【読書の春 Special 2024】 | Wind Walker

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ネイティブアメリカンフルート奏者、Mark Akixaの日常と非日常

もはや何回目かわからない、読んだけどブログに書かなかったシリーズ。

 

ブログで取り上げる時は大体1000字くらいを目安にしているのですが、そんなに書くことが思い浮かばなかった子たちです。

 

いや、1000字なら無理すれば書けない分量ではないんですけど、無理をしないことが長く続けられる秘訣なのじゃないかと思っているのです。なにごとも。

 

 

 

『ほの暗い永久から出でて』 上橋菜穂子、津田篤太郎 2017年

 

文化人類学者で作家の上橋菜穂子さんと、上橋さんの母の肺がん治療を機に出会った聖路加国際病院の医師である津田篤太郎さんとの生と死についての往復書簡。

 

話題は「性」であったり、「AI」であったり、「直感」であったり。

 

「人生とは何か」という問いに答えは無いというか、生まれてから死ぬまでのすべてが人生なので一言で回答しうる答えがあるはずもなく、結局「人生とは何か」を語ろうとすると一見関係のないような話題の中でしか語ることができないということを再認識。

 

お二人とも博識で理知的なのは一緒ですが、男性と女性だからなのか文系と理系だからなのか思考タイプが異なっていて、両者の視点の違いが楽しめました。

 

 

 

 

 

『世界からバナナがなくなるまえに』 ロブ・ダン著 2017年 

 

そんな上橋菜穂子さんが『香君』のあとがきで紹介されていた本。

 

バナナ、じゃがいも、キャッサバ、カカオなどは生産効率を考えると単一種の大規模栽培になってしまいますが、単一種に依存すると害虫や病原体が広まったときに全滅して大規模な飢餓を引き起こす危険性があると警鐘を鳴らします。

 

人間の多様性は歴史上なかったほど認められるようになった現代ですけど、作物の多様性はかつてないほど疎かにされていることに気が付かされました。

 

これまでにどこでどのような危機が起こったのかとそれに立ち向かった科学者たちの物語は、初めて聞く話ばかりで面白かったです。

 

 

私たちにできるとても単純なことがある。まず食物を無駄にしないことだ。そして肉をあまり食べないことだ。本書の主題は作物だが、そもそも肉食は、動物の飼料となる植物に依存する。(略)肉食は菜食に比べ、ほぼつねに食物資源の浪費だと言える。(p.329)

 

 

 

 

 

『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』 万城目学著 2010年

 

かのこちゃんは小学一年生の女の子。マドレーヌ夫人はかのこちゃんの家で飼っている猫。

 

あらすじを書くのが難しい話なので解説から抜粋すると、「これは、豊かな感受性を持った、ちょっと風変わりな女の子が、日常生活のなかで、さまざまな驚き(ワンダー)や悲しみに出会っていく物語である。読みながら随所で笑いがふつふつとわき上がってくる。読んでいて、こんなに幸せな気分になれるお話はそうそうないだろう。」

 

まさにこの通りの、日常に潜む不思議を描いたお話でした。

 

猫であるマドレーヌ夫人は人間の言葉を理解しているのですが、かといってアニメのように人間と会話したりしないところがギリギリのリアリティーを保っていて良かったです。

 

解説を読んで、著者が実際に近所で犬と猫を飼っている家を見つけたことから着想を得たことが分かり、なぜかそこでまた感動(笑)

 

これは名作。文句なしにおすすめです。

 

 

 

 

 

『平家物語 犬王の巻』 古川日出男著 2017年

 

猿楽の家系に奇形児として生まれた犬王と、盲目の琵琶法師・友魚の物語。2022年にはアニメーション映画にもなりました。

 

 

 

私は先に映画を観たのですが、予告の時点で題材は面白そうと思ったものの楽曲がQueenのパクリに聞こえたので、なんとなく嫌な予感はしていました。

 

本編を観たら案の定、魅力に欠けた楽曲が足を引っぱる作品になっていましたね。アニメーションや世界観などは良かったんですけど。

 

型破りな表現で聴衆を熱狂させる音楽といえばロックなんでしょうけれども、現代の我々からすれば70年代テイストのロックはむしろ古臭く聞こえるわけで、斬新さを感じられなければ室町時代のパフォーマンスをわざわざ現代的にアップデートさせた意義を感じづらかったです。

 

今だったらヒップホップに寄せた方が題材的にもハマったんじゃないかという気はしました。

 

・・・という感じで音楽にケチをつけたくなる映画だったので原作も読んでみましたけど、犬王たちは音楽そのものよりもむしろ「知らざれる平家物語異譚」という話の内容で人々の関心を集めていたように思いました。

 

犬王という人物は実在して世阿弥と人気を二分するほどだったそうですが、どんな人物でどんな曲を作ったのかなどは、なにも残されていないとのこと。

 

つまり想像の余地に溢れているということなので、小説やアニメを観て自分なりの犬王を思い描くのが一番適した楽しみ方なのでしょうね。