kyupinの日記 気が向けば更新 -845ページ目

精神疾患と生命保険について(その1)

精神疾患のため入院をした場合、入院期間に応じて1日あたりいくらという感じで保険金がおりる。これは当然のことなのであるが、ずっと以前はそうではなかった。1985~1986年頃は、生命保険で支払われる病名で精神疾患は除外疾患になっていた。当時ようやく、疾患対象によっては支払われるようになっていたような状況で、例えば「うつ病」だと支払われないが、「抑うつ神経症」なら支払われていたような記憶がある。


支払われない理由だが生命保険の言い分は、「精神疾患は遺伝病だから」ぐらいだったと思う。つまり、その素因を持たない人に比べ、元から素因を持つ人に支払うのは公平を欠くという見解だった。かなり変な理由ではあった。なぜならその当時既に、すべての病気は遺伝子に由来するという考えが浸透し始めていたからだ。上で、抑うつ神経症なら支払われるが、うつ病ならダメという考え方も、統合失調症とうつ病は内因性精神病であり、それに比べ抑うつ神経症は環境や後天的な要素が大きいと判断されたからあろう。


その後日本にバブル期が訪れ(1986~1990年)、土地、株などの値上がりで生命保険会社が大変儲かった時期がある。含み資産が膨大になり、生命保険会社の経営はかなり余裕があった。当時、日本精神病院協会などが生命保険会社に働きかけて、精神疾患でも保険金が受けられるようにしてもらったという。(という話。細かいところは自信なし) その後、デフレなど予想もしないような経済的苦境に日本経済は陥ったので、本当に良い時期にルールを変更してもらったと言えた。生命保険会社がいくつか潰れるような不況が長期間に続いたから。


生命保険会社が精神疾患に対し保険を支払い始めてからも、規定があって支払われない疾患があった。それは、覚醒剤、麻薬による後遺障害などの精神疾患と、アルコール依存症である。これは、明らかに本人の落ち度があると考えられる疾患であり、麻薬・覚醒剤にかかわるものは現在でも支払われない。これは当然といえる。しかし、アルコール依存症は比較的長く例外になっていたが次第に考え方が変わり、近年では支払われるようになっているらしい。(実は当院はアルコール依存症は扱わない方針で、そんな人が入院することがなく、僕はアルコール依存症の生命保険金診断書を書いたことがないのだ)


支払われない理由の本人の落ち度だが、アルコール依存症の場合、一概に本人の落ち度のみといえない面がある。まあ、ある程度、依存症の要素があるにしても、アルコール依存症の人はうつ状態などをしばしば合併しているので、それをメインに書けば診断書としては良いような気がする。紆余曲折を経て、統合失調症とうつ病の2大疾患は保険金を受けられるようになったのである。



アモキサンとルジオミール

ずっと以前の話だが、そうね1990年頃は、抗うつ剤の売り上げはアモキサンとルジオミールが双璧だった。不思議なことに、東日本ではアモキサン、西日本ではルジオミールがトップであり、地域で使われ方の違いが見られた。僕は当時、もっぱらアホみたいにルジオミールばかり使っていた。ルジオミールの欠点は、眠くなることである。4環系なので、トリプタノールやトフラニールより概ね副作用は少ない。効果はなかなかのもので、ルジオミールで決着がつく確率は高かった。僕は最高225mgくらいまで使ったが、だいたい150mgを上限にしていた。ルジオミール150mgで決着がつかない場合、その患者さんのうつ状態は手ごわいと感じた。ルジオミールでうまくいかない場合、どうするかと言うと、たいていアナフラニールやトフラニールかトリプタノール等に変更したが、トリプタノールは最強の抗うつ剤という意識はあった。実際、現在でもトリプタノールは最強の抗うつ剤である。(と思う)


