その「音」が聞こえるとき | 団塊Jrのプロレスファン列伝

その「音」が聞こえるとき

どうも。流星仮面二世です。
 
ということで新シリーズです。ここでは、これまでに自身が体験した怖い話や不思議な話をご紹介していき、ご意見交換や謎解きなどができていけたらなぁと・・・そんな趣向でございます。よろしければお付き合いください。よろしくお願いいたします。
 
第1回目は中学3年の秋から冬にかけ体験した、ボクとある「音」との不思議なお話です。
 
あれは中学3年の秋。1987年の10月初旬のことです。
 
普通でしたら、この時期は・・・中3って受験で大変な時期なんですが、実はスポーツ特待で高校が早めに決まってしまっていたボクは勉強なんかはもうまったく・・・いやいや、失礼。お察しの通り、それより以前からやっていませんでしたけど、まあそんなわけで。この時期は勉強もせずひたすら夜更しするのがおもしろくて。とにかく夜な夜な、いろいろなことをしていました。
 
とは言っても夜遊びとか、そんなふうにどこか出掛けるというものではありませんでした。やることといえば夜遅くまでAMやFMのラジオ聴いたり、こっそり起き出してテレビの深夜番組視たり。その程度のことでしたが、これまでに経験したことのなかった深夜という未知の時間帯をひとりで過ごすのは、それはそれはおもしろかったのです。
 
そんな夜更しでしたが、実は一番やってたことはラジオ聴いたりテレビ視たりすることでもない「ノートに書き記す」という単純なものでした。
 
中学時代はずっと日記も書いてたのですが、その他にもプロレスのこととか好きな子のこととか・・・日常に思ったことや世の中の出来事とか、そういったものに持った感情、感想をいろいろ書くのがとにかく好きで、よくやっていました。思えば、ちょうど今のブログの原型みたいな感じでしょうか。本当、勉強はしませんでしたけど文章を書くのは好きだったので、ほぼ毎晩のように書いてました。
 
夜というのは不思議なもので、この文章を書くという動作が実に軽快に進むものでした。そんなこともあり、その夜もたくさん書いていました。布団に入って、うつ伏せになり・・・部屋の電気は消して、枕元に電気スタンド置いて照らして。その体勢で書くのが好きでした。挿し絵なども入れたりして、結構なページ数をそれはそれは書いてました。
 
今になって振り返ると、つくづく変なやつだったと思いますが・・・まあ、とにかくそんな感じで、その夜もバーッと、いろいろ書いてたんです。で、どれくらい経ったでしょうか?ふと気がつくと、遠くからバイクのエンジン音が聞こえてきたのです。時間は夜中の2時半くらいに差し掛かるところでした。
 
ボクの実家は、すごい田舎です。信号機も自販機もなく、あるのは田んぼと畑と山ばかり。当然、道も狭かったので夜中に車両が通るなんてことはもちろん、人っ気もありません。夜は真っ暗で、とにかく静かでした。
 
なので田舎のヤンキーが流しながらやる、いわゆるバイクで走りながらコールを切る音。それが遠くから聞こえてくるこというのはよくありました。そう、テレビの警視庁24時などでたまに見かける「ボォーンボボボォーンボボ ボンボンボーンボボ」っていう、あのアクセルを煽ってやるあれです。
 
最初は、その音だと思いました。しかし徐々にハッキリと聞こえてくると、それはコールの音ではなく「アイドリング音」だったんです。
 
ボクの兄は小さい頃から車やバイクが大好きでした。当時、高校生だった兄はバイトで買ったバイクを自分でチューンし、それでレースに出ていたくらいだったので、とにかくそっち方面にはめっぽう詳しい人でした。門前の小僧習わぬ経を読むとは言ったものですが、ボクもそんな兄と過ごしているうち、いつのまにかそっち方面にも結構な知識がついていました。なので、その聞こえてきたアイドリング音が原付のではなく、ちょっと排気量のあるやつというのは中学生ながらすぐわかったのです。
 
