オリンピックの招致決定にそれほどまでに狂喜乱舞する国民の神経はいったいどうなっているのでしょうか。心底から嬉しくてたまらないのでしょうか。果たしてそれがあなたの生活や人生にどのように反映されるというのでしょうか。大はしゃぎする理由は何でしょうか。素直に喜んでいるだけなのだという言葉の裏には、恐ろしいほどの空虚感が張りついているのではないでしょうか。
 つまり、自分に直接関係のない、幻影としての刺激にそこまで酔い痴れることができるというのは、自分には感動の材料が何もないという、空っぽだという、鉛色の日々を延々と送っているばかりだという、鉛色の日々を延々と送っているばかりだという、そんな実態に閉じこめられ、そこから抜け出す努力もせず、外から与えられる〈幸福もどき〉を待っているばかりという、何ともだらしのない、あまりに他律的な人生を送っているからではないでしょうか。
 そんなあなたは、あの大地震と、あの大津波と、あの原発犯罪を、今回のオリンピックの一件と同様、退屈極まりない人生に刺激を与えてもらえる起爆剤として受けとめ、世間に調子を合わせ、お祭り気分を楽しんだだけなのではないでしょうか。実際には、腹を立てたふりをして楽しみ、悲しいふりをして楽しんだだけなのではないでしょうか。
 そうなると、オリンピックのような国際的な、国威発揚のほか諸々の打算のヘドロに塗りこめられた不純な行事に無邪気に大喜びする者たちは、勇気をもらった、元気をもらったというたぐいの、自分自身を欺くための偽りの感動の言葉にすがって、結局は不毛なおのれを誤魔化し、狡猾な連中のカモにされっぱなしの一生を送ることになります。それではこの世を生きたことにはなりません。単なる〈感動ごっこ〉の不気味な人生なのです。


【眞人堂編集部からのお知らせ】
丸山健二『白鯨物語』刊行記念講演
ハーマン・メルヴィル原作/丸山健二著『白鯨物語』刊行を記念しまして、12月1日に講演会を開催致します。
演目は、
【第一部】なぜ『
白鯨物語』を書いたのか
【第二部】丸山健二文学賞を目指す人へ
です。
各1,500円(総入れ替え制)で、チケットぴあでも取り扱っています。
皆さまのお越しをお待ちしています。
詳細は以下をご覧下さい。

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