日本の政治的根幹をなすところの民主主義は、言うまでもないことですが、自らの手で勝ち取ったものではありません。完膚なきまでに打ちのめされた惨めな敗戦によって、勝利国たるアメリカから無理やり押しつけられたものです。当のアメリカ自身ですら実践不可能な、理想的に過ぎるがゆえに矛盾だらけのこの政治思想を、わが国は強者の言うことならば何でも忠実に従うという特性を存分に発揮して、少なくとも大枠においてはかなりのレベルで維持してきました。

 だからといって、民主主義の何たるかをよくよく理解した上で消化吸収してきたわけではありません。旧ソ連に占領されていたならば、ほとんど模範的な、旧東ドイツをはるかに凌ぐ共産国家を形成していたことでしょう。つまり、国家体制の違いなどどうでもかまわないという無節操ぶりなのです。それはまた、とりもなおさず論理的な思考の著しい欠如ということにつながり、知性の有無について疑問視されかねない、とても残念な、とても恥ずかしいことでもあるのです。

 民主主義をしっかりと根付かせるべき精神の鍵は、国民のひとりひとりが完全に独立した一個の存在者たり得るかどうかにかかっています。それができなければ、日本という国は侮蔑の対象としてはまさにもってこいの事大主義に染め抜かれた、似非民主主義国家ということになってしまうでしょう。