パーフェクトワールド!の巻 | クレイジートラベラー!!~ロードレーサーで行く変態旅行記~

パーフェクトワールド!の巻

 

7月15日

愛機の入ったリンコー袋を担いでホームに降り立つと、まるで東京からやって来た旅人を出迎えてくれているかのように、大湊湾が朝日に煌めいているのが見え、私は思わず目を細めた。

 
『おはよう!・・一年ぶりだね。』

 

とか思っていると、沖の方では何隻か自衛隊の護衛艦が浮かび、碧い海に黒い影を落としている。
 
・・結局、あの艦はどこの国の、何を護衛するためのものなんだろうな。
 
『統一指揮権密約』とか言うヤツで、実は自衛隊は米軍の指揮下にあるそうだ。
これは相当エラいことなのだが・・まあ、この国においてマトモだと思えるのは、治安が良いことと、飯が美味いことだけだから(・・汚染物質とか食の安全という話は置いておいて)・・どうでもいいや。
 
私は海が見えるホームにくるりと背を向け、学生さんで溢れかえった駅舎を抜けて、去年と同じくホテルしか無い殺風景な駅前に出ると、愛機の組み立てを始める。

 

『てっぺんの終着駅 大湊駅』と彫られた木製の駅名板をバックに、写真を撮っていると、さっきまでワラワラ居た学生さんがバスに乗って、どんどん出発していく。

 

それでは、そろそろ私も出発しよう。

ピンク色のロードレーサー<クレイジィ・エンジェル>が、本州最北の地を目指して紺碧の空の下を激走ー・・しない。

 

 

とりあえず、日が沈む前に到着すりゃいいかぁ。と思いながら、海岸線すれすれの道を。そして山間の坂道をのんびりと時間が経つのも気にせずに上っていく。
 
途中、私のような自転車に乗ったカスに遭遇することなく、快適に走行していると、ちょうど峠道の頂上でそういった方面のお方と出くわしてしまい、一気にテンションが下がった。
 
 
基本的に『自転車趣味』や『自転車移動』などの行為を繰り返してばかりいる輩はバカである。
 
『賢いけど、気まぐれにバカなこともする』のならまだいいが、そうではなく、『愚かだからバカなこと繰り返す』だけの哀れな生き物なのだ。
 
私は顔を引きつらせて、とりあえず手を振ると、相手も手を振り返してきた。
もしかしたら相手も『うわっ!俺みたいにチャリに乗ったバカがいやがる!とりあえず手でも振っとこう・・。』と思ったのかも知れない。
 
大間に入ると、いよいよ海岸線に建設中の不気味な建物が見えてきた。
 
『フン・・人間の顔と同じで、汚ねえモノはそれなりのおぞましいオーラを出すもんだな。』
 
私は顔を歪めて、極悪政治家のような汚ねえ笑みを浮かべた。
今眺めているソレは、『大間原発』である。
 
 
北朝鮮からミサイルが飛んでくるからヤベえとか言いながら、標的にされるとヤバい原発を作るって、一体どういうことなのか?
もしかして、わざと標的となるモノを作ってんのか?
 
しかも世界で初めて、世界で一番危険なプルトニウムを燃料として使う設計になっている、この大間原発をだ!頭が悪すぎる!!
 
・・なぜ、こんなクソみたいなことになっているのかって?
 
そりゃこの国には事実上、主権が無くて、『国民に内緒でこっそり結んだ条約で、宗主国アメリカ様の言いなりになっており、さらにその事実を隠し続けるから』なのだ。
 
だから政治家や役人は売国奴ばかりで、日本のために働くわけないし、日本の富を他所の国に流しちゃうし、宗主国様に他国の脅威を煽られて、何の役に立たねえ迎撃ミサイルシステムとか、よく落ちる変なヘリコプターとか買っちゃうし。
 
本当に売国奴や、日本人じゃ無い方々のやりたい放題になっている。
まあ、自分から他国の奴隷に成り下がってるんだもんね、しょうも無い。
 
おまけに、国民は権力の奴隷に成り下がるヤツや、マラソンやら自転車趣味みたいな、どうでもいいことばかり夢中になる情けないヤツばっかだし。
 
これでは隣国とかにもバカにされて当たり前だな。
日本人は哀れなゴイム・・ハハハッ♪
 
 
もしかしたら、グローバルな原子力マフィアのために、原発による放射能汚染で人が住めないように仕組んで、日本列島を世界中の核のゴミ捨て場にしてあげるという噂話は、本当なのかも知れないな。
だから、わざと北朝鮮から近い日本海側に原発をずらっと並べたり、巨大な活断層の近くにある原発を再稼働したりしているんじゃないのか?
 
