Q&A 3 ☆タイミング治療でよくある質問 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

タイミング治療について質問がありました。具体的でとても密度の濃いものですので、ブログ内で回答させていただくことにしました。

27歳、妊娠トライ8ヶ月、通院3ヶ月、もともと生理不順(38~55日周期)、排卵障害と診断、精液検査と卵管造影検査は異常なし、フェマーラ1錠を生理3日目(D3)から5日間内服し、D3とD5にhMG注射、卵胞検査後hCG注射によるタイミング法で治療中。
今周期、D10で卵胞18.6mm、子宮内膜6.7mmでhCG注射。注射後の基礎体温は5日かけてゆっくり上昇(いつもはすぐに上昇)。排卵後3日間は下腹部がチクチクもやもや腫れてるような痛みが継続。排卵したことはエコーで確認済み。

Q 今回、卵胞があまり育っていない状態でhCG注射により排卵したため黄体ホルモンがあまり出なかったのではないでしょうか。
1 次周期からの治療について、卵胞が20mm以上を超えてからhCG注射を打つのがよいか(理想は何mmで打つのがよいか)。3周期連続で投与した薬や注射の影響を考え、一切の投薬をやめ自然周期でチャレンジするのがよいか。
2 排卵時の子宮内膜7mm前後で着床は可能か。
3 D10でのhCG注射は早すぎるか(排卵がD12)。最低でも、何日間卵胞を育てるべきか。
4 D13にフーナーテストを行ったところ、頸管粘液が少ないが、精子が1視野に10匹いたので問題ないと言われました。頸管粘液が少なくてもフーナーテストの結果が良ければ、卵管まで精子は泳いでいけるか。

A 非常によく勉強されている方からは、このような具体的な質問があります。しかし、卵胞計測や内膜計測で得られるデータは絶対的なものではありませんし、人間の身体は機械ではありませんから、教科書的な話が全ての方に通用する訳ではありません。そのギャップを埋めるのは、医師の経験に依る所が非常に大きいと思います(ですから、パソコンドクターのようなプログラムを作るのは難しいと思います)。
1 フェマーラによる排卵誘発はクロミッドの場合と異なり、小さめで早めに排卵する傾向があります。hCGを打つタイミングは、フェマーラの場合卵胞が18~20mm、クロミッドの場合卵胞が20~25mm程度です。また、もともと排卵障害がある方では休薬すると全く卵胞が成長せず排卵が起きないことが多いですので、今は休薬する時期ではないと思います。休薬の時期は、薬剤に全く反応しなくなった時です。
2 凍結融解胚移植での子宮内膜は、移植時に8mm以上あれば問題ないとされています(7mmという報告も6mmという報告もあります)。排卵時であればそれよりも2mm程度薄くても、その後に十分厚くなると思います。つまり、排卵時の子宮内膜は6mm以上あればよいと思います。むしろ、私は排卵前に黄体ホルモン(プロゲステロン)が上昇してしまう場合の方が着床の時期がズレてしまうため問題が大きいと考えています(詳細は、2012.12.28「採卵前の黄体ホルモン(P)上昇」を参照してください)。
3 大切なのは、卵胞を育てる日数ではなく成熟した卵胞が(たとえ何日かかっても)育つかどうかです。キチンと育てば妊娠の可能性はありますが、時間がかかる場合には途中で成長が止まることが多くあります。逆に速く育つ場合には問題はありません。自然排卵のある方での卵胞の成長速度は自然周期と刺激周期で異なり、刺激周期では約2日短くなります(2012.11.13「卵胞の成長速度は?」をご覧下さい
4 フーナーテストは、単に子宮頚管に精子が入れるかどうかを見ているにすぎません。したがって、卵管まで精子が到達しているかを予測することはできません。しかし、もしフーナーテストの結果が悪かったとしたら、卵管まで精子が到達していない可能性が高くなります。つまり、フーナーテストは結果不良の場合に意義のある検査といえます。

経過を見て私が気になったことは、「27歳」と「排卵障害」です。このような方には投薬が必須です。もし「排卵障害」だけが問題だとしたら、投薬により排卵がうまくいけば妊娠するはずですが、それでも妊娠しないとすれば不自然です(詳細は2012.10.18「20代の女性の不妊治療は簡単?」をご覧ください)。つまり、もっと重大な原因が隠されている可能性があります。今後3周期同様の治療をしても結果が出ない場合には、ステップアップを考慮すべきと考えます。一般検査の段階では半数が原因不明ですが、ステップアップすることによって解決される問題も多くあります。体外受精まで行うと原因不明は12%にまで減少します(詳細は、2013.4.16「不妊原因について」を参照して下さい)。どのようにステップアップをすべきかについては、2013.1.29「妊娠への早道:アメリカ編」も参考にして下さい。投薬を気にされる方は、2013.5.27「女性ホルモン剤を使うのは心配ですか?」をご覧いただくと、投薬のレベルとは桁違いに妊娠中には女性ホルモンが増加することがおわかり頂けると思います。

また、非常に誤解されていることが多いのは、「基礎体温が万能」であるという考え方です。基礎体温は1日1回しか測定しませんから、24時間ごとの体温の変化にすぎません。超音波もホルモン検査もない時代には有用なものでしたが、現在では「精神的ストレス」の一因である割に得られる情報が少なく、誤った情報をもたらすこともあるため、私は基礎体温をつけることを推奨していません。高温期を作るのは「黄体ホルモン」ですが、黄体ホルモンがどこで作られるかというと、排卵した卵胞の抜け殻からです。つまり、排卵する卵子は毎月変わりますから、毎月「黄体ホルモン」の出所も変わります。簡単に言うと、良い排卵があれば良い黄体期(十分な黄体ホルモン産生)ができ、悪い排卵があれば悪い黄体期ができます。つまり、黄体期は卵子の質とリンクしている訳です。ですから、基礎体温も毎月パターンが変わります。良い卵子が出るか悪い卵子が出るかは、偶然の産物であり、誰にも予測も調節もできません。

最後に、理想的なタイミング(性交渉)の時期は「排卵日の前日と前々日」ですから、hCGの注射を打った日とその翌日になります(詳細は2012.9.18「タイミングの取り方間違ってませんか?」を参照して下さい)。産婦人科医の中でもご存知ない方が多いと思いますので、これまでの3周期は排卵日を狙ってhCGの2日後にタイミングをとられたのではないでしょうか。これからの3周期のタイミングでは、「排卵日の前日と前々日」をぜひ試してみて欲しいと思います。