当時、同じ集落には高校生が兄を除いて3人いました。みんなバイク持っていたので、そうか。誰かが遊びに行ってて、帰ってきたんだろう。なんて・・・そのときはあんまり気にもせず、先ほどのノート書きの続きを始めました。
 
それから15分くらい経ったでしょうか?一段落し、ふと我に返ると・・・まだあのバイクのアイドリング音が聞こえていたんです。
 
「(なんか変だな?)」
 
そう思い、その音を集中して聞いてみることにしました。
 
すると・・・
 
「ボッボッボッボッボッ・・・」
 
という単なるアイドリング音ではなく、
 
「ボォンボッボッボボッ・・・」
 
という、アイドリングの中にアクセルを開く動作が少しだけ入っている音だったのです。それが、ずっと続いてたんです。
 
「(何をしてるんだろ・・・?)」
 
そう思って布団から出て、カーテンを開けて外を見てみました。

もちろん何も見えないんですが、さっきほどよりは聞こえるようになったので戸も開けて耳を澄ましてみました。するとその「音」は結構な距離から・・・遠くから聞こえてるということがわかりました。そして少しずつ大きくなっていくその感覚から、ゆっくりな速度ではありますが進行方向はこちら向きだというのもわかりました。

こうして近づいてきた「音」は、やがて進行を停止したかのように一定音で聞こえ始めました。そこは家から南側の、ちょうど集落の入り口あたり。家から6、700メートルくらい先のところのようでした。
 
「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」
 
まちがいありません。確かにバイクの音です。でも、その聞こえ方は不思議なものでした。そう、地上からの排気音というよりは、空から・・・いや、なんて言えばいいのでしょうか?空までは高くない位置なのですが、こう空中を介して広い面で伝わってくるような?ちょっと不思議な感じの聞こえ方だったのです。
 
やがて「音」はゆっくり、本当にゆっくりと遠ざかり始めました。だんだんと小さくなっていき、少しずつ遠ざかっていき・・・やがて完全に聞こえなくなりました。
 
なんだったんだろう?ただただ不思議な感覚のまま布団に入り、その夜は寝ました。
 
翌日。バイクに詳しい兄に聞けば何かわかるかな?と思い、昨夜の一部始終を話してみました。すると・・・
 
「乗り手が何をしてたのかはわからないが、アイドリングだけでそれだけ遠くからそんなふうに音が聞こえるってことはまずないな。よっぽど大排気量のがマフラー入れてるか、あとは直菅(マフラーから触媒などの消音装置をなくした状態のもの)にしているなら、条件次第では多少は離れていてもあるかもしれないが」
 
という見解でした。
 
確かに音というのは地形や建物の構造の影響で意外なところから伝わってくることがあります。なのであの「音」は距離や場所、構造など、音が届く条件が何かしらの理由で偶然に揃ってしまったため、遠くから聞こえてしまっただけ・・・だったのかもしれません。
 
でも、そういう条件下で聞こえたとしても「アイドリングで動いていた」という、その理由がわかりません。
 
「(バイクのエンジンをかけ、乗らないで押して移動すればアイドリングで移動できるけど、でもあんな距離を・・・そんな疲れるだけのこと普通しないよなぁ?あ、そうか!バイクを軽トラに積んで、そこでひとりがバイクに乗って荷台でエンジンをかけて!で、もうひとりは軽トラに乗って、ゆっくり走ればできるじゃないか!!ひとりは車、ひとりは荷台でボォンボォンって・・・しないよなぁ)」
 
アイドリングで動いてくるということ・・・それはあまりにも不自然で意味不明だったのです。あれは一体、なんだったのでしょうか?謎は深まるばかりでした。
 
それから約1ヶ月後。「音」の件もすっかり忘れてしまった11月のある夜。その日は学校で写生会があったので、描いた絵を家に持って帰り、遅くまで仕上げをしていました。
 
いやらしい話になりますが、こう見えても絵は得意な方で・・・小・中と毎年、展覧会に選出されては賞をもらうことも少なくありませんでした。なのでこういうときは気合いが入ってしまい、それこそ集中して時間が経つのも忘れて描いてしまうほどでした。
 
と、そんな感じで黙々と描き続け、どれくらい時間が経ったでしょうか?
 
