美しい日本などという腹黒い言い回しを駆使して、安っぽい自尊心を煽り、さんざんおだてあげ、誤った誇りを抱かせることで、民俗意識を過剰に高め、国家のためとあればいかなる命令にも従い、あげくに命まで捧げてしまうような国民の数を増やそうともくろむ悪党どもは、いつの時代においても絶えることがありません。
 その結果としての悲惨な敗戦を迎えてしまった直後は、さすがに地下に潜伏して鳴りをひそめているのですが、反省と後悔の数十年をやり過ごし、その戦争の後遺症がかなり薄れかけた頃になると、性懲りもなくふたたび台頭し、その手始めとして「美しい日本」という耳に響きのいい言葉を駆使して洗脳を始めてゆきます。まあ、これはかれらの常套手段なのでしょうが、しかし、幼稚な手口として侮ってはいけません。タイミングさえ合えば、これがけっこう大きな効果をもたらすのです。
 だから、常に心していなければなりません。つまり、かれらがさかんに言うところの美しさの意味をしっかりと読み解く必要があるのです。もし自然が美しいという意味で言っているのなら、正しくはありません。百歩譲っても、せいぜい世界の平均クラスといったところでしょう。それに今では、見かけはともかく、国中が隅々まで放射能で汚染されているのです。
 また、人間が美しいというのも、これまた真っ赤な嘘です。外見にしても、内面にしても、自分を持っていない、持とうとしない、横着で狡猾で小心な性根がまともに反映されており、ただ単にそれを誤魔化し、その場を取り繕うためだけの優しさや親切にいくら焦点を絞ってみたところで、その醜い本質はまる見えなのです。