国家のため、国民のためを心底から願う為政者が、原発やら戦争やらに焦点を絞って活動するはずはありません。安心と安全を政策の基盤に据えるかれらが、わざわざ破滅の道を辿るわけがありません。戦勝国家から腑抜けにさせられるために押しつけられたものとはいえ、現存することによって少なからず世界に光明を投じていた平和憲法を消し去ろうとするのは、人類における最大の理想を放棄してしまうことになるのです。
 この気高い理念を現実の苛酷さを盾に蔑ろにするということは、本当の人間になるための資格と権利を自ら獣のどぶ池に棄てるに等しく、ひとたびそれを容認してしまえば、この世は生きるに値しないという答えを差し招くことになり、あとはもう地獄の底でうごめく、不気味にして醜悪な、動物以下の、化け物になるばかりでしょう。
 国家を国家たらしめようとすることと、愛国の精神とはまったく別物で、その動きが過剰になり、締め付けがきつくなるほどに、国家は悪の色を濃くしてゆき、本来自由であるべき国家の形態からどんどん離脱してしまい、ついには悪の化身となり、軍人が両肩で風をつんざきながら闊歩するようになる頃には、国家自体がひとつの魔物となり、あとはもう凶事の洪水に呑みこまれるばかりなのです。
 いつの間にやら時代が古び、一部の支配階級のなかで激しく渦巻く、持てる者としての不安とさらなる欲望が膨張し、ひとえにかれらのためでしかない愛国の精神と道徳とが幅を利かせ、それを失うものなど命くらいしかない、国民という名の奴隷にそれを徹底して植え付けようとしています。そして、驚くべきは、そんな破滅に直結する路線を若い者たちが支持しようとしている風潮です。かれらは自分を国家に抹殺してもらいたいのです。