癌の治療による卵子のダメージ | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2013.3.14「癌の治療による精子のダメージ」では男性の癌患者さんにおける、精子の状態について紹介しました。本論文は、癌の治療(抗癌剤治療)による卵子のダメージは、アルキル化剤を用いた場合とAMHが2.0以下の場合により強く起きることを示しています。

Fertil Steril 2013; 99: 477
要約:11歳~35歳までの46名の女性で、癌と診断され初めての抗癌剤治療を行う前後で、卵巣予備能(AMH、前胞状卵胞数、FSH、インヒビンBなど)を3ヶ月に一度測定し、前方視的に検討しました。癌の種類は多い順に、悪性リンパ腫28%、乳癌26%、白血病9%、肉腫9%となっていました。卵巣予備能は抗癌剤治療中低下し、特にアルキル化剤(72%で使用)を用いた場合に顕著でした。抗癌剤治療終了後に卵巣予備能は徐々に回復しましたが、AMH>2.0 ng/mLの方では、1ヶ月あたり11.9%ずつの回復に対し、AMH=<2.0 ng/mLの方では、1ヶ月あたり2.6%の回復に留まりました。

解説:アルキル化剤はマスタードガスの研究から開発された、細胞傷害性抗癌剤の代表的な薬です。アルキル化剤は、細胞のDNAのコピーができないようにするため、アルキル化剤が結合した状態で癌細胞が分裂・増殖しようとすると、DNAがちぎれてしまうため癌細胞が死滅します。婦人科癌、血液癌、脳腫瘍などの治療にしばしば用いられます。アルキル化剤には、シクロホスファミド(エンドキサン)、イホスファミド(イホマイド)、ブスルファン(ブスルフェクス、マブリン)、メルファラン(アルケラン)、ダカルバジン(ダカルバジン)、テモゾロミド(テモダール)、ニムスチン(ニドラン)、プロカルバジン(塩酸プロカルバジン)、ラニムスチン(サイメリン)などがあります。本論文の結果から、抗癌剤治療前に、アルキル化剤を用いる場合とAMHが2.0以下の場合には、患者さんに卵巣予備能の低下がより強く起きる可能性とその対処法について説明すべきと考えます。