日本が芯のほうから腐りはじめているという、使い古された一般的な批評は、かならずしも的を得
た言い回しではありません。国家の中枢をなす人々のみが腐っていて、結果としてかれらを支えている大衆が依然として健全であるという図式は到底あり得ないからです。だいいち悪に手を染めたくても利権からほど遠い立場にあるのだから否応なく善人でありつづけるしかないではないかという、そんなたぐいの理屈もあまりに短絡的に過ぎるでしょう。

 陋劣な愚民たる人々のささやかな欲からもたらされた、ほとんど笑って済まされる程度の、そんなことをいちいちあげつらうのは野暮の極みだと思えてしまうような小さな悪が寄せ集まって引き金となり、巨悪を培養し、ひいては救いがたい中心部の腐敗を差し招くことになるのです。要するに、元凶は我々庶民の側にあるということになります。

 だから、あなたの敵はというと、手の届かぬ高みにふん反り返っている連中だけではなく、あなたの周辺にいくらでもいる、吹けば飛ぶよ
な弱者としての、気のいい好人物たる隣人ということになるでしょう。また、あなた自身も、いつしか知らずあなたの敵にまわっているひとりということになるのかもしれません。腐敗と疲弊の無限連鎖を断ち切るには、まずはそうした現実に目覚めることから始めなければならないでしょう。