また、やたらと原発を推進したり戦争をしたがるヤツが居るのだが、本当に愛国心なるものがあるのなら、もう滅び行くこの国に、さらなる破滅を強いるようなことをするのは止めた方がよいと思う。
                                                                      そもそも、自分の国を守るための軍隊の指揮権も無く、攻撃されたら一発でおしまいの原発を54基も抱えて居る時点で負けているのだ。
最大の弱点である原発を爆破されたら、収束作業に追われて戦争どころじゃ無いだろ。
 
つまり俺たちは何としてでも、原発を無くして戦争を避ける方法を見つけるしか、生きる道は無いんじゃないかぁ・・とは思うのだが。
まあ、どうせこの国は滅ぶからどうでもいいけどね。
 
私は、去年と同じように大間崎にやってきた。
・・ここに来るのは何度目だろうな。東京からチャリで自走で来たのは二回しか無いけど。そして、青森のバカ姉妹と出会った思い出の場所でもある。
 
まぐろ一本釣りを表現したモニュメントの向こうでは、やがてはこの地を破滅に追いやる、悪魔の施設が着々と完成しつつある事を知らないかのように、静かな海が広がっていた。
 
 
本州最北のお土産屋さんで、ピンク色のお派手なご当地Tシャツをゲットし、食堂で大間まぐろの丼を食した私は、さらに別のところでマグロの焼いたヤツを食らい、大間で採れたという、タコの一夜干しを食らっていた。もう満腹だが、まだ食うつもりである。
とりあえず現地で何かを消費して、経済的に少しでも潤すことが目的なのだ♪
だって、ここには原発に頼るしかない町になって欲しくないからね。
 
 
『そこのピンクのお兄さん!ピンクが似合ってるね!ところで、どこから来たの?』
 
次の美味いモノを求めてふらついていたところを、地元の人に話かけられた私は、頭上に広がる空のように晴れ晴れとした顔で答えた。
 
『明日行われる、大間原発に反対する集会に参加するために、鉄道とチャリで東京から来たんですよ!』
 
翌日、7月16日
昨日と打って変わって、そぼ降る雨の中を続々と会場に集まってくる人たちを見て、私は思った。
 
『いやぁ・・よくやるもんだなぁ。』
 
原発に反対する集会など面白くも何ともないし、できればこんなことはやりたくないものだ。少なくとも、私は家でゴロ寝しながらエロ本読んで屁でもこいて居たい。
 
私はこの世の全てが『どうでもいい』のだ。本当に心の底からどうでもいい。
いよいよ、この国が破滅すると言う、小学生の時から分かっていたことが、めでたく実現するだけの話である。
 
原発は無くならねえし、共謀罪も成立したし、もう確実な終焉がやってくる。
 
うむ、俺の人生には何の意味も価値も無かった・・いや、そもそも人間の行う全ての営みが無意味。俺は徹底的に性格が最悪であり、息もケツから放たれる屁も超臭えし、頭バカだし、ハゲてるしマジで生きる価値も無い人間のカスだが、人間自体が無意味なのだから、これまた無意味。
 
私の心を暗雲のように覆っていた、悩みやら不安やら全て無意味!!
バカでも天才でも意味なし!金持ちでもビンボーでも関係なし!!
めんどくせえ全ての事柄や、ありもしない幸福だの追い求める必要も無し!!
 
何コレやべえ!超絶楽ちんじゃん!!
 
 
これが分かるようになると、心がほんわかとヘリウムのごとく軽くなり、不自由な人の形をした自分の器がパカーッと割れて、ふんわりと『本体』が浮き出てきて、どこか別の時空にある世界へ辿り着いたみたいに、この世の全てを超越した『無』になって、何だか心がとても自由で安らかになるのだ。
 
何も無い、そして何もいらない。
これすなわち、『全てがある』ということ。
 
つまり、俺だけのクソ変態パーフェクトワールドへウエルカムだぜ!!
この野郎!!
 
・・みたいな感じになってしまうのだ。
だが、果たしてこれでよいのだろうか?
 
