弁護士とバブル | 知らなきゃ損する!弁護士の選び方・使い方blogーLawyers Watchー

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法律関係の職場で働いたことがある筆者が、弁護士さんから聞いた話を中心に法曹界の実情を書いていきます。法律の基本的な知識を得たり、弁護士事務所の使い方・選び方の参考にして下さい。

 弁護士は、仕事の量と景気があまり影響しない職業です。逆に、景気が良いからと言って、仕事の量が増える訳でもないので、限られたパイを取り合う構造になっています。昨今は、弁護士人口が増加しているので、弁護士一人一人の景気は悪くなっているようですが…

 なぜ、景気に左右されないかというと、景気が良いときは新規事業を興すための相談など前向きな仕事が増えますし、景気が悪い時は、取引に関する仕事は減るものの、その分離婚や破産などの仕事が増えるからです。




 そういう訳で、弁護士業界は、比較的安定しているのですが、弁護士業界にもバブルが来た時があります。それは、平成18年頃からの過払金バブルです。少し前に、「払いすぎたお金が戻ってくるかも知れません」というフレーズで、よくCMや広告などを見かけたことはありませんか。ご存じの方も多いかと思います。



 一応、解説しておくと、

 過払金請求とは、借金を長年返済していた場合などに、借入金の返済は本来終わっていたのに、返済し続けているときがあり、返済しすぎた部分の返還を請求することができることです。これは、完済の人だけでなく、現に返済中の人でも請求できます。

 なぜ、このようなことになるかというと、借入金の返済は、本来は元金+利息制限法所定の利息分で良いのに、消費者金融業者は、元金+利息制限法より高い利息(出資法所定の利息)で請求するために、出資法所定の利息と利息制限法所定の利息の差額等を返済しすぎているからです。


 さて、この過払金請求訴訟によって、弁護士業界は平成18年頃から昨年頃までバブルでした。もしかすると、司法書士ももっと儲けているかもしれません。過払金請求訴訟によって、数千万~数億円の貯蓄を貯めた人もいるそうです。羨ましい限りですね(笑)


 では、なぜ過払金請求訴訟がバブルを巻き起こしたのでしょうか。その構造を分析したいと思います。




①判例による整備


 平成16年から18年にかけて、最高裁は、本来の利息は利息制限法所定の利息であるという判断をしました。これを皮切りに、取引履歴の開示、消滅時効の判断、過払金請求の場合の利息(悪意の受益者)など、法律上の問題点について、借主に有利な判断が立て続けになされました。このような、判例の形成が、過払金バブルを促進した主たる要因であることは間違いありません。




②定型的な処理が可能な、比較的に簡単な訴訟類型であること


 過払金請求訴訟は、上記判例により主たる法律上の問題点は解決されており、また訴状も、引開始時、返済期間・返済額等の数字が分かれば容易に作成でき、訴訟追行も比較的容易です(この点の理解が誤っていることは後述。)。過払金請求訴訟の元となる消費者金融業者との金銭消費貸借契約も、約款に則ったものです。このような理由から、過払金請求訴訟は、定型的な処理が可能で、従った簡単な訴訟類型と言えます。だからこそ、弁護士や司法書士が、手間暇をかけずに依頼料を得られる手段となり、過払金請求訴訟を受任しようとCMや広告で呼びかけた結果、過払金バブルはより一層拍車がかかったのです。




③事務員に任すことができる


 上記のように、訴状が容易に作成できるので、事案の聞きとり及び訴状作成を事務員に任せることが出来ます。無資格者である事務員を、有資格者に比べて安く雇い、大量に処理させることで、バブルと言えるだけの収益を上げることができたのです。




④相手方が大企業である


 過払金請求訴訟の相手方は、プロミスやアコム等の大手消費者金融会社でした。このような大企業では、法律と判例のロジックに従った和解に早急に応じ、又は勝訴判決に素直に従います。さらに、取りっぱぐれもありません。過払金バブルは、勝訴判決を得ても、執行が不奏功に終わり現実には金銭を得られないというリスクがなく、早急な解決が望めることに支えられています。





 以上を分析すると、弁護士業界にとってバブルとなりうる業務分野は、

①法律や判例によって、主たる争点が解決されていること

②定型的な処理が可能であること

③相手方が、大企業であること 


 ということになります。

 次に、バブルを生むのは、どのような業務分野になるのでしょうか。






 ところで、一つだけ注意点があります。

 借主の立場になった場合、過払金請求訴訟は簡単だと即断していませんかということです。たしかに、比較的に定型的な処理が可能ではありますが、法律の問題というのは一つ一つの事案ごとに特徴があるものなのです。だからこそ、過払金請求訴訟といえども、誰に委任するかは、しっかり検討しなければなりません。

 本人訴訟はもちろん、司法書士と弁護士の違いは後日解説したいと思いますが、司法書士と異なり、弁護士は司法試験に合格し、1年~2年の研修を経た、まさしく法律のプロ中のプロです。どんなに簡単に思えても、法律のロジックをしっかり習得した弁護士の目からすれば、細かな部分で大きな差を生む問題点があることもあります。請求できる金額に差があることは勿論、場合によっては権利そのものを失うリスクもあるのです。

 しっかりとした弁護士に頼まないと、数十万円~数百万円を得られたはずなのに、失うかもしれないということは注意していて下さい。

 とある裁判官に聞いたところによると、裁判官の本音は、「過払金請求訴訟は訴状を出しておけば良いと考えている人が多いが、判断する側からするとそうではない。きちんと処理をしておけば、数十万円~数百万円という大金を失うことは無かったのに…当事者に可哀相な結果になってしまうことがある。」ということです。