当時、トリプタノールをガンガン使うにも、副作用のため処方し辛い面があったので、実用上はルジオミールが最高の抗うつ剤と言えた。ルジオミールでやや危険な副作用は、痙攣発作である。痙攣発作は、抗うつ剤全般にありうる副作用であるが、ルジオミールは、添付書なども注意を喚起してあるほどで、やや他の抗うつ剤より確率が高い。それでも、今まであれほどの処方歴があるのにもかかわらず、痙攣発作が出現したのは2回(2人)だけだ。特に近年では、SSRIの処方が断然増えたので、ルジオミール自体の処方がかなり減っているために、なおさらお目にかからない。あるとき、ある婦人に痙攣の副作用が生じたが、たった65mgだった。量はたぶん依存すると思うが、少なければ安全というものでもなさそうなのである。その後、アモキサンを頻繁に処方する時期があり、現在では、この2つの抗うつ剤は力量はあまりかわらないと思うようになった。この2つの抗うつ剤は、極めて優れた、悔いのない抗うつ剤なのである。アモキサンは、25mgカプセル(赤、白のツートン)、50mg(白のやや大きめのカプセル)を使用している。現在では、アモキサンの処方がルジオミールより断然多い。なぜかというと、ややアモキサンの方が、眠さとかの面で使いやすいことによる。長く処方していれば、アモキサンの方がやや切れ味が鋭いような感覚がある。それと比較的、効果の発現が早い。アモキサンは300mgくらいまで処方できるが、僕はそこまでは頑張らないことが多い。だいたい多くても150~200mgまで処方してうまく行かない時は諦める。その後にルジオミールを処方するかと言えば、そうはならなくて、たいていアナフラニールの点滴をしたり、トリプタノール錠に変更している。


アモキサンはやや難しい薬物で、飲めない人は全然飲めない。なんだかわからない書き方だけど、元の症状が悪くなったような、焦燥感を交えた非常に苦しい状況に陥ることがあるのだ。アモキサンは、抗精神病薬のような抗ドパミン作用をあわせ持つが、診療上、そういう風に感じることはあまりない。が、老人(特に女性)に処方すると、ジスキネジアなどが生じることがあるので、やはりそういう面もあるんだろうね。今更、こんな薬物についてこんな風に書くのはちょっと時代おくれじゃないのか?と思う人もいるかもしれない。しかし現在でも、こんな古い薬でしか良くならない人があんがい多いのだ。精神科の業界では、うつ病ないしうつ状態はよく遭遇する病態であり、しかも最も良く治るのである。うまく行かない人は、他の疾患が混じっているか、治療が徹底して行われていないためだ。僕は友人が何人かクリニックなどで開業しており、どうしても良くならない患者さんの紹介を受けることが多い。なぜ、僕に紹介するかというと、最終的になんとかなることが多いからだ。あと、僕は電撃療法の選択肢もあるため、その治療を具体的に指定して紹介を受ける場合もある。


僕に紹介があった時のパターンだが、パキシル40mgぐらい使ってほとんど良くなっていないと言うのが多い。(というか、パキシル40mgで良くなるくらいなら、最初からうちには来ない)あるいは、3環系あるいは4環系の抗うつ剤がそこそこ使われていてうまくいっていない場合もある。そんなこともあり、僕は、SSRIでうまくいかない患者さんを治療する機会が多い。あと、最初に当院に来たような初診の患者さんで、明らかにアモキサンで良くなるようなタイプの人には最初から使うこともある。SSRIだと時間がかかるし、結局ダメな時、2度手間になるためだ。時間がかかって、なおかつ良くならない場合、患者さんの失望が大きい。若い患者で自殺の恐れがある場合、SSRIだと、鬱がたいして良くなっていないわりに焦燥感を煽ってしまうようなケースもあって、最初からSSRIでの治療が向かないこともある。SSRIは副作用が少ないから良いと単純にはいえない。口渇、尿閉、便秘とか誰にもわかるようなはっきりした副作用が少ないだけで、一見わかりにくい副作用というか、有害作用が潜在的にある。最後にこんなことを言うのは変だけど、当院での最も処方件数が多い抗うつ剤はパキシルなのである。


エビリファイ(その2)

エビリファイという薬、何が良いかというと、従来の非定型抗精神病薬に比べ体重が増えないこと。それどころか、体重がむしろ減るらしい。うまくフィットすると、10kgくらいさっと減ってしまうなんてことも。このあたりが、現代的抗精神病薬という感じでしょ。


しかし、まだ日本では発売してから1ヶ月程度なので、そんな実感は今のところない。まあ使う側からだけどね。体重に関しては従来の非定型抗精神病薬4剤(リスパダール、ジプレキサ、セロクエル、ルーラン)ではルーラン以外は体重が増加してしまう。ルーランのみ体重に関してはほぼ中立。エビリファイはもう30名近く使う機会があったが、今のところはまだこれと言った感触はない。表情が良くなる、というか目がはっきりするような人はわりと本人の実感も良いみたい。朝起きてからの気分がかなり良いんだそうだ。その人はかなり長く閉鎖病棟にいたんだが、最近久しぶりに開放病棟に転棟した。


