、私は多摩川沿いのサイクリングロードで帰路につく。
 
俺にとって望ましい社会とは何か・・それは、自転車ばかり夢中になるバカがいつまでも平和に暮らしていけるような社会かな。そのためには、<自転車ばかり夢中になっているわけにはいかない>のさ。
 
私は哀愁漂う笑みを浮かべて前を見据えると、花咲くサイクリングロードをピンク色のロードレーサーで春風のように駆け抜けていった。
 

どんなときも!の巻

3月12日AM2:00

 

草木も眠る丑三つ時、とはよく言ったものだ。この世のすべてが眠りに落ちたような、漆黒の静寂ばかりが無限に広がるこのサイクリングロードの行く先は、もしかしたら誰も知らない常世の異世界なのかも知れない。

 
その常世へ向かっているのか、頼りないライトの明かりを人魂のように揺らしながら、一機のロードレーサーが走っている。
 
『ああ、眠い!寒い!!やっぱしこんなアホな事はするもんじゃねえな!!』
 
他に誰か居ないものかと辺りを見渡しても、やっぱり眠っていないのは私のような変態と、凍るように寒い夜空に浮かぶ丸い月だけのようだった。
 
急峻な山の斜面に開かれた温泉街。石段に寄り添うように立ち並ぶ、温泉宿やお土産屋さんを覗きながら行き交う観光客たち。
 
ここは上州三名泉のひとつ、伊香保温泉である。東京から160kmくらいしかなく、自転車趣味には最適な距離なのだが、私は今にも死にそうなクソジジイのように、フラフラとよろけながら石段を上っていた。
 
以前の私であれば、『この程度の距離でへたばるなんて情けねえ!若い頃はママチャリで普通に来てたじゃねえか!!修行が足りぬ!!!』とかいって、身体がなまりきった自分を奮い立たせていたであろう。
 
・・しかし今となってはそう思わない。
 
『俺はまた<自転車趣味>を行使してしまった・・今年に入ってもう二度目だ、本当にどうしようもないカスだ。こんな愚かで腐った行為をしてしまうのは、俺の頭ん中にたんまりとチンのカスがつまってて、それがどえらい悪臭を放っているからに違いない・・。』
 
基本的に人間は地球のガン細胞なので、やることなすこと全てが母なる星、地球を滅ぼす結果につながる。それなら何もしなければ良いのに、<自転車趣味>などという愚かな行為で<人生の時間つぶし>をしてしまうのは、それこそ生物としての修行が足りないからなのだ。
 
伊香保の日帰り温泉の大広間で寝転んでいたら、ふと昨日(3月11日)で東日本大震災から6年経ったということを思い出した。
昨日は一日中、寝転び続けて何もしなかったので、すっかり忘れていたのだった。
 
私は頭がとても悪いので、何らかの特別な日ってヤツを覚えておくことができない。そもそも<特別な日>というものが必要なのは、人間が非常に忘れっぽいからなのだろう。
 
 
つまり人は<特別な日>を覚えていたとしても、それから何かを学ぶ訳でもなく、分かったようなフリをするだけなのだ。人間の歴史とは<人間は何も学ばない>と言うことを教えてくれるものだ。
 
 
私は6年前に大地震が起こった日を忘れてしまうし、あの大惨事で居なくなってしまった人たちを悼むという、優しい心を持たない冷たい人間である。
 
つまり人間のクズとは、私のような者の事を言うのだ。
 
ただ、そんなゴミカスである私に出来ることと言えば・・。
 
私は、高崎のとある公園にやってきた。
ここには、3.11に起こった大地震による原発事故から学んで、危険な原発を無くそうと思う人たちが集結していた。
 
ネット上で群馬県は『未開の地グンマ-』とか、ものすごい言い方をされているようだが、現実には意外とマトモな人たちが居るものだ。(※自転車で山を登ることばかり夢中になるバカは除外)
 
『今日は1500人は集まってます!』と主催者の方の嬉しそうな声が公園の広場に響き、私は思わずズッコケそうになった。
自転車で群馬県の山を登るイベントには何千人も集結するというのに。
 
・・まあ、こんなもんだ。これが人間という生き物である。
大抵の人間は『権威』にひれ伏し、目の前の楽しさばかり優先し、周りに合せて行動するだけの個体であり、自分で状況を把握し、本当は今何をなすべきか考えて行動する事が出来るマトモな個体はごくわずかである。
 
 
日本の場合は特に国民の家畜化が進んでおり、『自分たちを苦しめる権力者の言いなりになり、それに反する者を叩く』という、かなり素晴らしいレベルに達している。つーか、家畜だってこれほど酷くはない。
 
日本人にはすでに遺伝子レベルで『家畜以下の家畜』が組み込まれているため、もうダメだし、私たちに待っているのは圧倒的破滅である。
 
私は悩み続ける。日本人はこの地球に生きる価値もない、破滅的な情けない生物に成り下がった。こんな国の未来を守ることに何の意味があるというのだろう。
 
いいや、何もしなければさらなる悲惨な破滅を招く。
どうしたらよいのかと悩み、答えを探し続けなければ、堕落するだけなのだ、人間という生き物は。
 
だから今の私に出来ることは、原発事故が起こったということを忘れず、例え無意味だと分かっていたとしても、私たちや子孫の未来を守るために行動し続けるということなのだ。
いや、私が私らしくあるために・・だな。
 
デモ隊は『子どもたちのために原発を無くして未来を残せ!』と声を張り上げて、高崎の街へと繰り出していった。
 
 
3月19日
東北の被災地を一泊二日で巡ってきたバスが、宮城県女川のとある港に到着した。
 
『途中に見えた不気味な煙突、原発かなあ。例え復興してもアレがまた爆発したら何の意味も無い・・。
 
作業着を装着した私は、15人ほどの参加者と共にバスを降りた。今回は養殖に使う土嚢袋を作る作業を行うそうである。
 
復興とは、一度衰えたものが再び元の盛んな状態に戻ること。という意味なのだが・・もともと、過疎だった場所が大きな被害を受け、住民が他所の場所へ避難してしまった後も『元の状況に戻る』事が出来るのだろうか。
 
果たして、復興支援に意味などあるのだろうか。
この世に居なくなってしまった人たちを悼むという、人間らしい優しい心を持たない、私ごときゴミカスが、この地に足を踏み入れてよいのだろうか。
 
 
あれこれ考えてみたが、今のところ私の出した結論は『何をやっても無意味だけど、何とかするべき現実に対して何もしないのは、さらなる無意味である』ということであった。
 
これだって間違っているかもしれない。でもいい。
 
いつもどんなときも、何をしたらいいのかと考え、行動し続ける日々が、私が私らしく生きるための答えになるのだから。
 
被災地でお土産を買いあさって経済的に支援をし、一生懸命生きている地元の方に寄り添うことくらいなら、私にも出来そうだ。
 
私はスコップを持ち、熱心に土嚢袋に砂利を入れて入れて入れまくり、依頼人を呆れさせるくらいに動いた。
 
今の俺に出来るのはこれくらいしかねぇ・・。
 
 
昼飯をみんなで食って、いよいよお別れの時である。
立ち去っていく私たちのバスに『支援に来てくれてありがとう!』と地元の方がニッコリと笑って手を振っていた。
 
こちらも手を振り返すのだが、そんな彼らの姿を見ていると、何だか、どこかの暖かく穏やかな海をぷかぷか浮かんでいるみたいに、私の心は安らぐのであった。
 
 
今回のエンディングテーマ『どんなときも』
 
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