『クソなモノには、クソだ!とハッキリ訴え続けなきゃならねえ!!だから俺は、原発はクソだ!いらねえと言い続けてやる!!』
 
福島の浪江からやってきたラッパーの方の怒りの声が、雨の降る会場に響いた。彼の故郷は、原発事故によって汚染されてしまったのだ。
 
そうだな、クソなモノはクソだ!!
幸も不幸も、何も関知しなくなる便利な心を持っても、現実によくないモノが無くなる訳ではない。何も変わらない。
これは・・ただの現実逃避だ。
 
私が辿りついた『パーフェクトワールド』は、現実逃避という名の病の中でも一番最悪なヤツである。そもそもこれは、私が最も忌み嫌うモノだったはずだ。
 
いつも、『チャリだのマラソンだの食い物だのばっか夢中になって、現実逃避してるんじゃねえよクズども!!』とか言ってる自分自身が、そんなクズになって、どうするんだ?
 
私は会場のみんなと一緒に、威勢よくシュプレヒコールを上げる。
 
『大間原発建設反対!原発作らず、未来を作れ!!』
 
 
さぁて!そろそろ、この土砂降りの中をデモ行進する時間のようだ。
今年中に建設中止になってくれよな!マジで!!
去年も雨だったし、来年もデモなんぞに参加するのは嫌だぞ!!
 
デモが終わり、ずぶ濡れになった服を着替えて、フェリー乗り場で待機していると、雨雲が割れて青空が覗くようになった。
 
『フッ・・今さら遅えよ。』
 
まあ、どうやら雨の北海道にならなそうで良かった。
ところで、これから向かう函館市は、大間原発の建設差し止め訴訟を起こしているのだ。
んじゃあ、大量に土産でも買って応援しなくっちゃな!会社の人や友達に配れば喜ばれるし、一石二鳥!!
私は、愛機と一緒に意気揚々とフェリーに乗り込んだ。
 
翌日、7月17日
私はまたフェリーに乗って青森市に上陸し、青森のバカ姉妹と再会しておった。
 
『おめー、最近はチャリで青森に来なくなったなー!』
 
リンコーでしか青森に来なくなった私をヘタレとなじるバカ姉妹であったが、ちょっと待てや。
 
東京から青森まで700km以上もあるんだぞ!!
 
確かに以前は、しょっちゅう青森までチャリで自走でやって来てたけど、あのときの俺は、頭がちょっとおかしかったのだ。
 
『走ってばっかいてもつまんねーっつーの!チャリで走る距離なんかに何の価値も無いわ(笑)』
 
チャリで走り回るなどの行為は、はっきり言ってガキがやることだ。
大人には大人のやるべき事がある。
つーか、つい最近までガキみたいな事ばっかやってた俺って、一体・・。
 
ちなみに、バカ姉妹の姉貴の方は結婚しちゃったそうである。
なおのこと、自転車趣味などばかり夢中になっているわけにはいかねえな。
日本は原発と戦争で破滅するけど、これからの姉貴の人生が良くなる可能性を少しでも高めるために、これからも行動し続けなくてはならにゃいな。
 
新青森の改札口の外側で私に手を振る、バカ姉妹にさよならの手を振り、私は東京に戻るのだった。
 
趣味などという、単なる<楽しみ>など、どうでもいい。
 
本当に必要な事を必要な分だけやるだけだ・・自分の出来る範囲でな。
 
7月22日
私のピンク色の愛機<クレイジィ・エンジェル>が、荒川サイクリングロードをちんたらと走る。
 
『自転車はいつでも止まれる速度で!』と書かれた看板があるからと言うわけでは無く、単純に速く走るのがめんどくさいし、その意味を感じないのだ。
 
ゆっくりいけ、じっくりやれ、チャリに乗れ!
 
何だか、おぼっちゃま君みたいだが、これが今の私にはちょうど良い。
 
葛西臨海公園に到着すると、人工なぎさで、ゴミ拾いのイベントに参加する。
未来を生きる全ての生物が、今よりはよい生活を送れる可能性を高めるために。ま・・正直、あまり意味があるとは思えないがね。
 
すまないな。俺の悪い頭では、このくらいしか思いつかないんだ。
つーか、これ以上は面倒くさいのだ。
 
だがこうしていると、あの『パーフェクトワールド』に居たときと同じくらい、心が安らかになるのだ。
 
ゴミを拾う私たちの向こうでは、東京湾の汚れた海がきらきらと輝いている。
まるで、もっとどうしようもなく汚れた私たち人間を、その広い心で優しく慈しむかのように。