しかしな~

陽性症状への効果はその人でさえ、いまいちなんだよね。陽性症状と言っても、幻覚妄想だけでなくて、恐怖感とかそんなのも含むので、広義の陽性症状も改善はしているんだろうけど。エビリファイを使ってみるのは良いが脱落しすぎ。なんだかんだで、3分の1は中止になってしまっている。まぁ中止するほどには及ばないケースでもやめたこともあったけどね。


看護学校

看護学校に教えに行っていたのだが、やっと終わった。あとは試験を出してとりあえず今年は終了。「精神疾患」を教えるならまだ良いよ。科目が精神保健なので最悪。これって、精神科というよりどちらかというと公衆衛生に近いし。日本の自殺数の推移とか、近年、熟年層の離婚が多いとか、全然関係ないじゃん。


「いじめ」は中学校で最も多いのです。決して小学校の高学年ではありません。これは試験のヤマですw 無理すれば関係なくはないけど、少なくとも教えるほどは知らんぞ。こういう科目は皆したくはないので、いったん受けたら最期、替わってくれる人がいない。以前、お世話になった先生から頼まれたので、断るに断れなかったのだ。


今春のの看護師国家試験をみた感想なんだが、わりあい精神科関係の問題は出題されていると思った。ただ精神疾患と精神看護の部分が多くて、「精神保健」の部分は出題も少ないし、ちょっと意地悪な問題が多くて、勉強していても報われないと感じた。全く答えがないようなありえない問題もあって、何を考えて出題しているのやら・・僕が教えていたクラスは2年生なので、卒業まではまだ1年半もある。彼女たちは、結局はまた直前に受験勉強をしなおさないといけないんでしょうなぁ・・これは今年の出題ではないんだけど、例えばこんな風な問題が出る。これはいかにも精神保健的で、しかも精神科にふさわしい問題といえる。


問題 迫害妄想のある精神科病棟入院中の患者。人権擁護に関する行政機関に電話をかけようとしている。看護師の対応で最も適切なものはどれか?


1、電話で話しているうちに興奮する恐れがあることを説明し制止する。
2、看護師が患者に代わって電話をかけて担当者に説明する。
3、担当医師に連絡し、電話をやめるように話してもらう。
4、電話については介入せずに患者のその後の経過を観察する。

セレネースとトロペロンのアンプル

抗精神病薬の注射剤では、持続性抗精神病薬以外は、セレネース、トロペロン、コントミン、レボトミンを置いている。この4剤の使用頻度では、レボトミンが最も低い。セレネースとトロペロンは共にブチロフェノン系のカテゴリーに入る薬物だが、セレネースのアンプルが5mgなのに比べ、トロペロンは4mgである。力価的には、トロペロンが少し高いため(1:1.3)、この2つのアンプルはほぼ同程度の効果のように作られていると言える。カテゴリーも構造式も似ているの、どちらか1つで良いじゃんと思うかもしれないが、トロペロンがないと、それはちょっと困る。なぜなら、うちの病院(というか、僕の処方なのだが)では、静注または筋注する頻度は、セレネースよりトロペロンの方がやや多いくらいだからだ。

量的には、1日量では0.5~6Aくらいだが、さすがに6Aは滅多にない。(僕は1日量としては、やはり3Aまでが多い) トロペロンは僕が26歳になるまでほとんど使ったことがなかった。ある病院で仕事をしていた時に、セレネース5Aしても全然良くならないので、部長にどうしたら良いか聞いたことがあった。トロペロンを4Aしてみたら? と言われた。結果だけど、トロペロンが全然良かった。同じように見えても違うのである。それ以降、選択肢としてトロペロン静注または筋注はわりとするようになった。副作用については、セレネースとあまり変わらない。欠点はトロペロンはセレネースより1Aの量(ml数)が多いのだ。アンプル数次第では筋注しにくい。あと薬価が意外に高いこと。トロペロンの錠剤もそうだけど、随分前からある古い薬なのになぜか薬価が高い。

去年ぐらいに病院内でトロペロンが不足して、しかも卸にも在庫がないことがあった。こういった場合、他の病院から融通してもらうことがある。しかし、トロペロン(アンプル)自体を置いてない病院があるんだな。そんなことを初めて知った。ちょっと驚きだった。僕は幻覚妄想などの陽性症状に対しトロペロンを3Aして、なおかつ全然改善する気配が無い時、これはかなり手ごわいと感じる。そんな人なんて、あまりないだろうと思うかもしれないが、それが案外そんな事態に遭遇するのだ。まぁ、非定型抗精神病薬で一発で片付く人は、それはそれですごく幸せなことだったり。なぜかというと副作用で悩むことが旧来の薬より少ないから。