国家の支配層の手先である為政者たちが少子化問題を殊のほか気に病むのは、国民のためを思ってのことでは断じてなく、ひとえにかれら自身の窮地に直結する切実な課題であるからなのであって、それ以外ではありません。
 労働奴隷としての、もくしくは自分たちを守らせるための兵士奴隷としての、かれらの贅沢な暮らしを保つための人間の数が減ってゆくということは、かれらにとっては深刻極まりない話であっても、国民自体にとってはどうでもいいことなのです。このままでは国家が成り立たなくなってしまうという論理は、どこまでもかれらにとっての理屈であって、私たちにはなんの関係もないのです。
 そもそも子どもをもうけるかどうかという、自由であるべき個人にとって最も大切な問題に国家権力が口を挟むことは、国家なくして社会なしという妄言と同様、断乎として拒絶しなければなりません。国民は国家をわが物にしている特定少数の人間を支えるための、使い捨ての道具ではないのです。子どもを安心して預けられる施設を増やし、母親も安心して働ける社会をめざしたいなどという、為政者のお為ごかしのたわごとに騙されてはいけません。母親が育児に専念しても生活できる社会にするというのならまだしも、両親ともに精いっぱい働いて、ぎりぎりの収入でどうにか家付き、子ども付きの、一般的な幸福な暮らしを維持できることが、本当に幸せな人生と言えるのでしょうか。あなたはそれで人並みの日々を手に入れたと受けとめて満足するつもりなのでしょうか。
 子どもを持つ喜びという、動物的な一時の迷いに振り回されて理性を有する人間的な判断を疎かにすることでしたり顔するのはあなたではなく、実際意はかれらなのです。