「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」

 ふと気がつくと、あの「音」が聞こえてきたのです。
 
「(ん!?・・・あれはいつかの!!)」
 
そう思ってすぐ立ち上がり、またカーテンを開けて戸を開けて「音」の方を見つめ、聴力を研ぎ澄ませました。
 
同じだ、シチュエーションも間も・・・はるか遠くから空中を介し、広い面で伝わってくるあの独特の聞こえ方も!!まちがいありません。あの日と同じ「音」です。
 
でも今回は、それが以前より少しずつ、少しずつ・・・大きくなっていくのがわかりました。そう、前回よりこっち方面に近づいて来ていたのです。
 
そして「音」は、あるところまで来ると、その動きを止めました。
 
「(音はしてるが移動は止まった。多分、消防団の詰所の先あたりだ・・・)」
 
その消防団の詰所は、家から約200メートルくらいの距離にありました。家からは遠くありませんが、ここからだと竹やぶや民家に阻まれ見えません。しかし火の見やぐらは見え、火事のときにはサイレンも鳴る場所なので自分の持っていた距離感にそう誤差はありませんでした。

あの辺に来てるのか・・・

しかし、まもなく「音」は動き出しました。今度は方向を変え、だんだんと遠ざかり始めていきました。
 
戻り出した・・・そう思いながら聞こえなくなるまで外を眺めていました。やがて完全に聞こえなくなった頃、時計を見ると3時近くになっていました。
 
「(おかしい。なんかおかしい)」

これまでバイクのアイドリング音と考えてきた「音」。しかし感じ始めていたのは、この世のものではないのではないか?という感覚でした。

しかし不思議なことに自分の中に怖さはありませんでした。知りたいのは正体・・・絵具をしまい、その正体を熟考しながら、その日は寝ることにしました。
 
次の日は、すっきりしませんでした。寝不足というのもありましたが、明るくなってから冷静に考えると、いろいろと不可解なことが溢れ出てならなかったからです。
 
「(同じ間隔でアクセルを開ける独特のアイドリング音。遠くから空中を介してくる独特の聞こえ方。通りすぎるのではなく向かってきて離れていく。午前2時半から3時という時間帯・・・出現は不定期だけど、忘れた頃に出てきては少なくとも2回あった。おれが早く寝た日なんかはどうなんだろう?鳴っているんだろうか?目的は何なんだ?)」
 
わからない。まったくわからないのです。バイクならどうなのか?この世のものじゃなければ何なのか?日々いろいろなことを考えてみましたが、何もわからず・・・こうして日が経っていくと徐々に「音」の記憶は薄れていき、またも忘れていくのでした。
 
それから2ヶ月経った、年も開けた2月。その日も夜、布団の中でノートを書いていました。
 
そしてそれは、ひと通り書き記し、そろそろ寝るか・・・と電気スタンドを消し、目をつむりウトウトし始めた頃でした。

「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」

「(・・・れ・・・?)」

「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」

「(あれ・・・?あれは!!)」

そうです。あの「音」が聞こえてきたのです。

急いで起き上がり、カーテンを開けて戸を開けて、以前と同じように「音」の方へ目を向けました。
 
それは以前と同じように遠くから聞こえ、ゆっくりと近づいてきました。時間をかけ、少しずつ近づいてきて、そして・・・やがて「音」は前回止まった消防団の詰所のあたりに差し掛かりました。
 
しかし方向は変えず、もう少しだけ近づくと、そこから変な?動きをし始めたように感じたのです。遠ざかることなく近づくことなく。でも止まってるわけでもなく・・・何か横に動いているような?そんな感じに聞こえていたのです。

