はじまりはいつも唐突で、あっという間に底無し沼に嵌る。
落ちるのは一瞬なのに、抜け出すのはいつも時間がかかる。
もがいてあがいて、それらしき名前を見つける。それはノスタルジー。
しばらく浸ってみて、窒息しそうになりながら思う。時間は過ぎ去ってしまった。積み重ねた時間といえば聞こえはいいけど、こぼれ落ちた時間は戻らない。
真剣に向き合った人、苦しみに耐えて乗り越えた難、やっと手にした光。今ではもう、はるか遠くに霞がかかっている。
別々の人生を歩んで、交わることの無くなった人たち。ともに歩んだあの時は、夢?幻影?これから二度と会うこともない。あれほど近くにいたのに。
でも、過去で窒息はしない。何十倍も重くのしかかるのは、現在で。現実が戻ってくる。
先の見えない暗闇を進む。なにも見えない。一歩も進めない。踏み出せば地獄に堕ちそうで、闇をただ堕ちてゆく恐怖には耐えられない。「今」にしがみつこうとする。けど、「今」は手からこぼれ落ちてゆく。
明日が押し迫ってきている。今を消してゆく。
つかめない「今」という砂を、手から滑り落としながら、じっと手を見る。
やっと掴んだと思うと、またこうなってしまう。
もの悲しさの正体は結局わからないまま、ただただうずくまって、じっと待つ。