不妊症という言葉を使うのはやめよう | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

生殖医療に携わって25年目ですが、「不妊症」という言葉にずっと違和感を持っていました。医療者以外の方も当然その感覚を持っていらっしゃると思います。ですから、「不妊外来」とか「不妊治療」という言葉もなるべく使いたくないと思っています。適切な日本語にできないものか、長年考えていました。数年前に「日本不妊学会」も「日本生殖医学会」に名前を変えましたが、「生殖医学(生殖医療)」では固すぎると思います。「望妊」「未妊」という言葉も使われていますが、何かしっくりきません。省略しすぎなのだと思います。

英語では、infertility(不妊症)= in(否定語)+ fertility (妊娠する力、妊孕性)という意味なのですが、専門用語の英語を日本語に訳す時に、違和感のある訳になることが少なくありません。そもそも 「infertility」という単語が「不毛」という意味であるため、根本的に好ましい単語ではありません。一方、英語には都合が良い接頭辞があって、subfertility(妊娠しにくい状態)= sub(下)+ fertility という言い方もあります。そもそも不妊症の半数は原因不明なのですから、「in(不)」などの強い否定語を使うことは控えた方がよいのではないかと考えています。さらに、「症」というのも症状のことを意味するのでしょうが、もっと曖昧にした方が良さそうな気がします。

僕の個人的な提案ですが、
「不妊症」➡「子供が欲しいカップル」a couple who wants children
「不妊外来」➡「妊娠外来」fertility (outpatient) clinic
「不妊治療」➡「妊娠治療」fertility treatment
というのはどうでしょうか。あくまで、希望があっての通院や治療です。また、あえて「不」を付ける必要もないかと思っています。
心のケアが大切な分野ですから、生殖医療に携わる者として、もう少しデリケートな気持ちで用語の選定をしてはどうでしょうか。