「(もしかして、これ・・・)」
 
ボクは以前には感じなかった、得体のしれない違和感にとらわれました。もしかして「音」は・・・いや、そんなはずは・・・

でも、それは「音」がにわか考えられない方向から聞こえてきたことでハッキリしました。
 
にわか考えられない方向。それは・・・
 
ボクの実家の側面には車がやっと1台通れる幅の細い一本道があります。その道は家の前後に延びており、後方はボクの実家と隣家が家に入るためだけにしか使われていない、いわば実家と隣家の専用道路のような道なのです。
 
それでもその道は、まだ家まで入るのに使われているだけマシなのです。問題は家より前方に延びている方の道です。
 
ここは後方より道幅が狭く、車両なら軽自動車が通るのがやっとです。そして、その道から入れる家もないので、もはや近隣住民が歩行や自転車ですら通ることのない"沈黙の道"なのです。
 
なので地元はもちろん、土地勘のない、まったくここのことを知らない人が「たまたま通る」ということは絶対にありえないのです。もし通るということがあるとするならば、ボクの実家か隣家に用があって来た人が「意図的に通る以外、通ることのない道」なのです。
 
「音」が右折してきた道は、その「意図的に通る以外、通ることのない道」だったのです。

「音」は曲がってきたのです。消防団の詰所の先を左折し、そして右折し、その道へ入って来たのです。
 
「(マジか!!)」
 
やがて「音」は、その道に沿って鳴り出したました。それはまるで母親が乳母車を押すような速度・・・少しずつゆっくりと、まっすぐこちらに近づいてきたのです。
 
「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」
 
「音」は淡々と進み、やがて家から約20メートル先に見える、道が竹やぶと荒ら屋から生え出た木々で覆われたトンネル状のところから聞こえるようになりました。

そこは、夜はまさに漆黒。月夜でさえ真っ暗で何も見えないところです。その暗闇の中に、あの「音」は今いるのです。
 
「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」
 
刻一刻。さらに「音」は近づいてきました。しかし怖さはまったくありませんでした。むしろこれだけ自分に疑問を投げかけた「音」が近くまで来ていて、ついに正体を見れるという、その気持ちのみがいっぱいだったのです。

「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」

これだけ近ければわかります。今、出てきています。竹やぶから出てきます。もうこの距離なら、もう絶対に見えます。

しかし、それはまったく予測できない事態でした。

「(な、なんだこれ・・・いないぞ!!)」
 
「音」こそ近づけど、そこに姿はありませんでした 。バイクのヘッドライトのような光も、もちろんありません。暗闇から出てきたのは、あの「音」だけ・・・だったのです。
 
「(これはぁ・・・)」
 
しかし「音」は、そんなボクの気持ちなど知る由もなく近づいてきます。ゆっくり、ゆっくりと・・・そしてとうとう、その距離わずか6、7メートルあまりという家の角のところまで迫りました。
 
「ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・ボォンボッボッボボッ・・・」
 
「音」は来ました。もはや位置もわかりました。なのに・・・何も見えません。ボクには何も見えないのです。見えたのは「音」だけ・・・だったのです。
 
その後、来た道を戻るように「音」は引き始めました。ゆっくりと、少しずつ・・・あの竹やぶを抜け、その先へ。「音」はだんだんと小さくなり、やがて聞こえなくなったのです。

ボクはそのあと、しばらくその道を見つめていました。理由はわかりませんが、何か切なさにとらわれて・・・その道を見つめ続けていたのでした。
 
この1ヶ月後、ボクは中学を卒業。その後、高校、社会人と・・・あれから約35年が経ちました。しかしあの日以降、あの「音」がボクに聞こえたことはありません。
 
ずいぶん時間が経ちましたが、今でもたまに「あれは一体・・・」と考えることがあります。
 
遠くから聞こえ始めて、4ヶ月。近づいては引き返し、また近づいては引き返し、ついには家の前まで来た「音」。あの「音」は何だったのだろう?何のために来たのだろう?何を・・・伝えたかったのだろう?

結局、何もわかりませんでした。でも・・・「音」はボクの住んでる集落を知ってて、それで来ていたような、そんな気がするのです。「音」は、この地に所縁があった何か・・・だったのかもしれません。
 
不思議な、とても不思議な体験でした。