かなり怪しげな伝統だけが頼りの、ちょっと理性を働かせてみればその矛盾と不条理にたちまち気づいてしまう、ごく普通の人間を現人神などと祭り上げることでしか国民の結束を固めることができない、そんな異様にして異常な時代と国家へと逆戻りさせることを大真面目に考えている連中がいるらしいのですが、かれらはかつての大失敗をどう捉えているのでしょうか。あれはたまたま運が悪かっただけで、もう少し頑張ればあの戦争に勝利することができたとでも本気で思いこんでいるのでしょうか。世界一の貧乏国として国民が究極の耐乏生活を強いられ、国家予算の大半を軍事費に充てて軍事力を膨らませ、ぎりぎりの状態で侵略戦争を始めたらどうなるのかという、こんな簡単な答えも出せなかったような愚かな過去を踏襲しようというつもりなのでしょうか。
 軍事大国というかたちは、国民にも為政者にも軍人にも極度の緊張を強いるものであり、その緊張感の心地よさに酔い痴れていられる期間は極めて短いのです。過激な状態はけっして長つづきせず、遅かれ早かれ暴力的に弾け、弾けることによってさらなる膨張を得られるのではないかという過大にして甘い期待感とは裏腹に、結局は一挙に収縮へと向かう羽目に陥り、ゼロ点へ戻るどころか、這い上がることがとても困難な大幅なマイナス点へところがりこんでゆくことは自明の理であって、例外は絶対にあり得ません。
 平和な時代を退屈に思い、その退屈を紛らわせるためにはあとはもう紛争や戦争しかないという、ストレス解消の延長線上にある切羽詰まった思いは、自分の人生を自力で開発できない、愚者の発想でしかないのですが、そこがまた愚かな上に強欲で非情な権力者たちの目の付けどころでもあるのです。