丸山健二文学賞が求めてやまない小説についてもう一度指摘しておく必要がありそうです。当初あれほど強く言っておいたにもかかわらず、応募原稿の大半が、何よりもまず説明的で安易な会話から抜け出せていません。こうした従来の、そして当たり前になってまかり通っている不自然極まりない会話の形式ですが、このやり方ですと何千枚でも何万枚でも書くことができ、ために、作品がとりとめのない、ゆるゆるの締まりのないものに墜ち、あげくに真実味や信憑性からどんどん離れてしまい、従来の、書いた当人と、それに類した、ともかくナルシシズムを刺激してくれる小説ならばなんでも受け容れてしまう読み手にしか支えてもらえない、実におめでたい代物と化し、それならば既成の文芸誌の新人賞でも狙ってくださいと言いたいのです。
 また、地の文にしても、中途半端に気取った、あるいは、ありきたりな表現ですっかり満足している節が見受けられ、カラオケ大会ではけっこういい点数を出せるような歌い方なのですが、しかし、歌手のなかの歌手と言えるほどにまで伸びる才能の片鱗はかけらも見いだせません。
 そこへもってきて、中身のほうもまた文章と同様、これまた陳腐で、あるいは、普通で、あるいはまた、感動とはほど遠い内容で、文芸誌の新人賞の最初の予選で落とされてしまう程度しかなく、どうやら、そうしたところで蹴られたためにこっちへ応募してきたというだけの動機と受け取らざるを得ない状況なのです。
 何かそれらしいことを書きさえすれば、何よりも作者自身が酔い痴れさえすれば、その感動がそのまま赤の他人に伝わるという甘過ぎる発想から一日も早く離れてください。