この国を支配する者たちは右傾化を本気でもくろみ、つまり、あの太平洋戦争を差し招いた時代の国家体制に引き戻そうと考えているようなのですが、しかし、かれらはどこまでも情緒的な発想に終始し、ナルシシズム的なイメージのみを軸に据えて推し進めようとしています。愛国主義、民族主義を、国家主義を全面に打ち出すことによって、この国を具体的にどっちの方向へ持って行き、そしてその可能性がどれほどかを冷静に考え、メリットデメリットを秤に掛け、当面の目標として何をなすべきかといった、為政者としては当然の思考をまったく働かせず、というより、そんなことなどいっさい念頭に置かず、単なる安っぽいダンディズムに則ってそうしているだけなのです。
 これほど危険なことはありません。先の先生の動機でさえも、その大半は思いこみの激し過ぎる情緒によって占められており、戦争ほど現実的なものはないにもかかわらず、現実に目を向けず、自己愛的で幼稚な独断主義に支えられていました。そして結果は当然、歴史に刻まれた通りの悲惨な上にも悲惨なものになったのです。日本を敗戦に追いこんだアメリカが押しつけてきた憲法が気に入らないからという、そんな民主主義は日本のアイデンティティーを蔑ろにすることにほかならないという、ただそれだけの駄々っ子に等しい口実で、あの異様にして異常な、原始的で野蛮な時代や国家へ回帰したいというのでは、まったく同じ悲劇の再現になることは必至であって、子どもでもわかるような事実を考慮に入れずに、ムードだけで皇国的帝国の再構築をめざしているとすれば、それは真の理性とは相反する、ヒステリックという言い方を超えた狂気の発想であり、もしその流れを止められない場合は、これまで以上の破局に粉砕されること請け合いなのです。